第2話『ファンタジー!魔法!美少女!?』
終点から学園までの道のりは、約1キロ。
もう少し路面電車が続いてほしい願望はあるけど、学生なら少しでも運動しろと言われて終わる話か。
それにしても制服はブレザーで、素材も似ているから違和感がない。
色合いも、上が紺で下が蒼。女子がスカートで蒼と白のチェック。ネクタイが男女同じで青と白のストライプ柄。靴はシューズとローファーの選択で、俺――【アルスターフォード・アルア】というキャラクターはシューズ派のようだ。
ゲームでプレイしていたのに、ほとんど気にしたことがなかったから新鮮な気持ちでもあり、元々の俺もそうだったから親近感が湧く。
「本当にあるじゃん」
周りに生徒が居ても、衝動のあまり普通に声を出してしまった。
視線の先にあるのは、赤を基調としていて白の刺繍がされているハンカチ。
誰も拾おうとしないのは薄情なわけじゃなく、下を注視しながら歩く人が少なく、会話に夢中だから。
ゲームシステム上プレイヤーは発見することができるが、段差でもなければハンカチを発見できないのは仕方がない。
現に俺も、これから待ち受けているであろうイベントを把握しているからハンカチを発見できただけだと思う。
拾い上げたら、後はキョロキョロと辺りを見渡すだけ。
「あの、すみません」
「はい」
持ち主からやってくる。
俺にとっては耳馴染みのある声に振り向くと、そこには想像通りの美少女の姿が。
茶髪と言えばいいのか栗毛と言えばいいのか。背中まですらっとに伸びた長髪が揺れ動き、少し離れていてもほのかに甘い香りが漂ってくる。
小さいお顔とお口にくりくりお目目――と感想を述べなくても伝わってくる、清純派かつ正統派ヒロイン。
「それ、拾ってくださったんですか?」
「ええ。こんな綺麗なハンカチが落ちていたとあれば、間違いなく誰かが探すだろうと思い」
「ありがとうございます。それ、私のなのです」
「そうなのですか?」
「はい。私の名前はフォーファノン・ミセル、そちらに白い刺繍で名前が入っていると思います」
「たしかに。それでは、こちらを」
と、流れに身を任せて身振り手振りと発言する。
白々しいと言われるかもしれないが、この展開を把握しているのは俺だけなんだし文句は言われまい。
サラッと確認したけど、文字も普通に読めるな。
なるほど、親切設計なのか言語表記は平仮名と片仮名で全てが事足りるようになっているようだ。
漢字がない世界に慣れることができるか心配だけど、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「俺の名前はアルスターフォード・アルア、よろしく。同じ学園に通っていて同じ学園だし敬語はやめよう」
「え? ならお言葉に甘えて。歩きながら話をしない?」
「そうだね、遅刻はしたくないし」
現実的に考えたら、こんなスムーズに女子と初めて顔を合わせて登校を一緒にするなんて、確率を求めたらかなり低いだろう。
しかし冴えない俺にできる理由は、やはりゲームシステムによるアシストのおかげ。あまりにも自然すぎて、俺とミセルどちらも違和感を抱いていないからね。
「1つ聞いてもいいかしら?」
「うん」
「どうして私の名前を?」
「そりゃあ、学年首席挨拶してたし。それに、こんな美人の顔と名前を憶えていない方がおかしいっていうか」
「前半は納得できる理由だけど。後半に関しては、そんな直球に褒められると恥ずかしいかな」
「それはごめん。でも正直に伝えたくて」
ちなみにゲームでは前半だけ伝える選択肢しかない。
自分なりにアレンジできるか試してみたわけだけど、たしかに初対面の人へ好意を伝えるには直球すぎたか。でもこのやりとりを経て、ゲームそのままにしか会話ができないわけじゃないことがわかった。
茶色くサラサラしている髪を、左耳側をかき上げながら恥ずかしそうにしている姿は実にかわいい。
ゲームでは正面からの立ち絵が用意されていたが、今は横からしか拝むことができない。実体験している感覚を得られて嬉しい反面、せっかくのかわいいシーンなども半減してしまうと肩を落とす反面だな。
「理由を教えてくれてありがとう。じゃあアルアくん、これからもよろしくね」
「呼び方もアルアでいいよ」
「わかったわ。だったら私のこともミセルでお願いね」
――ん?
ゲームでのやり取りは、たしか最初の呼び名は『アルスターフォードくん』であり俺の方も『フォーファノンさん』だったはず。流れ的に省いてしまったが、まあ……今はゲームではなく実体験しているのだから、こういうこともあるか。
全部が全部ゲームシステム通りだったら、転生したんじゃなく、ゲームの中に入っただけになるし。自然な会話ってやつは、こんな感じで臨機応変にやっていくものだしな。
だったら、俺からもシステム外の質問をしてみちゃうか。
「ミセルは1組だっけ?」
「そうだよ。アルアは3組だよね」
「お、凄い。勘?」
「いやいや、勘じゃないよ」
なんだろう、この連続的な違和感。
本来であれば、今日中に廊下で偶然2回ほど再会して互いのクラスを把握する流れがあるのだけど……。
まああれか。凡人の俺とは違って、優等生の頭脳とでは記憶力に雲泥の差があるのだろう。あまりにも現実的で、すんなり納得できてしまうな。
そんな悲しみを抱えつつ、気軽に空を飛んでいる人たちや、並ぶ家々の窓から洗濯物が独りで干されていく光景を目の当たりにする。
ゲームでは描写されていなかったファンタジーな世界を体感できて、美少女が隣に居ても目移りしてしまう。
今すぐ興奮を露にして叫びたい気持ちをグッと堪え、目線を戻した。
「アルアって、今は学生寮から通っているんだよね」
「そうだね。ミセルも?」
「うん。でも、お引越ししようかなって思ってるの」
「へぇ~? まだ住み始めて日が経っていないんじゃないの?」
「私には合わなかった、という意味じゃないの。引っ越しする理由ができたというか、しなくちゃいけなくなったというか」
「複雑な事情がありそう」
「複雑と言えば複雑だけど、単純と言えば単純だけど」
そんな言葉回しが、まさに複雑そうでしかない。
ゲームシステムでは、そんな設定があっただろうか。少なくとも1週目では、こんなやりとりはなく、引っ越しするイベントはなかった。
もしかしたら既に2週目ルートに突入しており、俺の知らない展開が繰り広げられている可能性もあるか。
え、そうなってくるとミセルを攻略できないってこと……? それとも、また新しい攻略方法やイベントが発生するということ……?
わからん、わからんぞ!
「じゃあまたね」
「うん、また」
そんなこんな会話をしていると、あっという間に学園へ到着。圧巻の全体像を堪能する暇もなく、かわいらしく手を振ってくれるミセルと別れることに。
目的地の教室は、このまま1階を進むとあって1組より奥で、廊下を少しだけ進むと――すぐに教室へ辿り着く。
(てか廊下広っ。教室でかっ)
全てに圧巻されつつも、新しい人生が始まったことを何度でも実感する。
(よし、頑張りますか)
少しだけ大きく鼻から空気を吸い、階段状の席へと足を進めた。




