第11話『ツンツンデレデレ、御令嬢様師匠』
「これが今の俺にできる精一杯」
「なるほど……」
俺は冴え渡るイメージ力で、足元に炎がボワッと出て花火みたいに飛ぶ手はずだった。
しかし実際に起きたのは、足元に火花がバチッと出たかと思えば次につながるアクションは起きず。
されど諦めまいと血管を浮き出すが如く踏ん張り続けるも、結果はバチッバチッと情けなく終わってしまう。
誰もが立つスタートラインなのだと理解していても、目の前に居る紫ロールツインテールな御令嬢様は雷で滑走してみせた。
実力が足りていないことは十分に理解しているつもりだが、泣きっ面に蜂からの踏んだり蹴ったりな状況でしかない。
「一応、わたくしも光魔法は苦手中の苦手よ。ほら」
「――ふむ」
たしかにイリナールが両掌を胸の前で空気を包むようにして光魔法を発動させているが、俺と同じくチカッチカッと光ってはすぐに消えてしまっている。
でもだからと言って「おぉ、仲間!」とはなりえない。
だってイリナールは得意と不得意の差が大きいのに対し、俺はその差はない――どころか、得意な魔法自体がないんだぞ。
しかも、この現状は俺に対する同情から来たものであり……。
「ほぉら、次やるわよ」
「……はい」
「わたくしだって練習したいのだから、見て真似てやってみて」
そう言い終えると、イリナールは再び腰を低くして滑走姿勢をとる。
「ジャンプからの――こう!」
なるほど、炎で飛び立って滑走ではなく自分でジャンプしてから風で姿勢と勢いを維持しようとしているのか。
ほおほお、そうやって試行錯誤していくことによって結果に繋がっていくわけだ。
現にさっきの『スライド』に『フライ』が加わって移動距離が伸びている。
「凄い、成功じゃん」
「でもまだまだ。ここまでは家で練習していた通りよ」
家でも勉強して実践して。金と権力に物を言わせるタイプの御令嬢ばかりだと思っていたが、こういった努力家タイプも居るもんなんだな。
あーやべぇ。
金も権力も学力も実力もなければ、クリアしたゲームに転生して知識があるはずの俺が、何もできていないどころか攻略対象すら把握できてい事実が重くのしかかってくる。
「ああそっか」
難しく考えすぎなんだな。
最初から完成形を追い求めるのではなく、ジャンプしている最中に炎を出せたらオッケー、走りながら雷を出せたらオッケー、片足を上げて風を出せたらオッケー。
こんな感じに難易度を下げに下げまくって少しずつできるようになっていけば、時間はかかるかもしれないができるようになるかもしれない。
目の前に努力の賜物をさらに磨き上げようとしている、高飛車かと思っていた御令嬢が頑張っているんだ。
俺も落ち込んでばかりじゃなく、少しずつでもやっていこう。
「こうして、こう。これからの、こう」
「いいじゃないの。その調子よ」
「イリナールのおかげだよ。ありがとう」
「え? き、急に何を?!」
「だって、一所懸命に頑張っている姿が輝いて見えたから。俺も頑張ろうって気持ちになることができたんだ」
「そ、そうなのね。だったら、わたくしがもっと頑張って立派な背中を見せなくてはね」
そんなに頑張られたら、追う側の俺は大きく遠くなっていく背中を追わなければならなくなる。
無理難題を押し付けられているわけじゃないけど、努力差はどんどん開いていっちゃうぜ?
てかさ、俺は思うんだ。
女子生徒のスカートって、なんであんなに鉄壁どころか完璧なまでのガード力を持っているかを。
さすがにまじまじと見続けることはしないけど、あそこまで激しく動いていたらパンがチラッと見えてもおかしくはないよな?
いやほら、見えたら見えたで嬉しい気持ちになるけど、見えない方が神秘的という考え方も理解できるから――見えないものは見えないで仕方がない。
でも単純に凄い、と思ってしまう俺も居る。
「早く空を飛びてえ」
「だったらもっと練習するわよ。わたくしだって、大人が自由に空を飛んでいる姿に憧れているの。だから頑張るの」
「師匠! 俺も頑張ります!」
「変な呼び方はやめなさいってば。わたくしはイリナール、イスターサラサリン・イリナールよ! けっしてあなたの師匠ではないわ!」
「師匠、俺――燃えてきました! 全然、これっぽっちも炎は出せないけど、うおおおおおおおおおおっ!」
「はぁ……第一印象からは想像もできないほどの熱血っぷりだこと。でも、わたくしもやる気で負けるわけにはいかないわ!」
バチッバチッ、パチッパチッ、ヒューヒュー。
あまりにも情けない魔法しか発現させられないけど、憧れのファンタジー世界で会得したい魔法を扱えるようになりたい! 空を自由に飛びたい!
やる気がみなぎってきたああああああああああっ!
「――お疲れ様。これからもお互いに頑張っていきましょう」
「師匠、俺……今回の授業で泣きそうになるぐらいできることが増えなかったけど、帰ってからも練習するよ!」
「本当、授業が始まってから終わりまでに人格が入れ替わったようね」
「まだまだ足りない実力を噛み締めることができたんだ。夢を語りながら、できない現実を嘆くばかりで実行も実践もしていなかった。でも師匠のおかげで、一歩踏み出すことができたんだ!」
「物凄く熱弁してくれていて心変わりしてくれたようで、いいことはいいことなのだけど。その師匠と呼ぶのだけはやめてくれないかしら?」
「俺にとっては師匠は師匠だ」
「はぁ……まあいいわ。どうせ今だけでしょうから」
何を勝手に決めつけているんだ、俺は本気でイリナールを師匠だと思っているぞ?
三日坊主でやめたことは……たしかに少なくはないが、もっともっと魔法を扱えるようになりたいのは本心だ。
師匠呼びが三日坊主になる自信はあるが。
「ほら、次の授業の準備もあるのだし戻るわよ」
「はい!」
「元気が有り余っているようでなにより。っと、そうだったわ。先生に確認したいことがあったから、お先にどうぞ」
「じゃあ俺も」
「わたくしの用事を聞いてどうするの。ほら、行きなさい」
「ぶーぶー。わかったよ」
「じゃあ、また後で」
と、言い終えたイリナールは本当に先生の元へ駆けて行った。
こうも突き放された感じに言われてしまうと、さすがにしょぼんとしてしまう。
まあでも、やめて、と言われたのに後を追ったら完全にストーカーだもんな。
ここは大人しく1人で教室へ戻るしかない。
でも休み時間はネモーネと話ができるし、気持ちを切り替えていこう。
それにしても、また「じゃあ、また後で」か。
今日だけで似た言葉を5回も聞いたけど、さすがに偶然に偶然が重なりすぎじゃないか?
これも考えすぎても仕方がないやつ――か。
逆に考えたら、小学生の頃なんて「また明日」という言葉を下校時間の数十分で何十回分聞いたかわからない。
そうだそうだ、考えたって仕方がないから教室へ戻ろう。




