第19話『唯一の男友達だと思っていたのに』
そうだ、せっかく同じ寮で生活していることがわかっているんだ、ネモーネと話をしながら魔法の練習をしたいな。
まだ荷解きの最中だったら、手伝うのもいいし、男同士だったら話に花が咲かせるのもいい。
女子の手伝いをした方がよさそうではあるけど、見られたくないものとかもあるだろうし。
でもこの広さだと迷子になるのは確定だから、メイドさんを呼んで案内してもらった方がよさそうだ。
扉の横にある、長方形の薄いボタンを押してっと。
「これ、家にあった部屋の電灯をオンオフするスイッチと似てるな」
それにしても、本当に広いな。
何畳あるんだろう――とザックリと空間に畳を想像して数えてみる。
たぶん15畳ぶんぐらいはあるか?
広いことは移動しやすいし物を沢山置けていいんだろうけど、逆にソワソワして落ち着かない。
これだったら区切りを作って2部屋分にしてもらった方が、環境と気分を変えることができていいと思う。
なんて考えていると、ノックが3回鳴った。
「お呼びでしょうか」
「お願いしたいことがありまして」
扉を開けると、そこには黒い服に白いエプロンという見慣れたメイド服のメイドさんが頭を下げていた。
「なんなりとお申し付けください」
顔を上げて目線が合うと、そのかわいらしさにドキッとしてしまう。
この世界では、もはや美男美女以外を探す方が大変なのか? という錯覚をしてしまう。
でもナンパするために呼び出したわけじゃない。
「ネモーネの部屋に行きたいのですが、案内を頼んでも大丈夫ですか?」
「はい、お任せください」
部屋を出て、メイドさんに誘導してもらって歩き始める。
夢みたいな世界に転生しておいて、絨毯からカーテンまで高級感が溢れる廊下を見て、まるで夢みたいな空間を歩いている気分だ。
窓からは夕日が差し込んで幻想的に演出しているし、メイドさんからは清潔感溢れる匂いがふわっと漂ってきて幸せ。
とかなんとか考えつつ、部屋を移動するのにどれだけ歩くんだ? という疑問が湧き上がってくる。
前の寮は部屋を出て数歩で隣の部屋だったのに、今では数十メートルは進んでいるし、まだ続く。
「ここから2階分上へ行きます」
「はい」
と、まだまだ続くらしい――。
――そうして、室内だというのに100メートル以上は歩いて到着したのがネモーネの部屋。
メイドさんに帰りのことを聞かれたが、待たせるのは心苦しかったから帰ってもらった。
「それで……」
「まさか、こんなタイミングでバレちゃうなんてね」
俺はメイドさんに、間違いなくネモーネの部屋と伝えて案内してもらった。
そしてノックをした後、ネモーネの名前を呼んで返事があり「入っていいよ」と言われたから部屋に入った。
だが、中に居たのは俺が知っているイメージのネモーネではなく。
「ネモーネって女子だったのか……」
「そうだよ。その様子だと、本当に男子だと思ってくれていたようだね」
「唯一の男友達だって嬉しかったのに……」
「その気持ちを裏切ってしまって悪いけど、事実だよ」
ポニーテールを解いて降ろしているだけだったら、まだ男の可能性が消えることはなかった。
でも、その長い髪に加えて制服から私服に切り替わっていて――露出している肌の面積とか関係なしに、膨らんでいる胸部は見間違えるはずがない。
というか、カーテンとかベッドのレースが女子っぽいし、動物のぬいぐるみが置いてあったり、かわいらしい要素がふんだんに散りばめられている。
「それで、わざわざ僕の部屋に来てくれたのはなぜだい? 会いたくなっちゃった?」
「ああそうだよ。ネモーネに会いたかったんだ」
「えっ」
「正直、わけもわからずにここへ連行された挙句、見知らぬ部屋で1人きり。心寂しくなるのは不思議じゃないだろ?」
「キミという人は……」
「ん?」
顔を背けられてしまった。
「そ、それで。寂しさを紛らわせるために来て、何をするつもりだったんだい? まさか荷解きを手伝いにでも?」
「それもありかなって。ほら、男同士だったら荷解きしながらでも楽しそうかなってさ」
「でもさすがに、乙女の私物を触るのは気が引けると」
「そりゃあな。だが、魔法の練習も一緒にできたらなって思って」
「なるほど」
「俺、ネモーネに教えてもらったことを参考に練習したんだ」
「今日の授業やったやつ?」
「そう、ペンのやつ。しかもできるようになったから、報告したかったんだ」
俺の今は情緒が行方不明だ。
男友達だから、気分が高揚しているそのままに報告しようと思っていたが、ネモーネは女子だったし理解が追い付いていない。
「じゃあ見せて」
ネモーネが歩き始めたと思ったら、机の上に置いてあったペンを拾い俺へ投げてきた。
「わかった」
理解は追いつかなくても、俺は本心からネモーネに成果を見てもらいたかった気持ちは本物だ。
だから、やろう。
俺が使ったペンよりも渡されたペンは思い。
というかこれ、ペンというか万年筆だ。
成功したやつはもっと軽くて――いや、余計なことは考えるな。
「――」
丁寧に順序を守り、風を起こす。
よし、できた。じゃあ次は回して渦を作って――浮かせる。
「おぉ、本当にできたんだね」
「よっしゃっ」
魔法を解除して万年筆を掴み、ガッツポーズをとる。
「やった、やった! ネモーネ!」
「うんうん、おめでとう!」
「よっしゃあああああっ」
「しーっ! 他の人に聞こえちゃう」
「あ、ごめん」
興奮のあまり声を大声を出してしまい、反省反省。
しかし、ほどなくしてドアが叩かれた。
「うわっ」
「あぁ……まあしょうがない」
「どういう意味?」
さらに追加で、ドアが壊れるんじゃないかと思うぐらいの勢いで『ドンドンドン』と叩かれる。
「怖い怖い」
「ネモーネ! 早く扉を開けなさい!」
「セリィナ?」
「そのようだね」
ネモーネは俺の横を通過し、ドアを開けた。
「どうしたのセリィナ」
「どどどどうしてアルア君が部屋に居るのよ!」
「アルアが僕の部屋に用事があったからだって。僕が呼んだわけじゃないよ」
「そ、そう――じゃあってなるわけがないでしょ。まだルールも決めていないのに、抜け駆けは禁止」
「だから、僕は悪くないでしょ? アルアが自分から、僕に会いたいって来てくれたんだから」
「ぐぬぬ」
2人は、いったいなんの話をしているんだ。
たしかにセリィナが言っていることは正しいと思う。
だって男女が同じ寮で生活するんだから、ルールを設けないと互いに不快な思いをする可能性があるからな。
「こうなれば、後日と思っていたけど緊急会議よ」
「僕は悪くないけど謝るよ。だから、そこまではしなくていいんじゃない?」
「いいえ、早急に会議は必要よ」
「ということで、ごめんねアルア」
「よくわからないけど、俺は大丈夫」
「じゃあ広間に移動しましょう」
というよくわからない流れになってしまったが、俺は先を歩く後ろをついていくことしかできなかった。




