第16話『理由はわからず、しかし嫌な予感』
さあさあ、寮に帰ってきたぞ。
無駄に安心感のある部屋は、ゲームをプレイしていたときは作戦を練る場所でもあった。
数ある選択肢を慎重に選んでいたから、1週目で時間をかけすぎたわけだけど――あの悩んでいる時間も含めて楽しかったな。
さて、懐かしい思い出に浸るのはおしまいだ。
着替えと家事を済ませたから勉強と練習を始めよう。
「難しいことは考えるな。過程と結果を切り分けて、最初の段階『風を起こす』からだ」
ペンすらも浮き上がらせることができない悲しみは拭えないが、まずは手のひらに風を感じられるようになろう。
踏ん張っても成果を得られないことは、今日だけでわかった。
だから呼吸を整えて――そう、床に腰を下ろしてあぐらをかきながらやってみよう。
イメージイメージ、イメージ。かっこよくブワッと吹かせるものではなく、肌を撫でるそよ風――よりも小さく優しく柔らかい風を――。
「……お、おぉ?」
今感じた風は、もしかして!? と喜びそうになったけど、鼻息と区別がつかない!
ダメだ、まだ焦るなぁまだまだやるぞぉ。
大きく深呼吸しすぎず、平静平静。
風を起こす、風を起こす、風を起こす。
「よし、よしよしよし」
鼻息ではない風を感じ始めた。
この風を吹かせるだけじゃなく、円を描くように動かすよう想像して――。
「いいぞいいぞいいぞ」
トントン拍子にできているぞ。
円から渦をイメージして、それができたら上出来だ。
ペンでグルグルと円を描き続けるみたいなイメージをして……大きくなくていい、小さく、小さく――そう! バケツの中に手を突っ込んで水をかき混ぜるように!
「おぉ、おぉ! できた!」
成果を確かめるべくパッと目を開けると、ハッキリは見えないが小さな竜巻が手のひらの上で発生している。いや、正しくは発現している。
授業中では無能の烙印を押されても文句が得ない成果だったが、今は胸を張って「できた」と言えるぞ!
うおぉおおおおおおおおおおっ! これぞファンタジー!
現状の成果に喜びを露にし続けたいけど、まだだ。
授業中にやったのは、ペンを宙に浮かせたり飛ばしたりすること。
ちゃんと準備して床に置いてあるペンを左手に持ち、魔法を解除した状態で乗せ、ここからが本番だ。
「すー、ふぅー」
風を起こす、渦を巻く、小さな竜巻を起こす。
ここまでできて、やっとペンを浮かすことができるはずだ。
ネモーネが切り分けて分解するアドバイスしてくれたおかげで、ここまで辿り着けた。
冷静に冷静に、風を起こして――。
――いいぞいいぞ、ペンがあっても風を起こせた。
手を撫でる風を縁にして、いいぞいいぞ。
ペンによって風が妨害されているのかもしれないけど、思い通りにいっている。
よしよしよし、このまま――。
「おわっ」
玄関の方から『ガタンッ』という音がして、体が跳ね上がってしまった。
ペンのぶっ飛ばしてしまい、ベットの上に着地。俺も姿勢が崩れて両手を後ろについてしまう。
なんだなんだ、俺の部屋に来客か? と身構えてみるも、追加でノックされるわけではなかった。
ということなら、誰かが廊下を通るときにぶつかってしまったのだろう。
まあまあ仕方がない、そんなことぐらい誰にだってある。荷物を持っていたりすれば、なおさら。
「さて、やり直しだ」
再現できるなら、偶然ではなく実力として身に着けることができたということだ。
ベッドに移動してペンを拾い、今度は腰を下ろす。
風を起こして、円を描いて――いいぞいいぞ、ここまではできるようになった。
次に――ん?
「き、気のせい……?」
誰かに見られているような気配を感じ、窓の外へパッと目線を向けるも、そもそも2階の窓から誰かが見ているはずもなく。
鳥とかが窓の溝に足をかけて見ていたのだろう。
それぐらいなら、あっちの世界でもあったし。
何かと集中力が切れてしまう状況が続いたけど、まだまだやめるつもりはない。
このまま続きをしよう。
「いちいち目を閉じているのも変だし、見ながらやるか」
――よしよしよし、いい感じだ。お、おぉ! 浮いたっ!
俺にもペンを宙へ浮かばせることができたんだ!
凡人だからと落胆していたが、練習したらちゃんとできるんだな!
やったぁああああああああああああああああああああっ!
「次は、授業でやっていたペンを飛ばすってやつに挑もう。でもその前に」
そもそもの話、2つの魔法を同時に扱えなければならない。
だから、右手でペンを浮かしながら左手で火を出す練習から――が、過程を分解するってことだよな。
ネモーネのアドバイス、本当に的確でわかりやすくてありがとう。
火を起こす、火を点ける、火を灯す……どれが自分に合っているだろうか。
と、考えながら右の方は疎かにせず、まずは火を起こしてみよう。
「――こう、そう、こうか、どうだ。ダメだ。じゃあ次、電気をパチッと点けるみたいな――こんな感じで……ダメか。じゃあ優しい火が薄っすらと灯るように、蝋燭の火みたいに……――お、おおっ」
火が灯った!
嬉しくて跳び上がりたいけど、集中集中。
こんな優しい火で、ロケットみたいにペンを飛ばすことはできない。
なんだったら――こうして小さな竜巻に近づけてみただけでふわっと消えてしまう。
まだまだ何回も試して、2つの魔法を発動させる練習するだけして――。
『ぐぅっぅ』
「あ」
空腹の知らせが訪れ、集中力もなくなって2つの魔法は消滅した。
ベッドから立ち上がり、机の上にペンを置いて部屋を出ようとすると。
「ん?」
再び窓の方に振り向いた。
さっきから、なんなんだろうか。
目線を感じるというか、嫌な予感がするというか。
感情に言い表せない、変な感覚というか、背中がゾワッとする感じの。
まさかホラー的な展開でもあるまいし、恐怖心を駆り立てられるようなことではないだろう。
だってここはファンタジーラブコメゲーの世界なんだから――と片付けようとしたが、今は俺にとっての現実世界なんだから、霊的な現象が起きても不思議じゃない……?
えっちょっ、そんなの聞いてませんよ怖いよ。
ま、まさか攻略対象のヒロインが亡くなっていて、霊体で俺のことを見ているとか!?
やばいってそれ、冗談じゃないって!
急に背中がゾワゾワっとして身を震わせながら部屋を飛び出した。
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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