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神華  作者: 紫音
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一章 三十話




 

 ひと眠りして目を覚ました優斗は、昨日負傷して眠るように気を失った真司の為に、薬湯を作り救急箱と一緒に持って真司の寝室に入る。優斗が入って来た音で真司は目を覚ました。まだ寝ぼけているようで現在おかれている状況を把握しようと優斗を見る。

「おはよう。はい、薬湯作って来たから飲んで」

「あぁ、ありがとう」

 体を起して優斗が差し出す薬湯を口に含んで独特の苦みに顔を歪める。いつも優斗の作る薬湯は苦みが薄いはずなのに今回の薬湯は特別苦みが強い。昨日一日、真司と麗華が行方をくらませて迷惑を掛けた恨みが籠めてある味がする。苦みに文句を言えない後ろめたい気持ちがあるので、感謝だけ述べて器を返した。

「怪我の具合はどう?」

 優斗が救急箱を空け包帯や湿布の取り換える準備をしながら確認する。真司は自分の体を軽く動かして体調の確認をした。まだ軽く痛みが残っているが、昨日の比では無いほど回復している。打撲や切り傷の様子を見ても、ほぼ治っていた。

「大体治っているみたいだ。昨日手当てしてくれたんだろ。ありがとう」

「手当てはしたけれど、ここまで早く治るのって変じゃないか? 昨日何が在ったの?」

 ここまで治りが早い事を優斗は不信に思う。優斗に疑惑の目を向けられて、思い当たる節を考えてみた。怪我の治りが早い事で、思い当たるのは一つだけ。昨日麗華の血を分けて貰った事だ。血を飲んだ事で、力の戻りが速くなり自己再生能力も上がったのだろう。

 真司は麗華の血を飲んだ事を優斗に打ち明けるべきか、少し考える。

 元々陰の神華不在の為に陰の守護家は、飢餓状態が続いている。その為、陽の神華である彰華から力を分けて貰う事になり、彰華に負担が大きくかかっていた。でも麗華から、定期的に力を分けて貰う事が出来れば、飢餓状態から抜け出す事が出来る。その朗報とも言える情報は、陰の守護家の者に伝えるべき情報だ。

 だけれども、その情報を伝えてしまえば、余計に麗華がこの華守市から離れられなくなる。麗華が夏休みを終えた時に、この町から離れやすくする為に、字が読める事を隠していると言うのに、血の話をしてしまえばその意味が無くなるかもしれない。

 血の事を優斗に言えば麗華は嫌がるだろう。なるべく、麗華が困る事態に追いやりたくはない。

 だが、同じ陰の守護家として飢餓状態の苦しみを知っている真司は、優斗に隠している事は出来なかった。

 昨日、麗華と口裏を合わせて作った空間の狭間に落ちたと言う話をして、そのさい何度か危険になった時に麗華の血を少し分けて貰ったと話した。

 ただ、一度口にすれば病み付きになってしまう、魅惑的な甘みがある事は言わなかった。


「ってなわけで、麗華にも藤森家の血はちゃんと流れていたみたいだよ」

「随分危険な事をしたね。妖魔が居る所で神羅刀を使わないで、血を回復するまで血を飲むなんて、麗華さんにもしもの事があったらどうする気だったんだよ」

「僕だって初めは止めたさ。でも、麗華が無理に飲ませたんだ。それにそんな大量に血を分けて貰った訳じゃない」

「少量でも、効き目があったてこと?」

「そう。ただ、この世のモノとは思えないほどもの凄く不味かったけどね」

「それでも、回復はしたんだろ。いいな。俺も少し分けて貰いたい」

「止めた方がいいと思うよ。それに僕が昨日気絶するほど力を消耗していた事を覚えていない訳じゃないでしょ。あまり効果が無かったって事」

 偽りの情報を教えても、優斗なら麗華に頼んで一口血を分けて貰うと分かっている。今言った事が嘘だとすぐにばれるだろう。それでも、素直に本当の事を言いたくないと思ってしまう。

「真司で自己再生能力は上がるって証明されてるんだから、効果あるだろ。……何か他に隠してる事があるんじゃないか?」

 優斗の鋭い勘に、真司は言葉を濁す。

「なにも、ない。話した通りだよ」

「本当に? 大体、空間の狭間に落ちたって話も嘘だろ。空間に歪があったら分かるのに、そんなばれやすい嘘を考えるのは真司ぐらいだ。彰華たちにもばれてるよ。ほら、後々問題になるから今のうちに、本当の事を吐いちゃいなよ」

 真司もすぐに嘘だと分かってしまうと思っていた。でも、それ以外にいきなり姿をくらました理由が思いつかなかった。訓練所に入ったと言えば、芋づる式に麗華と秘密にした事がばれてしまう。証明する事が出来なくても、麗華と真司が口裏を合わせて黙っていれば絶対に本当の事を知られる事はない。

「僕は本当のことしか言っていない」





 優斗は真司が頑なに隠そうとしている事を不思議に思う。一体昨日何があったのだろう。真司の性格上、一度言わないと決めたらその事を隠し通そうとするだろう。麗華に関わることである事なのは間違いないのだから、隠されると余計に知りたくなる。

 優斗の荒木家には自白剤の秘薬は伝わっていないが、真琴の水谷家には伝わっているはずだ。本当に言う気が無いなら、薬を盛る事を検討した方が良さそうだ。


「……優斗は麗華が夏休みを終えて、自分の住んでるところに帰る事どう思う?」


 麗華さんが華守市を離れる?


「不思議な事聞くね。麗華さんは藤森家の血族なんだから、この地から離れるなんて事はないだろ」

「でも、麗華は家に帰る気満々だ。藤森家には遊びに来るぐらいがちょうどいいと思っているし」

「そんなの、菊華さまが許すわけがない。裏で着々と転校の手続きとか進んでいるはずだよ」

「本当?」

「麗華さんは元々一週間の予定で華守市に来たけど、滞在日数増やしだろ。バイトがクビになって暇になったからだって。菊華さまが麗華さんと話した数時間後にクビになったんだ。菊華さまが裏で手を回したって直ぐ想像が付く。その手際の良さからも菊華さまのお考えになってることがわかるよ」

 いかにも藤森家らしいやり方だと思う。

「本人の意思とは無関係に事を進めたら後で、うるさいんじゃないの?」

「その辺は、菊華さまが説得なさるよ。真司は麗華さんが華守市から離れてもいいのか?」

「僕は、麗華は地元に帰るべきだと思う。このままだと、陰の神華の代役を押しつけられる事になるよ。力のない奴がそんなこと考えるだけでぞっとするね」

「俺はそれでもいいと思うけどな」

「はぁ? 本気で言ってるなら頭がどうにかしちゃったんじゃないの?」

「してないよ。麗華さんが神華の代役でもいいと思う一番の理由は、彰華が拒否しないからだ」

 陰の神華の代役を彰華の妹に務めさせる提案が出た時に、陰の守護家はもちろん彰華もそんな事をする必要はないと一蹴した。菊華の考えで麗華に代役にしているとしても、神華である彰華が拒否すれば、代役に立てたりしない。

 神華である彰華が黙認している。それが何を意味するか、優斗にとっては何より気になる事だ。







 十時頃になり麗華はあわただしく廊下を走りぬける。手には、麦茶の入ったコップを乗せたお盆。廊下ですれ違った真琴に不思議そうに声をかけられた。

「そんなに急いでどうしたの?」

「大輝君に麦茶もってく途中なんです!」

 朝方大輝に一日奴隷になると約束してしまった麗華は、起きると同時に携帯電話で呼び出された。携帯番号を教えた覚えはないのに何故か、大輝は麗華の携帯番号を知っていた。電話で二分以内に麦茶を持ってこいと言われ麗華は、まだ覚えて間もない藤森家の廊下を走り麦茶を運ぶ。

 急いでいたので、軽く会釈して真琴と別れ大輝の部屋に走り込んだ。


「麦茶もってきました!」

 ベッドに転がり携帯を触っていた大輝は起き上がる。

「おせーよ。六分三十五秒もかかってる」

「なに、計っていたの?」

 携帯のストップウォッチ機能で計っていたようで画面を見せられた。電話で時間を計ると言っていたがまさか本当に計っているとは思わず、軽く脱力する。

「しかも、持って来方がなってない。入室の声もかけないでいきなり開けんなよ」

 大輝に睨まれて、麗華はお盆を持ったまま部屋を出る。そして大輝の部屋の障子を閉めて、廊下に正座して一から入り方をやり直す。

「失礼いたします。麦茶お持ちいたしました」

 ちょっとしてから大輝が「入れ」と声がかかる。障子を丁寧に作法道理に開けて一礼してから大輝の部屋に入る。テーブルにコースターを置いてコップを置き正座して一礼。

 菊華に朝の挨拶する際に女中が遣る仕草を真似てみた。大輝が文句を言うからやり直してみたが、嫌味ぽかっただろうかと様子をうかがう。

 ちょっとむっとした顔をしていたが、何も言わずに麦茶を一気飲みした。

「もう一杯持ってこい。一分以内な」

「えー。無理だよ。一分以内とかどんなに頑張っても五分はかかるよ」

「早く行けよ。もう、時間計ってるぞ」

 大輝が意地悪く笑う。麗華は仕方なくお盆を持ってまだ食堂まで走って行った。

 麦茶を持って行き、また食堂まで走らされると言うやり取りが二回ほど続き、三度目に麦茶入りの水差しを持って行き出してみた。すると他のアイスやらお菓子をとって来るように言われて走らされ、何度も食堂と大輝の部屋を走って往復する事になる。

 元々無理な時間設定なために、一度も大輝の指定する時間以内に持って行く事が出来なかった。


 罰として、廊下を逆立ちで歩くように言われたが、逆立ちは出来ても歩く事が出来なくて廊下に大の字に倒れた。大輝の大笑いの声と麗華の倒れた音を聞いて、優斗、真司、蓮が何事かと部屋から出てきた。

 頭や腰を押さえて痛がっている麗華と笑っている大輝を見て、大輝が麗華を倒したと勘違いした三人は大輝ともみ合いになりそうになった。慌てて麗華が事情を説明して場をおさめた。

 今日一日大輝の奴隷であると説明すると、三人に呆れられた。


 馬鹿だと責められる前に、話題を変えようと麗華は、いまだ腕に包帯を巻きつけている真司に起きて平気なのかと声をかける。

「まぁ、起きて平気なぐらいには治ってるよ」

「それは良かった! それにしても、あんなに傷負ってたのに守護家って本当に怪我の治り早いんだね」

 気絶した真司の怪我の具合を心配していたから、治りが早くてホッとした。真司が意味ありげな視線を送って来るが、麗華にはその意味が良く分からない。

「麗華さん、昨日真司に血をあげたんだってね」

 優斗が「お菓子をあげた?」と聞く様な、特に意味を持たない軽さで言うので、麗華は特に考えずに頷く。

「うん。ちょっとだけね」

 蓮と大輝が少し驚いているのを見て、やってはいけなかったのだろうかと不安になる。真司を見ると何故か、軽く頭を押さえてため息を付いていた。

「ほら、一応私も、藤森家の血族だから、ちょっとは効果があったみたいで……」

「どのくらい血を分けたの?」

「指先をちょっと切ったぐらいだから、そんなに多くはないよ」

「そっか、じゃあ俺にも少しだけ血を飲ませてよ」

 優斗が軽く笑って言う。血をあげる事態は献血だと思えば抵抗感はないが、真司に指を舐められた舌の感覚が指先によみがえり顔が熱くなる。優斗にも同じことをされるとしたら避けたい。無意識に指を背に隠し一歩後ろに下がる。

「あ、あの。出来れば、遠慮したいんだけど」

「少しだけだよ。神羅刀って彰華から血を分けて貰う時に使う、専用の刀を使って少し切るだけだから危険はないよ」

 彰華が遣る方法だったら、直接指から血を飲むと言う事はしていないだろう。少しホッとするが、神羅刀という刃物で体を切ると聞くと少し恐い。

「刀で切るんだよね、痛くないの?」

「少し切るぐらいなら痛くないと思うよ」

「でも、緊急時じゃないのに、血をあげるのは嫌だな。優斗君は痛くないだろうけど、体を傷つけて痛い思いをして血を流すのは私なんだから。優斗君が前に言っていた私に藤森家の血が流れているかって知りたいなら、真司が証人って事でいいじゃない」


「……あれ? 何で真司だけ呼び捨て?」

 優斗が目ざとく気が付いて不思議そうにする。

「それは昨日、さんざん『あんた』って連呼するから、『麗華』って呼んでって言ったら真司も呼び捨てでいいって言われて」

「なら、俺も同い年だし、呼び捨てでいいよ」

「でも、優斗君って優斗『君』って感じだよね」

「なんで?」

「なんとなく。イメージ? その方が呼びやすそうだから、駄目?」

「……いいけど。じゃあ話を戻して、本当に少しだけでいいから、針でちょっと刺したぐらいで」

「そんなに、欲しがるようなモノじゃないと思うけど? まぁ、そのくらいなら……」

 針で少し指すぐらいなら痛みも少ないと思い頷く。優斗は嬉しそうに笑う。

「ありがとう。じゃあ儀式の準備をしてくるよ。すぐに整えるから少し待ってね」

「ぎ、儀式?」

「少しでも藤森家の者から血を分けて貰う時は、それなりの準備をしないと危険なんだ。あと菊華さまにも断りを入れないといけないから」

 嬉々として足早に麗華たちから離れて準備に取り掛かりに行く優斗の背中を見送る。


「ちょっと針で刺すぐらいでもなんだか大事みたいな扱いになるんだね」

「藤森家の血はそれだけ重要なんだ」

 蓮が軽く眼鏡を正しながら言う。あまり自分の血に特別意識が無いからいまいちピンとこない。

「そっかぁ……」

「俺も麗華の血に興味がある。少し分けて貰いたい」

「え。蓮さんも? 血って美味しくないと思いますよ。止めた方が……」

「俺も」

「大輝君も!?」

 大輝から血を分けてほしいと言われると思っていなかったので驚く。

「俺の場合、神羅刀でバッサリと切ってくれ。一日言う事聞くって言ったよな」

 約束してしまった手前、断り辛い。

「バッサリ切った血とか飲んで気持ち悪くならないの?」

「不味かったら、飲まない」

「それじゃあ私が痛いだけじゃない」

「俺が痛い訳じゃないから気にしねーよ。で、実際の所これの血、不味かった?」

 真司は麗華の血が甘いと言っていた。その事を考えると少し嫌な予感がしてくる。

「昨日だって麗華は僕に血を分けているんだから、そんなに、血を分けてたら麗華が倒れるじゃないの? がっついて貰おうとするな。意地汚い」

「今日一日俺の奴隷なんだから、どう扱ったって俺の勝手だろ!」

「調子に乗るな」

 蓮と真司の二人から睨まれて、大輝は舌打ちする。

「麗華も嫌なら断りなよ。今ならまだ間に合う」

「うん。でも、献血だと思えば良いわけだし、だから大丈夫だよ」

 


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