第6話『まだまだ焦るような時間じゃない』
昼食も終わり、休み時間。
女神様からの手紙を読んで決意したことが、空腹が満たされたからか揺らぎつつある。
なんせ、再び知っているイベントが始まってしまったから――。
「どうしよう」
と、呟いたのは座学の授業で教科書を忘れてしまったから。
もう少し早く気が付いていたら、唯一頼ることができる……と思うミセルにお願いすることができたというのに。
黒板の上にある時計は、授業開始前2分前。あの長い廊下を駆け、広い教室の中からミセルを発見し――なんてどう考えても無理だ。
全てを諦め教科書があるように振舞うよりは、潔く自己申告すればいいか。
「もしよかったら、教科書一緒に見ない?」
「……え?」
柔らかいような優しい感じの声に顔を向けると、そこには印象とは真逆なふわふわした赤長髪な少女が居た。
「次の先生、座る場所は自由にしていいって話だったじゃない?」
「いいの?」
「うん。困ってそうだったから、間違っていなくてよかった」
「ありがとう、助かるよ」
そもそも、現代の高校みたいに1机1椅子ではなく、どちらかというと大学みたいな長机に長椅子といった感じになっている。
だから大体のテリトリーは決まっているものの、明確な席の位置は定まっていない。その証拠に、前後でさえジグザグに座っていたり。
「え」
「ほら、2人で1冊を見るんだから離れていたら不便でしょ?」
「それはたしかにそうだけど」
「承諾を得ました」
距離が近いというより、もはや密着しちゃっている件。
言っている内容は筋が通っているし、意味もわかるけどさ。でも、こんな至近距離、あっちの世界でも初対面じゃありえないよ?
「わたしは【スレンダ・ラーチェル】。よろしくね」
「俺は【アルスターフォード・アルア】、よろしく」
「ねえねえ、もしよかったらなんだけど次からの授業も隣に来ていいかな」
「いいんじゃないかな? 先生から注意されなかったら」
「ありがとう。忘れないでよ?」
「はい」
優しい声色だし、少し高い声で笑う感じは第一印象通りに柔らかい雰囲気の子だ。
それにしても、俺はそんなにあからさまな困っているオーラを漂わせていたのだろうか。自覚はないけど、挙動不審だった……?
自分の行動を思い返していると、先生が来てしまい、何事もなく授業が開始。
それ自体はいいが、隣に居るラーチェルが気になって気になって仕方がない。
永遠に鼻へ入ってくるラベンダーみたいな花っぽい匂いは永遠に主張してくるし、制服越しにも体温や呼吸が生々しく伝わってくる。
互いに初対面だということは自己紹介したことから判断できるし、そんな関係性でこんな密着することなんてありえる?
距離感がおかしいとは思うけど、嬉しくて幸せで、油断すると鼻の下が伸びてしまいそうだ。
「――――」
授業の内容が右から左に流れないよう、先生の話に集中することで必死な状況は続く。てか授業終了まで終わらない。
てか、こんなイベントあったか?
ノートを忘れるイベントは記憶にある。
あーそうだそうだ、この話をネタにミセルと談笑するためのものだったか。
ゲームの世界だったらスキップされるシーンも、生きているからこそ、そのときそのときの選択が変わってくるんだな。
あれ? じゃあ、この後に待っているであろうミセルとのキャッキャウフフな展開は訪れなくなっちゃった、ってこと!? えぇ?!
俺にとって唯一攻略したメインヒロインであり、思い入れのあるキャラ――人なのに、未来が途絶えちゃうの??
「ねえねえ」
そんな未来への不安を抱えている俺へ、ラーチェルは限りなく小さな声と共に紙の切れ端を差し出してきた。
何かと覗いてみれば、あまりにも簡略化された『犬』か『猫』か判断つかないユニークな絵が描かれていて、丸味を帯びたかわいらしい右矢印が添えてある。
最初は絵に対しての採点やコメントを求められているのかと思ったけど、目線を向けるとニコッて笑っていた。
正解かはわからないけど、たぶんこれは絵しりとりかな。
バレたら絶対に怒られるでしょこれ。本当に乗ってもいいのか……? と思いつつ、ちょび髭を発見したから『米』を書いてみる。
「ほほぉ~」
すると、もはや声というより吐息を零す程度の声が返ってきた。
どうやら正解を引いたようだけど、口元をへにゃへにゃと動かして考えたと思えば、かわいらしい右矢印を追加してから『眼鏡』が描かれる。
しかし遊んでいるだけじゃダメで、俺もラーチェルも絵しりとりの合間に黒板へ書かれた内容をノートへ書き写す。
そんな忙しい時間を過ごしていると、座学の授業はあっという間に終わってしまい、休み時間へと突入してしまった。
「――絵しりとり、楽しかったねぇ~」
「さすがに驚いたよ。でも、確かに楽しかった」
「でしょでしょ~」
微笑む感じは、悪気がないのは伝わってくる。
純粋に楽しんでいたのはわかるけど、結果的に授業内容をノートへ書き写すことはできても、先生の話はほとんど聞いていなかった。
ちゃんと怒られることをしていたわけだけど――まあ、実際に俺も楽しんでいたし、こんな日があってもいいのかなって思える。
なんていうか、こう、青春の1ページみたいな感じで。
「今日は教科書を見せてくれてありがとう。助かったよ」
「はーい。他に忘れたものがあったりしたら、いつでも言ってねぇ」
「さすがにクラスメイトなんだから、他の授業では無理じゃない?」
「ううん。ティッシュとかハンカチ、小腹が空いたとき用に飴とかもあるよ~」
「いろいろと用意しているわけね」
姉が居たわけではないが、ラーチェルは同級生だけど年上のお姉さんみたいな雰囲気を感じ取ってしまう。
包容力というのか? 物腰が柔らかいからなのか?
具体的なことはわからないけど、ゲームの攻略キャラだったら、今みたいに優しい気持ちでプレイできていたんだろうな。
「よし、ということで」
「ん?」
「休み時間っ」
「何かするの?」
「このままお話しよ~」
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