第12話『ゲーム通り非モテポジションだな』
「ちょっとアルアくん、いいかな」
「はい?」
建物内に入ってすぐ、呼び止められて振り返る。
聞き馴染みのない声だったが、そこに居たのはやはり見慣れない、青髪が肩にかかるくらいの女子の姿が。
「今日までの提出物がまだみたいけど、大丈夫かなって」
て、提出物……?
「その顔、ボクが聞きに来なかったら忘れていたって顔だね」
「はい。なんのことだか思い出せません」
「期限は明日までだけど、今日中に提出したら大丈夫だから時間は残ってるよ」
「で……なんだったっけ?」
「選択科目の書類だよ。支援技術か妨害技術のやつ」
「あー、それねそれ。いまいち決められなくて」
「じゃあとりあえず、教室に戻る最中で説明してあげる」
よし、これだよこれ。
素直にわからないことを伝えたら、教えてくれる流れ!
それはそれとして。
この子が誰なのかわからない。
クラスに戻る、ということはたぶんクラスメイトなんだろう。だから、こうして提出物の心配をしてくれているんだから。
後は立ち位置的に……予想だが、クラス委員長的な感じだろうか。
「支援技術は、名前の通り他の魔法使いを支援する魔法や技術を学ぶ授業だよ」
「じゃあ光魔法を主に取り扱うって感じ?」
「そうだね。でも、先生の説明では他の属性でも支援を行えるみたい」
「え、味方を炎で燃やして相手を近づけさせない的な?」
「例えが随分と物騒だね。そこは味方を風で包んだり、剣に炎をまとわせてとかでしょ」
「たしかに」
そういえば、この世界には裏設定みたいなものがあったな。
世界には空飛ぶダンジョンがあったり、地下にダンジョンがあったり。
数年前まで魔法戦争が勃発していたが終戦し、今は魔法競技なるものがあるとかなんとか。
でもそれが関係して起きるイベントもあったっけ。
物騒極まりないイベントではあったが、ゲームだから解決できた……けど、この状況で大丈夫なのか――という不安が出てきてしまう。
「それで妨害技術は、文字通り対象に対して発動させる魔法を学ぶ授業だよ」
「相手を転ばせたり眠らせたり?」
「正解。相手が魔法を発動できないようにしたり、捕縛したり。学園内でも、喧嘩を止めるときに行使していいことになっている魔法でもあるね」
「ほーう、それは魅力的な話だ」
「もちろん自衛するための手段だから、悪用したら怒られるけどね」
個人的な意見だと、妨害技術を学びたいと思った。
ゲーム内ではない選択肢だけど、これから待ち受けるであろうイベントを生身で攻略するのなら必須とも言える。
「じゃあ妨害技術の方にしようかな」
「え」
「ん?」
「いやほらだって、仲間を補助できる方が重宝されるよ?」
「俺には今のところ居なさそうだし」
「でもでも、グループで動くときに居るとありがたがられるよ?」
「そのときはそのときじゃない? グループってことは、補助技術を選んでいる人の方が多そうだし」
なんだなんだ?
技術を選択できるのに、補助より妨害の方が人気がないというより避けた方がいいのか?
実際はどうかわからないけど、補助の方に導かれているような気がする。
それに、さっきまで落ち着いて丁寧な口調で話をしてくれていたのに、身振り手振りしながら若干強引な感じもするし。
「妨害って、あんまり好かれていない感じ?」
「いや……全然そんなことはないけど……」
「じゃあ妨害の方でいいんじゃない?」
「その、なんていうか。特に理由があるわけじゃないというか――なくはないんだけど」
「俺は俺の中で必要だと思ったから妨害技術の方を選んだけど、まだ提出していない。何か説得したい理由があるのなら、補助技術の利点を教えてもらえたら変わるかもよ?」
世界観だけしか知らない俺が選択したことだからな。
俺よりも実戦的にとか世間体的なことを踏まえて説明してもらえると、ありがたいし、補助技術の方が自分に合っている可能性もある。
しかしなんだ、人差し指を立てて口角が上がり始めたね?
「補助魔法は素晴らしいのよ。仲間を補助すると言っても、移動補助が結界魔法だけではないの」
「ほうほう」
「もしも水中を移動することになった場合、呼吸補助や底面を歩くこともできるようにできるの。空中を移動するときも熟練者になると空中歩行を可能にし、建物にも魔法をかけることができるの」
「ほほお、それはたしかに凄い」
「でしょ? それに光魔法は戦いの場だと英雄扱いだからね。苦しんでいる仲間を助けられる素晴らしさは何物にも代えがたいわ」
「なるほどなるほど」
こうやって説明してもらえると、いいことばかりだ。
それに、傷付いた仲間を助けることができるのも重要なことだし、自分を回復することもできるのだろう。
その他諸々の利点も魅力的だし、聞いた感じでは妨害技術では実現不可能だということもわかる。
しかし疑問なのは、ここまで丁寧に説明してくれているうえ得意気に説明している点。
何か勧誘したい理由があるのか、それとも今語っている利点を覆すほどの欠点があるのか?
それとも、さっき気になった世間体的な面で人数が少ない傾向にあったり。
例えば能動的な魔法――攻撃や妨害、飛行とかの魔法が人気で光魔法や補助技術を学ぶ人が少ない、とか。
「じゃあ欠点は?」
「……」
「ん?」
「やりたいと思う人が少ないということ……」
「その理由は?」
「やっぱりみんな、自分で魔法を発動させて戦いたいんだろうね。やっぱりかっこいいし、目立つし、功績も上げやすいし」
なるほど、そのままか。
やっぱり自分が目立ちたい人が多いだろうし、何よりも実績に繋がりやすいというのは大きいだろうね。
出世や就職、恋人にかっこいいところを見せたい、わかりやすく自分の成長を実感しやすい等々。こればかりは世の常というか、将来の給料にも直結する話なら仕方がないことだと思う。
「ボク――エルドラン・セリィナは、光魔法を世に広めたいというのに……」
お、まさかのタイミングでフルネームを自分から口に出してくれた。
盛大な溜息を吐いて落ち込んでいることろ悪いけど、ラッキー。
「まあまあセリィナ、布教活動は諦めないでよ」
「ありがとうアルアくん、わかってくれるんだね。じゃあ――」
「ごめんだけど、やっぱり俺は妨害技術を選ぼうと思う」
「なんでぇ!?」
「まあなんていうかさ。人のために、って意気込む素晴らしい想いは伝わったんだけど。でも俺、誰かを気にしていられるほど優秀じゃないし。だったら少しでも役に立てる妨害の方がいいかなって」
「うぅ……」
「まあまあ元気出して」
もう教室に到着してしまったから、俺は書類を探す作業に移らなくちゃいけない。
「どうせ書類を探すんでしょ? ボクが予備に持ってるからあげるよ」
「ありがとう」
トボトボと半泣き状態で歩いていくセリィナの背中は小さく見える。
俺も次の授業の準備をするか。




