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第18話『新しく入寮することになりました』

 手招きされるように建物内に入ると、外観通りに入り口のエントランスが広い。

 ここだけで数十人が行き来しても大丈夫なぐらいで――ああそうそう、ホテルって言った方がわかりやすいか。


「さて、これはどういうことなのか説明してもらえるのか?」


 盛大なおもてなしではないが、代わりに待ち受けていたのは身に覚えがありすぎる人たちが待ち受けていた。


 ミセル、アッシュ、ラーチェル、ネモーネ、イリナール、セリィナ、カナ――の、計7人が目の前に居るわけだが。

 理由はわからないけど、1つだけわかることがあるとするなら全員が今日顔を合わせている、ということ。


「ここは私が代表して」


 そう言って1歩前に出てきたのはミセル。


「今日からアルアくんには、今日からこの寮で生活をしてもらうの」

「そ、そうなの?」

「うん。追い出された寮に置いてきた私物等は、後日送ってもらうよ」

「なら一安心――ではあるけど、いろいろと納得できない」


 だってそうでしょ?

 俺は流されるがままに寮を追放され、ここに辿り着いた。

 そして、その事実を既に把握しているということは仕掛け人と繋がっている可能性が高い。

 じゃあ俺は目的を聞いてもいいはずだ。回答を得られるかは別として。


「なぜ、そんなことをするのか。その答えは至って簡単なの」

「というと?」

「私たちは意見を募り、衝突し、結論に至った」


 なんだなんだ、その壮大な話題が出てきそうな前置きは。


「私たちは、アルアくんに好かれたい。だから、共同出資をして寮を買い取ったの」

「……はい?」

「こ、これでも凄く恥ずかしいんだからね」


 胸に手を当てて、神妙な面持ちからの、ドヤ顔からの宣言をしておいて?

 顔を赤くしているから恥じらいを抱いているのは事実だろうけど。


「俺と仲良くなりたいがために、この超でかい寮を買い取り、メイドさんたちを雇い? それで共同生活をすると?」

「うん、その通り。でもちなみに、メイドさんたちは各家から一緒に来ているけどね」


 なんだなんだ――いや、ちょっと待て。

 どう聞いてもぶっ飛んでいる話だが、金銭的な面では別に不可能ではない。

 1週目でミセルと付き合うことになってわかった事実として、こっちでは普通に生活しているけど『実家が太い』というものがあった。

 であれば、今日知り合った全員が同じ境遇にあっても――いやいやいや、どんな確率だよ。


 みんな毅然とした態度で立っているし、でも実際にここへ連れて来られているし、ここで生活するなんて想像できないし――んあー! 頭が混乱する!


「ちなみに、他の学生は住んでいないの。私たちとメイドさんたちだけ」

「100歩以上を譲るとして、そこは飲み込もう。だが、俺と仲良くなりたいがためにここまでするか……?」

「するの。いいえ、すると決めたの。そして、これが答えなの」

「お、おう」


 強引にもほどがあるが、なるほど。だから「じゃあ、また後で」だったのか理解できた。

 今日の最後に、こんなことが待っているのなら去り際の言葉は間違っていなかったというわけだ。

 あまりにも意味心すぎる言葉だったが、この未来を予想するのは無理だろ。


「もしかしてだけど、俺が部屋に居るときに視線を感じたのは?」

「あれはさっき運転してもらった人が、覗き込んでいたの。ちょっと焦っていたよ、『もしかしたらバレたかもしれない』って」

「ただの勘だったが、本当に見られていたのかよ……」


 でもなるほど、いろいろと納得できた。

 会話の最初から名前を知っていたのは、元々の俺が関わっていたということもあるが、この結末の前に観測されて狙われていたわけ……だ。あれ。


 え、まさか、ここに居る全員が攻略対象だったヒロインってこと?

 だから――ははっ、まさかそんなはずがないか。

 俺からアプローチをされると知っているというのに、仲良くなりたいってちょっとおかしい。

 ここまで大事になっているが、金持ち令嬢が共同出資という意味不明な展開も『暴走』という言葉で片づけられる。

 それに、あまりにも大胆すぎる点もそうだが、ネモーネが居るってことは、本当に俺と仲良くなりたいという意味で捉えて間違いないだろう。


 よかったよかった、俺以外全員が女性が生活する寮なんて肩身が狭いどころの話じゃなかった。


「まだ話をしたいことはあるけど、そろそろ部屋に移動しよ」


 もはや拒否権がない俺は、ミセルの後についていくことに。

 これからどうなってしまうのか不安ではあるけど、話の内容的に悪い扱いは受けないはず。はず。


 他のみんなは解散して部屋に戻ったみたい。

 それもそうだよな、俺と同じくたぶん今日引越しをしてきたんだろうから。

 カナが、そんなニュアンスで話をしていたし。


「一応確認だけど、お金はどうなるんだ?」

「気にしなくて大丈夫。全部、みんなで解決するから」

「えぇ……」

「本当に大丈夫だよ」


 本当に大丈夫なのか気になって仕方がないけど、だからといって自分で解決できない。

 追い出される前の寮は、入寮する前に前金を払い終わっているから気にすることがなかった。


 外観とか玄関もそうだったけど、内装も凄い。

 どこかで見たことのある、赤い絨毯が敷かれていて通過していく部屋の扉に施されている装飾も豪華だった。

 かかった金額は想像を絶するものだということだけはわかる。


「さあここだよ」


 立ち止まった場所の部屋も、やはり扉から前の寮とは存在感が違う。


「ささっ、入って」

「う、うん」


 握っただけでもわかる重量感があるドアノブを回し、思い扉を押す。

 開け閉めだけで筋トレができそう、とか思っていると、視界に入ってきたのは巨大な空間だった。


「うわぁ」

「今日からここで生活してね」

「凄すぎる」

「着替え用の制服だったり、似合いそうな私服と寝巻も用意してあるから。気に入らなかったら教えてね」

「何から何までありがとう」

「じゃあ私も荷解きがあるから、部屋に戻るね。小腹が空いたりしたら、いつでも呼び出しスイッチを押してね」


 と指を向けられた先に目線を向けると、扉の横にあるボタンがあった。


「じゃあね」

「うん」


 ニコニコと手を振りながら去っていく、サラサラな茶髪ロングをなびかせるミセルを見送る。


 さて、と扉を閉めて改めて部屋を眺める。

 部屋の広さは、首を左右に振らないと端を確認できないほど。

 しかも室内に部屋があるけど、たぶんシャワーとかトイレだと思う。本当に圧巻の一言。


 他のみんなと違って、荷物が届いていない俺は荷解き作業がないし……何をするか。

 とりあえず、ベッドダイブ――をするために小走り開始。


「っとう」


 顔面スライディング気味に着地して、顔が熱いけど感触はふっかふか。

 くるっと回って感触を堪能しつつ、天井を眺める。


 きっとこんな状況も楽しそうに見ているのだろうと思いつつ、急変した生活環境に想いを馳せる。


「夢みたいな生活の始まりだけど、これからどうなるんだろう……」


 まあでもなるようになるだけか。

 よし、魔法の練習を再開だ!


 俺は時間を浪費しないよう、体をガバッと起こした。

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