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神華  作者: 紫音
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一章 十二話



 大広間で宴会のような夕食が終り麗華は、用意された自分の部屋で一息ついていた。携帯電話を片手に地元に居る友人たちに暫くこっちに滞在することに成ったとメールを打つ。メールを打ち終わると、テーブルの上のお菓子を摘み、麦茶を飲む。

 この屋敷にはエアコンや暖房器具が見当たらない。それなのに真夏を感じさせない居心地の良さがあるのは、この藤森家に掛けられている、数多くある呪いの一つだ。

 夕飯前に真琴が買って来てくれた服で、着せ替え人形化され、あれこれ遊ばれた。その所為で少し疲れた。動きやすい服を頼んだが全てスカートだった。日用雑貨は全てどピンクで派手なハートやキラキラした物が沢山付いた物だった。何故これを選んだか聞くと、その顔が見たかったからと笑顔で言われた。


 携帯電話の時計を見ると七時半を示していた。何気無く部屋の窓を開けて、外の景色を見る。少し離れた場所に森が見えた。この部屋の裏はあの森に繋がっているようだ。空を見上げるがまだ、薄明るいので星は見えなかった。


「麗華、ちょっといいか」

 戸の外から彰華の声が聞こえた。麗華は窓から離れて戸に向かい開ける。

「どうしたの?」

 戸を開けると彰華は部屋の中に入り、手に持っていたビニール袋をテーブルの上に置きその場に座る。目線で麗華にも座るように合図を送ってくる。

 何気無く戸の外を見るが、いつも一緒に居る守護家女子陣は居なかった。何しに来たのかと不審に思いながら戸を閉めて麗華も座る。

「何か不便はないか?」

「全然ないよ。至れり尽くせりって感じで、助かってるよ。あ、そうだ。お金ありがと、お昼代そこから出させてもらったから」

 借りていた財布を彰華に渡すが、彰華は受け取らない。

「何か入り用な時もあるだろ。しばらく持っていて良いぞ」

「簡単に言うけど、これお金入りすぎで気が引けるからいいよ」

「そんなに入ってなかっただろ」

「万札が五枚以上入っていたら、十分だよ」

 彰華は不思議な生物を発見したような顔をする。

「君はどんな生活をしていたんだ?」

「それは、こっちの台詞です」




 彰華は改めて藤森家での生活の注意点を説明しに来た。

 部屋から出る時はお守りを持つ事、離れから出る時は必ず人に声をかける事、母屋には許可なしに入らない事、森には一人で入らない事、用事がある時は誰かに声をかける事、戸口に岩本家の式神が待機しているので、声をかければ人が来ると、説明していく。

「その、岩本家の式神ってずっと戸口に居るの?」

 それでは、まるで監視している様でされている様だ。

「神経質になることはない。この屋敷の部屋全ての前には必ず一体は居て、部屋の管理を任されている。番犬が居るとでも思っていればいい」

「番犬って……。見えないから分からないけど、どんな形なの?」

「大きさは十五センチほど、人型で狩衣を着ている。それと兎のような耳と、狸のような尻尾があるな。屋敷内をちょこまか走り回って中々可愛らしいぞ」

 そういえば、蓮の案内で菊華に会いに行く時に式神に躓いて転んだ事があった。その時、蓮もちょろちょろしていると言っていた。その姿を想像して、見えないことが残念になる。

「いいなぁ。そんな可愛らしい姿なら私も見てみたい。言葉も喋るの?」

「いや、言いたい事は動作で判るが、言葉は岩本家の者にしか伝えない」

 小さな姿で言いたい事を動きで伝えている様子を想像して、微笑ましくなる。

「だが結構しつこい性格だから、気をつけないと酷い目に遭う。前に屋敷内で麻美と大輝が大喧嘩して二、三部屋を全壊させた事があってな。その部屋の担当していた式神達が怒って、二年ぐらいは会うごとに嫌がらせをしていた。岩本家も自分達が管理している屋敷を壊され、頭にきていたから止めようとしなかったから二年も続いたのだがな。まぁ。藤森家の人間にはめったな事はしないだろうが、自分たちを見ることが出来ない人間が屋敷に居るのは初めてだから、ちょっかいをかけて来るかもしれない。気をつけるように」

「気を付けるって、見えないのにどう気を付けるの」

「部屋を必要以上に汚さない事と、一日の終わりに戸口に飴をひとつ置くといい。そうすれば、下手にかまわない筈だ。何かに躓いて転んだ時は見えなくても謝る事だ。何かに引っ張られることがあったら、無視せず何かの合図だと思え」

 彰華が持ってきたビニール袋から飴の袋を二つ出す。

「ありがと。ねぇ、式神に名前ついてるの? 見えなくても名前呼べば愛情が出るかも」

「名前は岩本家しか知らない。それに、名前は主しか呼んではいけないものだから、知ろうとするな」

「他の人が呼んだらどうなるの?」

「力が有るものなら、契約が上書きされて式神を自分のものに出来る。自分の物を横取りされたら不愉快だろ」

「なるほど。でも力のない私みたいな人ならどうなるの?」

「力なのない者が呼んでも契約が上書きされる事はないが、簡単な命令なら聞かせることが出来るようになる。どちらにしても、式神の主には直ぐに判るので、不愉快に思われるだろう」

「そうなんだ。わかった、名前呼ばないようにする」

 といっても、姿も声も聞こえない麗華には名前を知ることは出来ない。


「それと、これはここに居る間付けてるといい」

 差し出された袋から皮製のベルトのような物が出てきた。ベルトにしては不思議な形で何故か南京錠がついている。これが何なのかさっぱり判らない。

「何これ?」

「貞操帯だ。俺が少し術を加えといたから、守護家の者でも取れないようになっている」

「貞操帯ってなに?」

「セックスや自慰を防ぐものだ。下着のようにつければいい」

 真面目な顔して言う彰華の顔を、しばらく唖然として見つめ、それから持っていた貞操帯を彰華に思いっきり投げつけた。

「なに、馬鹿なもの渡してるのよ!!」

「馬鹿とは心外だな。処女のようだからこれにしといたのだが、ピルの方が良かったか?」

 軽々と投げられたものを受け止めてテーブルの上に置く。麗華は顔を真っ赤にして怒鳴る。

「な、な、何言ってんの!? 何でそんな話になるのよ!?」

「君が藤森家に滞在するなら、避妊は最も重要なことだ。高校生で妊娠はしたくないだろ」

 麗華はテーブルを叩く。

「だ・か・ら! 何でそんな話になるのよ!」

 彰華が慣れた手つきで麗華の肩を掴み引き寄せ、腕の中に麗華を入れる。そして、もう片方の手で頬を触る。彰華の綺麗な顔が至近距離に見え、驚きで動きが止まる。

「若い男女が一つ屋根の下で住む事になるのだから、そういうことになってもおかしくないだろ?」

 優しく頬を撫でる仕草は慣れているだけあり、不快な感じはさせない。

 それでも、そういう行為の対象として見られているとは全く思っていないし、仕掛けられるのも腹立たしい。

「私と彰華君が? ありえないでしょ」

「俺はなくても他が居るだろ」

「守護家男性陣を言っているなら、余計ありえない。あの人達、私の事は嫌ってるみたいだし。まぁ、優斗君とは少し打ち解けたけど、そういう関係では全くない」

「今はまだ、だろ。これからどうなるか分からない。それに、麗華がその気じゃなくても、向こうがその気になるかもしれない。あいつらが本気になったら力のない君は子猫同然だ」

 麗華は彰華の腕の中から逃げようともがくが、放してくれない。

「嫌がってる女の子抱くような、人たちには見えないけど」

「守護家の者にとって、藤森家の者とのセックスは最高に具合が良いと聞く。好奇心で試して見たくなる事もあるだろう。俺の妹が、守護家が本家入りしている時、岩本家に預けられる理由のひとつでもある」

 守護家男性陣の顔を思い浮かべても、麗華とその行為を望んでいるとはとても想像出来ない。だが、彰華が嘘を言っているようにも見えない。本当にそういう話があって忠告しに来たのだろう。


 でも、男の力は女より強い事を示すように押さえつけられ、身を持って教えているその行為が、やはり腹立たしい。


「わかった。気をつけるようにするけど……」

 視線を軽く落として、落ち込む表情を作った後、麗華は彰華に思い切り頭突きをした。驚きと痛みで彰華の手が外れた隙に腕から抜け出して立ち上がり、戸を開けて出て行くように手で示す。

「ご親切に教えてくれて有難う。よくわかったわ。私もそれなりに自己防衛していくから、安心して。それと、気安く人に触れて良いって勘違いしているようだけど、普通はこうなる事になるって覚えといてね。あとテーブルの上にあるのは要らない。持ってかえって」

 顔を抑えながら彰華は麗華を恨めしそうに見る。

「君は、人が、折角忠告してあげているのに……。石頭が」

「うん。だから、有難うってお礼言ったじゃない。男性不審になりそうな貴重な忠告有難うって」

「可愛げないな」

「自分を崇めてくれている様な女の子しか知らないからそう思うんでしょ。私は至って、普通です」

 

 麗華と彰華はにらみ合う。彰華がふと、テーブルの上に乗ったままの麗華の携帯電話を見る。何かに気が付いたようにストラップを指差す。

「これはどうした?」

「え? あぁ。優斗君から貰ったの、綺麗でしょ。結構気に入ってるんだ」

 彰華が何か納得したように軽く笑う。

「優斗が君にね……。確かにいい出来だ」

 彰華がストラップの紅水晶を掴み額にあて何か呟き、不思議そうに戸口で見ていた麗華に渡す。

「急いで作ったのだろ。少し穴があったから塞いで完全にしておいた。俺が手を加えたおかげできっと効果絶大だ」

「……ありがとう。彰華君もお守り作ったりするの?」

「あぁ。護符関係は得意だな。……いい恋愛が出来ると良いな。それじゃあ、おやすみ」

 ニアリと笑って、麗華の肩を軽く叩いて廊下に出て行く。お守りを作れるならこれが何のお守りだか直ぐにわかったのだろう。最近ふられた事も知られている。麗華が恋愛をしたくて必死になっていると、思われた気がして、恥ずかしくなってきた。


 彰華の後ろ姿を消し去るように、戸を閉めてフラフラと歩きテーブルに伏せる。そして、頭突きした頭を押さえて痛さで悶える。彰華が居る手前強がっていたが、実は頭突きした自分の頭もかなりの痛かった。彰華は麗華を石頭だと非難していたが、彼も十分石頭だ。




 テーブルの上には彰華が置いていった飴の袋と貞操帯が残ったままだ。何処でこんなものを手に入れたのだろうと不思議に思いながら、貞操帯を袋の中にしまい、明日彰華に押し返そうと決める。

 本当に、彰華の言うとおり、狙われていたりするのだろうか。少し、不安になるが、やはりそんな目で、見られているとはとても思えなかった。変に意識して接したら、今でも嫌われているのに更に嫌われる。それに、相手に対しても失礼だ。

 今まで通り接するのが一番だと言う結論に達した。



 開けたままで居た窓を思い出し、虫が入ってくる前に閉める事にする。外を見ると、暗闇で星が輝いていた。暗い森に向い誰かが歩いているのが見える。こんな時間に懐中電灯も持たずに森に入る気で居る。毒蛇も居るといっていたのに、命知らずの人も居るらしい。それとも、慣れた森だから平気なのだろうか。

 誰だろうと、見ていると不意にその人物が麗華の方を見た。眼鏡が光に反射してギラリ輝く。森に向っていたのは蓮だった。麗華と目が合うと、眼鏡を軽く正して、こっちに近づいてくる。なんだろうと、不思議に思っていると話せる距離まで来て止まる。

「夜に窓は開けるな。早く寝ろ」

 蓮はそれだけ言うと、振り返って森に行こうとする。言いたいのはそれだけだったのかと少し驚いてから、麗華は蓮を呼び止める。

「あ、蓮さん! こんな夜に森に何しに行くんですか?」

「お前には関係ない」

 眼鏡が光に反射してギラリと輝く、その効果で凄味が増している。少し怯むが、蓮の言う事も最もなので、麗華は軽く手を振る。

「暗いんで気をつけてくださいね。それじゃ、おやすみなさい」

 蓮は少し麗華に視線をやっただけで、返答なく森に向って歩いていった。後ろ姿を見送って、麗華は窓を閉めた。


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