出会い<2>
―――――タンタンタン
「(…イチャイチャはおかしかったでしょうか…?でも、やっぱり気になります。なぜ、私が委員長だと…。それにあの男子生徒。どこかで見たような気がするのですが…)」
「おっ、いいんちょーじゃーん」
「ほんとだ」
咲の向かい側から歩いてきた男子生徒二人が、妙なテンションで話しかけてきた。
「(…この人たちはこのあいだナンパと、制服を乱しているので注意した…。ああ、さっきの男子生徒もきっとそうですね…。きっと私の思い過ごしですね)」
咲はいろいろ考え始めた。
すると、二人の内の片方が
―――――パッ
咲の眼鏡を奪った。
「…え…(視界が少しぼやける…)」
咲が二人を見ると、彼女の眼鏡を持って話していた。
「見ろよこの黒ぶち!」
「っっ!かっ、返して下さいっ!」
咲が二人から眼鏡を取り返そうとするが、男子生徒はそれを持ったほうの手を高くあげた。
「おっ、いいんちょー眼鏡の下の顔かわいいじゃん!」
眼を丸くして言う。
それは冗談ではなく本当のことで、咲のルックスは母親譲りの美人だった。
「!?なんでもいいですから返して下さいっ!それは母からもらった大切なものなんです!」
「ムキになつてるとこもかわいいじゃん」
「っっ(…これだから、だから男なんて…)」
咲は諦めたのか、うつむいてしまった。
するとその瞬間―――――…
―――――ヒョイ
男子生徒の手から眼鏡が消えて
「返してやりなよ。みっともない。それに、「ムキになってるところもかわいいじゃん」とか、マニアックだね」
二人の後ろから声がした。
「え…」
『なっ、朝比奈…』
そこに立っていたのは、朝比奈雪だった。
雪の右手には咲の眼鏡があった。
「な、なに言ってんだよ。お前だっていい加減注意されてうざいとか思ってんだろ??だったら…「なに言ってんの…さっと戻りなよ」
『…あ、ああ』
そう言い残すと、二人の男子生徒は去っていった。
咲はその様子を見ていて、驚いてしまった。
なぜなら、自分が今さっきイチャイチャとボタンで注意した男子生徒が自分を助けてくれたからだ。
「はい、これ」
雪は眼鏡を咲に差し出した。
「ど…どうして…助けてくれたのですか」
「え…なんとなく」
そこで初めて咲は気がついた。
雪が、自分が注意したところをちゃんと直してくれていたことに。
「(ボタン…ちゃんととめてある)」
「ところで…君、だれ?」
―――――ガクッ
「(私がだれだかわかってない…)わかりませんか??」
「まったく」
そう言って、雪は自分の顔の前で手を左右に動かしている。
「では、こうしたら…」
―――――カチャ
咲は閉じてある眼鏡を開いた。
そして、ゆっくりとそれをかけた。
「…わかりますか??」
「あ、委員長。すごいね、眼鏡かけるかかけないかで別人のようだよ」
雪は驚いて目を丸くしている。
「そ、そうですか?」
「うん。眼鏡ないほうがいいと思うよ」
「そう…ですか。でも、それはできませんよ。これは母が私に買ってくれた最後のものですから」
咲はそう言って、急に悲しい顔をした。
「…」
「母は一年前に父と共に亡くなりました」
「…。ごめん、なんか悪いことを聞いたね」
雪の口から意外な言葉が出てきて、咲は驚いた。
「え…」
「なに。意外だった?」
「えっ」
鋭い。
「あ、と、とにかく…あ、そう。あなたの名前はなんですか?学年とクラスも」
咲が焦りながら聞くと、雪はけげんそうな顔をした。
「なに言ってるんですか。君と同じクラスの朝比奈雪ですよ」
「…え?(だ、だからどこかで見たことがあるような気がしたんですね。私が委員長だと知っていたのも納得がいきます)すみません。クラスの人の名前と顔がまだ一致していないもので…」
「まあ、しょーがないんじゃないですか?俺もわからないし、委員長のことも委員長としか知らないし」
「そうですか…あっもうこんな時間…すみません。私はこのチェック表を提出しないとならないのでこれで失礼します」
「…そんなにあるんだ」
咲の腕の中には、どっさりとチェック表があった。
「はい。…あの」
「なに」
―――――ニコッ
「!」
「ありがとうございました」
咲はそう言って歩き去った。
「…今の笑顔…今、見たらなぜか胸が苦しく…なった??」