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第7話『お姉さん系赤髪ロングな幼馴染?』

 ラーチェルと顔を向け合い、改めて思う。

 笑うと目が垂れて表情が柔らかい。包み込まれるような印象を抱いたのは、あながち間違いではなかったようだ。


 なんかこう、上手く説明できない安心感……ずっと小さい頃から近くに居た存在――そう、幼馴染みたいな、そんな感じ。

 だから、自然と目線を合わせることができる。


「じゃあじゃあ、アルアは寮で目を覚まして最初は何をするの?」

「顔を洗ったり口を濯いだり。朝食後に登校準備かな」

「へぇ~、そうなんだぁ」

「ほとんどの人がこんなものじゃない?」

「そうかも? でも、ちゃんと朝は起きることができているの? 寝坊とかしそうにならない?」

「たまになるよ。てか、こんなこと聞いて楽しい?」

「うん、楽しいよ」


 生活の一部始終を覗かれているような感覚があって、こっちからはしたら気恥ずかしさがあるんだけど。


「それでそれで、登校するときはどんな感じに来ているの?」

「寮を出たら歩いて、路面電車に乗る。降りたら、学園までの道を歩くだけ」

「なるほど~。じゃあ、誰かと一緒に来ているとかではないんだ」

「あ、でも今日は――」


 俺は言葉を途中で止める。

 気のせいかもしれないが、ラーチェルの眉間がピクッと動いたからだ。

 それがどうした、という話ではあるが、なぜだかわからないが今の話をそのままするのはマズい、と直感で判断した。


 だが、そこまで話をしていて逃れられるはずもなく。


「それって、誰?」

「1組のミセルって子」

「子? 女の子ってことかな」

「はい」

「今日はってことは常にというわけじゃないにしても、時々一緒に通っているってこと?」

「いいえ、今日が初めてです。偶然も偶然で、落としたハンカチを拾って、そこから」

「ふぅーん」


 な、なんだこの間合いは。

 今話をしているラーチェルだって、話すのは今日が初めてだ。だというのに、既に親密な関係性が構築されているような錯覚をしてしまう。

 年上の幼馴染……みたいな第一印象だったが、自然な流れで俺すらも疑うことがなくなってしまっている。

 なんと恐ろしい……。


 あと、なんで俺は問い詰められているんだ?

 そして、なんで俺は姿勢を正して弁明している感じになっているんだ?

 別に申し訳なる必要はないし、弁明する必要性だってないよな……?


「まあいいけど。でもやっぱり、わたしがどうにかしてあげた方がいいよね」

「な、何を?」

「いろいろと。アルアは細かいことを気にしなくて大丈夫」

「そうなんだ?」

「あ、そんなことより。ちょっと待ってて」


 教材を持って、その赤い髪の毛を揺らしながら席を立ったラーチェル。


 俺はなんでかよくわからない緊張感から解放され、息が詰まっていたことに気が付いて大きく息を吐き出した。

 少し冷静になって考えてみても、今の流れでこちらに非がある内容を話したとは思えない。勝手に感じ取っていた、と言えばその通りだから、本当に何とも言えない。

 状況的には、登校中のミセルが着火剤になった気もするけど……まさか知り合いだったりするのか? 因縁とか嫌煙の仲みたいな、そんな感じの。


 いや待てよ、ラブコメゲー的に考えたら……そうだ。女性と話をしているときに、『他の女性の話題を出すのはマナー違反』ということか! そうだ! きっとこれだ!

 なるほど。あっちの世界での恋愛的知識は持ち合わせていないが、ゲーム基準で考えたら答えを導き出せた!

 しかし思いあがっていはいけない。これすらも間違いだった場合を考慮する必要があるし、そもそも別件で気に障る発言をしてしまった可能性もあるし。


「お待たせ。これ、用意してきたの」

「何それ」

「お・べ・ん・と・う」

「え?」

「実は分量を間違って多く作っちゃったの。保存することも考えたんだけど、痛んじゃう可能性を考えたら嫌だったから2個作ったの」

「ああ、なるほど。納得」

「あんまり作り慣れてないから、お口に合わなかったらごめんね」

「いやいや、ありがとう」


 これで晩御飯を気にする必要がなくなったから、素直に嬉しい。

 枕詞的に、分量を間違える感じから自信がないのだと思うけど、初めて、とは言っていなかったんだし大丈夫だろう。


「食べ終わったら、ちゃんと洗って返すよ」

「感想も一緒に貰えると嬉しいな」

「もちろん。お礼には些細なものかもしれないけど、礼儀としてちゃんと伝えるよ」

「ふふっ、ありがとね」


 と、冷静にやり取りをしているわけだけど。

 人生で初めて――と言っていいのかわからないから一応2回目の人生にして、初めて女子から弁当を貰ってしまった。

 こんな嬉しすぎてハッピーハッピーな状況。興奮を露にしそうな気持ちをギリギリ抑えている。

 今が人生の最高到達点だと思ってしまえるほど嬉しく、もしも味が大変なことになっていたとしても走り回るほど喜ぶだろう。てか現時点で叫びながら走り出したいほど嬉しい。


「じゃあそろそろ次の授業の準備をしないとだね」

「さっきは教科書を見せてくれてありがとう。助かったよ」

「困ったときはいつでもわたし(・・・)に言ってね。席移動ができないか、も先生にお願いしてみるから」

「そこまで強引にやらなくても――」

「いいの。わたしがそうしてあげたいんだから、そうするの」

「ありがとうございます」

「じゃあ、また後でね」


 あまりにも優しい対応に、ラーチェルを赤毛の天使と錯覚してしまいそうだ。

 柔らかい表情に、準備もよく気配りもできて包容力もあり、一緒に居て安心感もあって、ありもしない記憶が蘇ってきて謎の懐かしさも感じてしまう。


 まさに、面倒見のいい年上の幼馴染。


 ゲーム主人公である【アルスターフォード・アルア】というキャラクターに、幼馴染が居たという設定は知らなかった。

 しかしそう考えると凄いゲームだったな。

 だって、ストーリー進行していくうえで他のヒロインと関係が一切なかったということ。

 最初に攻略対象だったミセルでさえ、システムがない今、俺自身の選択で攻略できる気がしない。


 まあ、とりあえず難しいことを考えるのはやめておこう。

 俺も次の準備をしなくちゃ。

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