第9話『おぉ、心置きなく話ができる友よ』
「ネモーネさっきはありがとう」
「全然いいよ。アルアさえよかったら、これからもよろしくしてもらえると嬉しいな」
「そりゃあもう大歓迎さ。こっちからお願いしたいぐらいだ」
授業が終わり、改めてネモーネと顔を合わせる。
さっき思った通り、ゲーム内キャラということを考慮しなければ長い白髪というのは、どちらかというと女性をイメージしてしまう。
でもここはゲーム。男が白髪だろうが、紫や青などの髪色だって別に不思議じゃない。
だがゲームだからなのか。
あまりにも顔が整っているだけじゃなく、中性的な声……というのか女性的な声とも聞き取れるから紛らわしい。
まあ自分のことを僕って言ってるしスカートじゃないから男で間違いないんだけど。
「俺さ、まだ友達ができていなかったからネモーネと話ができてよかった」
「僕も友達が多い方じゃないし、クラスメイトと話すのって案外緊張するよね」
「そうそう。なんで同じ空間で学業に励んでいても、どこか距離感があるみたいな」
「わかるよー。僕も同じ理由で他のクラスメイトに話しかけにくいもん」
「だよなー」
「だよねー」
あまりにもネモーネと話が噛み合いすぎて嬉しくなってきた。
話をしている内容が本当にそのままだったとしたら、俺と同じタイプで集団の中に入るのが得意ではないということになる。
誰かと話しをすることは苦手ではないが、自分から誰彼構わず話しかけるには抵抗が生まれてしまう……と、共通点があることが嬉しいけど。
でも、表情が柔らかかったり不慣れとは思えない笑顔を前にすると、本当に俺と同タイプなのか怪しく感じてしまう。
これから仲良くなろうとしている相手に『何を考えているんだ』という話だが、俺がサラッと話しかけてしまうぐらいには物腰が柔らかそうだった。
というか、相手側から話しかけてきやすい雰囲気を漂わせているというか身にまとっているというか。
「もしよかったら今日の昼飯は一緒に食べないか?」
「いいけど、さっきお弁当がどうのこうのって話をしていなかった?」
「あー、まあ。でも、『食べ終わったら感想をちょうだい』って話だったから、一緒に食べる流れではなかった」
「だったら大丈夫だよ」
「よしきたっ」
あまりにもスムーズな約束の取り決め。男同士だからできる気軽さは、本当にありがたい。
この世界はファンタジーというのは名ばかりで、誇張なしになんでもある。だから学食に行けばラーメンもあるし焼肉のタレがかけてある定食も食べることが可能だ。
そして、それらを堪能するにはやはり男! 味が濃くても気にせず誘えるし、気兼ねなくどんちゃん騒ぎしたりできるのはありがたい!
「なあネモーネ、もしよかったら放課後にご飯とかどう?」
「え、行きたい!」
「ラーメンにハンバーグ、牛丼屋もいいしファミレスでパスタとかもいいな」
「……いいね、僕も好きだよそういうの」
「よしきたっ。さすがに2店舗はいかないけど、どこがいい? あ、でもそもそも場所がわからないからオススメとかないかな」
「あーでも外食するなら、ちょっと移動時間もあるから今日は厳しいかも」
「ありゃ。用事がある感じか、それは仕方がない」
「まあ用事と言えば用事だね」
あれ、これもしかして俺だけがテンション上がっているだけで拒絶されていたりする?
「明日とかだったらいいよ」
セーフ、セーフ、セーフ。
顎に指を当てて目線を上に逸らされたときには、さすがに焦った。
でもそうだよな。もう相手はゲームのキャラクターだけの存在じゃないんだから、気持ちを考えて発言したり行動しなかったら拒絶されたり嫌われたりするよな。
相手を不快にさせる前に気が付くことができてよかった。気を付けていかないと。
「でもあれだよね。もっと生徒同士の距離が近かったら、授業中に話ができたり助け合ったりできるのに」
「たしかに」
俺が学生だった頃の机は、1人1人が机と椅子を自分の領域として定められていた。
でも机自体が大きくなかったからこそ、簡単に移動することができて隣同士で机をくっつけることができた。小中学校の頃は、それで給食をグループ分けして食べていたもんな。
グループトークや班分けとかも――ああ懐かしー!
それに比べて現在は。
よく大学の講義で扱われているような、階段状の教室に長机が設置してあって椅子だけが独立している。
椅子だけを移動させるだけだから、机と椅子を動かすよりも楽になったと言えば楽だけど……なんかこう、何かが違うんだよなぁ。
物理的な距離が開いてしまって、さっきまで抱いていたように心の距離も遠くなってしまうような、そんな感じがしてしまう。
「まあでもそんなことを気にしていても仕方がない。先生が許可してくれる時間のときは、またお願いするよ」
「うん、こうして休み時間にわからないことを聞いてくれてもいいから」
「ありがとう、そういってもらえるとめっちゃ助かる」
「じゃあ、また後で」
「ああ」
そろそろ次の授業の準備を始めなくちゃいけない。
まだまだ話をしていたいけど、煩わしくも感じるけど――これはこれでいい。なんていうか、学生生活を楽しんでいる感じがして。
そして、また話ができるという安心感というか親近感というか、これが友達! って思えるのが嬉しくなる。
だが、ふと思う。
今日は、やたらと「じゃあ、また後で」というフレーズを耳にしている。
よくある別れ言葉であり、言葉通りにまた会うのだから別に不思議なことじゃない。
でも今日だけで頻繁に聞くと違和感がある。
別に誰かを疑うような必要はないと思うけど、なんだろうなぁこれ。
思い返せば、クラスメイトに言われるならまだしも別クラスのミセルに言われたことがおかしくないか?
ゲームで1週目に必ず攻略するメインヒロイン的立ち位置な彼女だが、今日はもう顔を合わせるようなイベントはないはず。
また明日の登校するときに顔を合わせるイベントがあって、また偶然が重なって短い距離を一緒に登校する流れになる。
まあでも、これも考えたって仕方がない。
誰にでも言葉選びを間違えるときだってあるし、ゲームのイベントみたいに「そんなことある?」っていうイベントみたいに同じ言葉を耳にするときだってあるよな。
そう、これはゲームだが、今は現実だ。
さて次は移動だ。
みんなの後を追っていかないと迷子になってしまうから、行かないと。




