第3話『憧れの魔法学校、しかし凡才です』
ひょえぇ~、「凄い」の一言に尽きる。
授業の内容は、比較的難しい内容ではなかった。
体験するもの全てが初見ではあるものの、このファンタジーな世界を既にゲームとしてプレイ済みだからということも、理解しやすかった要因だろう。
そしてゲームキャラに転生した恩恵だと思うけど、言語が理解でき、ノートへ書き写す作業も抵抗なくすんなりできた。新1年生ということも、授業内容が優しいと思えた要因の1つなのかもしれない。
全てに感謝感謝と言いたいところだけど。
実技の内容は、どうなってしまうんだ。
「……」
ゲームでは省略されていた、実技の授業。
学生として生活しているのだから、当たり前のようにやる内容ではあるが、コントローラーを動かすのと実際に体を動かすのとでは勝手が違いすぎる。
外だし先生もいるし、そもそも入学して日が浅いから気が滅入ることでもないだろう。
そうだ、きっと俺は主人公補正かつ女神様からの恩恵を授かって優秀になっているはず! はず!
このゲームの主人公は突出した能力を持っていない設定だっ気がするけど、きっと自分でも驚くほど魔法が!
「わお」
結論、自分でも認めてしまうほど凡才だった。
この世界で魔法を発現させるには、イメージが重要であり漂う魔力を魔法へ変換できるかが重要になってくる。
2つの世界を知っている俺にとって、発現する魔法をイメージすることは難しいことじゃない。
そもそも1周目をクリアしているから終盤の魔法を知っているし、元々生きていた世界で様々な物語に触れてきた。
せめてもの救いは、魔法陣を展開したり呪文詠唱しなくていいこと。魔法名は言葉に出さなくちゃいけないけど、火を出す程度なら言葉に出す必要はない。
「練習すればなんとか……」
さっきは、火が『ぽっ』と出ただけで終わったけど……ここはファンタジー! 練習を重ねていけば強い魔法を発現させることができる!
憧れの世界に転生したのだから、もっと練習して、すんごい魔法使いになるぞぉおおおおおおおおおおっ!
足を開いて踏ん張り、手のひらに集中して燃え盛る炎をイメージしても、『ぽっ』『ぽっ』とマッチの火にも負けるものしか出てこない。
じゃあ周りの人たちはどうなのかというと。ライターぐらいの火を出せていたり、手のひらぐらいの水玉を出していたり。
もしもあれが努力というのなら俺は既に出遅れていて、才能というのなら1年生にして既に大きな差が生まれていることになる。
「泣きそう……」
そもそも属性選択を間違えている可能性だってある。
この世界には【火】【水】【風】【雷】【光】の5属性魔法が存在していて、それぞれにそれぞれの使い方があって。
「こういう感じ……で正解か」
火を扱うのも、火を灯すのか火を点けるのか、でもいろいろと変わってくる。
でも思考を変えて水を発現させようと思っても、爪ぐらいの水しか出せないし、風を発現させようにも肌を撫でるそよ風程度。雷は静電気より弱いものだし、光に関しては認識できない。
ははっ、誰がどう見ても凡才認定されるだろうな、これ。
物語の主人公というには、あまりにも非力で悲しくなってくる。
転生の特典として女神様が何かを与えてくださったのかも把握していないし……ダメだ、考えても埒が明かない。
「ほっほっ、ほっ」
練習! 練習! 練習!
ゲームを1日中ぶっ通しでプレイし続ける集中力と胆力はあるのだから、それを活かして練習あるのみ!
と、意気込んで連続で小さい魔法を発現させたながら周りを見渡す。
今更ながらに思うけど、2組合同とはいえ人数がそれなりにいる。ゲームで遊んでいたときはただの背景でしか描写されていなかったし、会話できたとしてもNPCだから定型文しか返ってこなかった。
しかも1週目しかクリアしていないから、他の攻略対象の女の子がわから――。
待てよ、今生きているこの場所はゲームの世界。だが今は、プレイヤーではなく実際に生きている。
であれば、攻略対象とか関係なく気になった人に話しかけてもいいのでは……?
「なるほど……」
つまり、自由に交友関係を築いていいことにもなるよな。
コミュニケーション能力に自信があるわけじゃないけど、チャレンジするぐらいはできる。
そう……例えば、あそこに居るギャルみたいな金髪の女子生徒に声をかけてみる――ぐらいならできそう。
こんなファンタジーな世界で、ギャルという文化が発展しているのかはわからないけど。
しかしまあ、さすがはゲームといったところか。
モブキャラとして登場するキャラだとしても、容姿が整いすぎている。目線を向けたギャルっぽい女子もそうだけど、生徒会長っぽい子も、右も左も。全員がファッション雑誌に載っていても不思議じゃない。
であれば、少なくとも主人公の俺にも何かしら恩恵があってもいいのではないか。と、わがままにも思ってしまう。
「うわ……」
まさかのまさか、先生からの指示が言い渡された。
『誰とでも大丈夫なので、2人組になってください』と。周りの人たちは次々に相方を見つけていく中、俺はクラスに誰も知り合いが居ない事実に震えあがる。
このままだと、残った人同士で組む、という地獄的な展開が待ち受けている。
1度だけ経験したことがあるけど、あれはとんでもなく互いに気まずくなってしまう。
それをキッカケに関係性を構築できたりするけど、そこまでに至る過程がとても辛い!
「ねえねえ、一緒に組まない?」
「え?」
行動しなくちゃいけないと思いつつ時間を浪費していた俺の元に訪れたのは、まさかの金髪ギャル風の子だった。
「あーしと組もうよっ。それとも先約があった?」
「い、いいえ。ぜひともお願いします」
「じゃあ決まりーっ、よろしくアルア」
想像通りのギャルすぎて、対応に困る。
肩へかかるぐらいの金髪には、小さな髪飾りが数個あったり、胸元が他の生徒より開いていたり……陽のオーラ全開で眩しいとさえ思ってしまう。
目のやり場に困るとはこういうことだったのか。
てか、なんで俺の名前を知っているんだ?
「何ポカんとしてんの? あ、どうして名前を知っているか疑問に思ったんでしょ」
「う、うん」
「そりゃあ同じクラスなんだから、名前を憶えていたっえ不思議じゃないっしょ」
なるほど……いつまでもゲームを遊んでいたときの感覚で居続けるのは、この世界で生きている人たちに失礼だよな。
ついさっき認識したけど、彼ら彼女らも生きているんだ。
「じゃあ改めて。あーしの名前は【ライゼンブルク・アッシュ】、よろしくっ」
「よろしくアッシュ」
差し出された手に応えて握手を交わし、俺たちは先生から出された指示通りの内容をやり始めた。




