第8話『問題は攻略可能なヒロインが誰か』
さて、次の授業は座学実技。
教室を移動することなく、ド派手な魔力操作を行わず、基本的には椅子から立ち上がらない。
ただ授業の流れで先生からの指示に従い、繊細な魔力操作などで頭と手を使う授業となっている。
それはそれとして。
授業で移動を伴うことが基本的にないからこそ、隣の席にあたるクラスメイトと話す機会が増えたりもする。
ゲームをやっていたときも、顔と名前すらない世界観を説明するだけの舞台装置みたいなNPCでしかなかったクラスメイトと。
そして今、隣席の人に話しかけるタイミングが訪れた。
初対面の人に話しかける、あの独特な緊張感はあるけど、相手は男子。人見知りが発動するかもだけど、抵抗感はないし気負う必用はない。
「ね、ねえ。教えてほしいことがあるんだけど」
「うん、いいよ。一緒にやろう」
あまりにもスムーズな快諾、さすがは男同士。とりあえず声をかけるアクションを起こしたのは正解だった。
少し長め? の白髪を束ねていて随分と新鮮さはあるけど、もはやゲーム内のキャラにそのような感想を抱いていても仕方がない。
元々住んでいた世界でも、マンバンヘアースタイルというものもあるぐらいだ。
「ペンを持った状態から浮かすことはできるんだけど、置いた状態からが難しくて」
「ああ、それは風魔法が得意じゃないと難しいよね」
「お、じゃあ」
「先生も言っていたけど、要はイメージ次第」
先生は言っていた。
物体に対して魔法を発動させるのか、魔法を発現させた結果なのか、物体が魔法の影響を受けてどう動くのか――。
イメージ次第で『物体を浮かす』という結果は全員が一緒でも、その過程や影響が異なってくる、と。
正直、小難しいことはわからない。
けどたぶん、『浮かす』『浮かされる』『浮かし終わった後』、『飛ばす』『飛ばされる』『飛ばし終わった後』、みたいな感じで分かれる話なんだと思う。
「風をなびかせたり、肌を撫でる風をイメージすると葉っぱとかは浮くけどペンは浮かばない」
「たしかに」
「だから、突風や竜巻なんかをイメージすると重い物体でも浮かんだり飛ばすことができる」
「ほうほう」
「こういう――感じっ」
言葉通りにペンをバッと飛ばして右手でキャッチ。
「飛ばしすぎは注意ね。天井に刺さったら怒られちゃうから」
せっかくお手本を見せてもらったが、ごめんわからん。
ニュースとかで見たことのある、車すら飛ばす突風をイメージしたらいいんだろうけど思い浮かべたところでできるきがしない。
でも俺は別のヒントを得た。
「こういう感じかっ」
「そうそう、上手い」
「なるほど。教えてくれてありがとう」
たぶん、目に見えないものをイメージして魔法に落とし込むことが苦手なのかもしれない。
だから今回は、親指でコインを飛ばすコイントスをイメージして、弾き飛ばすようにやってみた。
結果的に成功し、同じように浮かび上がったペンを右手でキャッチに成功。
魔法はイメージが大事ということ話だが、現実世界でアドバンテージがありそうな感じもある。
けどこの世界ではほとんど違いがないから、単純に俺が能力不足でしかない事実が明らかになってしまう。
くっ……せめて学力不足で落ち込むんだったら、素直に納得できた。
「そういえば改めて自己紹介。僕はウェスミスト・ネモーネ。アルアは憶えてくれてなさそうだったから」
「あ、ああごめん。い、いや違うよ? 俺は物覚えが悪くて頭の出来が良くないから」
「1回で名前を覚えるのは大変だったりするから仕方ないよ」
あぶねー。
人の名前を覚えるのが得意じゃないのは事実だけど、この世界基準で話をしたら既に自己紹介を終えている人だっているのか。
しかも今回は隣の席に居る人だから、名前を呼べなかったら超失礼な人になってたじゃん。
それを見越したうえで2回目の自己紹介をしてもらったってことは、既にそうに意識されているってことでもある……?
「さあアルア、次の課題が書き出されたよ」
「『魔法によって出現した現象を、魔力を追加せず威力を増大させる方法』か」
うん、わからん。
「難しく考えないでいこう。要は、魔法で出した炎をどうやればもっと燃やせるかって話だよ。」
「なるほど?」
「出現させた水を、どうやったら複数に分裂させられるかってことでもあるけど」
「難しくなっるから、炎だけで」
「こうやって炎を出して。水を魔法で出現させたら?」
「消える」
「じゃあ光魔法は?」
「炎を回復させたり補助しても意味はない?」
「そうだね。光魔法は、基本的に対象となるのは人か武器。燃えているに発動させても意味はない」
なるほどなるほど、こういった説明はありがたい。
元々のゲームはファンタジー要素はあったが、コマンドだけで使用することができた。
だから使用用途や原理みたいな説明をしてもらわないと扱いようがない。
「だから、今回は風か雷が該当するわけだね」
「ああなんかわかってきた」
炎は空気や酸素があると燃え上がるし、落雷の後に火事になることもある――という感じか。
「じゃあ僕が炎を出すから、アルアが風をお願い」
「微風なら任せてくれ――こ、こうかな」
「そうそう」
自信を持って言えることではないのはわかっているが、でもそよ風を意識して魔法を使ってみたら炎が気持ち程度ホワッと火力が上がった。
理想はボワッと燃え上がった方がいいんだろうけどね。
それにしても、こうして男と話をしていると本当に日常生活でしかなく、これがラブコメゲーということを忘れてしまう。
もはや学園全員が攻略対象とでも言えてしまえる状況だが、ゲームの謳い文句では全員で7人だったはず。
うち1人は1週目で攻略したフォーファノン・ミセルだけ確定しているわけだが……。
もはや俺からアプローチされるのを知っているから、あえて関りを持っていない可能性だってある。
それはそれで悲しいが……どうやって確かめたらいいんだぁ!
「――アルア?」
「ああごめん。次の課題だったな」
「次は――」
ネモーネと友達になって、学園生活を楽しみながら気楽に探していった方がいいか。




