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第10話『実技授業!魔法!ファンタジー!』

 うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! これぞ魔法! ファンタジー!


 実技の授業だが、移動先は室内。

 体育館と言ってしまった方が伝わりやすいけど、壁や床が木製ではない何かでコーティングされている感じで似て非なるもの。広さや構造で言ったら体育館のそれでしかないんだけど。


 そして今、先生が魔法を使った手本を披露してくれている!


「こうやって魔法を扱って空中に浮く練習をしていこう」


 憧れのファンタジー要素、宙を浮く! 空を飛ぶ!


 しかも何が凄いって、風魔法だけが宙に浮く手段だと思っていたのに水と光魔法を除く、火雷風魔法で実践していた。

 さっきの授業でネモーネと話をしていた内容から、光は用途が違うことは理解できるし、水もなんとなく理解できる。


 どうせ難しいことは考えてもわからないんだ。

 あのかっこいいのを俺もやりたい!


「じゃあ、念のために安全を確保する目的で2人1組になってください」


 ははーん。先生、任せてくださいよ。

 俺にはネモーネという隣の席で男友達ができたんです。

 だから心は穏やかで、焦りの色なんて一切ありません。


「アルア、わたくしと一緒に組みなさい」

「もちろんですとも。なんなら俺の方から頭を下げて願い出ようと思っていたぐらいだ」

「あ、あら。そこまでしてわたくしと組みたかったなんて、嬉しいわ」


 ん? なんだか口調がおかしくないか? てかこの声を知らないんだが。

 と、疑問に思って振り返ってみると、幻覚を見ているのかと錯覚するほど知らない紫髪の女子が立っていた。


「じゃあ決まりね。早速――」

「ちょ、ちょっと待って」

「何かしら」

「あの、その……名前をド忘れしてしまって」

「はぁいぃ????? このわたくしの名前を忘れたですってぇ!?!?」

「はい、ごめんなさい」

「わたくしの純情を弄んだというの?!」


 やっべ、めっっっっちゃ顔を赤くして歯をむき出しにしている。

 でもなんか怒っているというよりは恥ずかしい思いをしているような? てか純情を弄ぶってなんのこと?


 はっ! チャンス到来! なんて律儀なんだ!

 センスっぽいものを持っていて、その端部分に名前っぽいものが刻まれている!!!!


「ごめんごめん。イスターサラサリン・イリナールだよね」

「あ、合っているわ」

「俺さ、記憶力に自信がないことが人に自慢できる唯一でさ。特に人の名前を憶えられないのが特技なんだよね」

「なんですの、その特技でもなければ誰にも自慢できないような欠点は」


 あっぶねぇ。

 この口調、キャラ作りにしては様になっているからどこかの令嬢とかそういうのだろ。

 そんな相手を地雷を踏み抜いて怒らせたら、俺の立ち位置が危うくなってしまうじゃないか。

 ゲームクリアしたっていうのに、あまりにもこの世界のことを知らなすぎるだろ。


 待てよ、まさか――紫長髪のツインテールロールでご令嬢というキャラの濃さ、攻略可能ヒロインなんじゃないか!?

 いや、さらに待てよ。

 まさかの罠で、この世界にはこういった人も普通に生活しているって話かもしれないぞ。


 ああそうだ、思い出した。

 ギャルなギャルのライゼンブルク・アッシュ、という金髪ギャルと話をする前に、この目立って仕方がない紫髪ツインテールロールな女の子は視界に入っていたな。

 まさか話しかけられるとは思っていなかったから、完全に不意打ちだった。


「じゃあ改めてよろしくイリナール」

「わたくしを呼び捨てにするのはあなただけよ、まったくもう」


 おっふ。

 令嬢キャラとか言っておいてなんだけど、本当の金持ち権力者だったのか。

 周りの人間からは、もしかして『さん』か『様』で呼ばれているんだろう、『イリナールお嬢様』か『イスターサラサリン様』だったり?

 俺、すんげえことしちゃってるじゃん、今後大丈夫そう? 命を狙われたりしない?


 はっ!

 ネモーネは、ネモーネは大丈夫なのか!?

 と、辺りを見渡してみるも、ネモーネは第一印象通りに他の人と分け隔てなく組んでいた。

 普通に笑みを交わし、愛想よく話をしている。

 ほらやっぱり誰とでも話ができるタイプじゃん、という気持ちと、俺とは違って誰とでも打ち解けるタイプなんだな、という悲しくも寂しい気持ちに襲われてしまった。


「さあ、早速始めるわよ」

「よろしくお願いします」

「わたくしは雷が得意だけど、アルアは全部苦手だったわよね」

「はい、その通りでございます」

「その変な口調をやめなさい」


 まさかの逃げ道なし!

 てか転生する前の俺、何をしていたの? どんな会話をしていたの?

 世間知らずな設定ではあったが、流れ的にご令嬢に不躾な態度で接していたってことだよね。

 よく普通に学園生活を送れただけじゃなく、1週目でミセルとゴールインできたな。すげーよ。


「さあ授業の続きをするわよ」

「俺は苦手だから、先にやってもらえると助かる」

「見ていなさい」


 おおぉ、イリナールの足元にバチッバチバチと小さくもハッキリ見える雷が発生し始めた。

 そして姿勢を低くしたと思えば。


「わーお」


 高くはないが、たしかに飛んだ。正確には跳んだ。

 跳躍というのか、走り高跳びの助走付きジャンプをその場で行ったと言うべきか。

 跳んだ先ではイリナールが地面をズサーッと音を立てながら、着地とブレーキを行っている。


 戻ってくるイリナールを眺めながら、宙に浮いたものの理想の飛行からはかけ離れていると思ってしまった。

 なんだったら、『フライ』でも『ジャンプ』でもなく、どちらかといえば『スライド』の方が合っているとさえ思ってしまえる。


「何をポカンとしているの。まさか忘れていたの?」

「うん」

「はぁ……いったい家で何をしているかしら。まあいいわ、わたくしてもおさらいになるから」


 いいな、この手。

 他人からすれば、今みたいに呆れられるのが目に見えているけど、大袈裟なすっとぼけじゃない限りは物事を教えてもらえる。

 頻繁に使うとよくないだろうが、わからないことばかりの世界では有効な手かもしれない。


「炎はボワッと飛ぶ瞬発力。風はフワッと浮かぶ維持力。雷はズサッと滑る滑走力よ。別の言い方なら上・中・横よ」

「ネモーネは人に教えるのが上手だ。頭が足りていない俺にわかりやすく説明してくれてありがとう」

「なっ! そ、そんな素直に褒められても嬉しくないんだからねっ! で、でも――ありがと」


 つまり、空を自由自在に飛んでいるような人たちは3属性を上手に扱っているというわけか。

 間違いなく今の俺には無理ということがわかり、盛大な溜息を吐きながら肩を落とす他ない。


「誰でも最初はできないのだから、一緒に頑張るわよ」

「ありがとうイリナール」

「まずはできそうなやつから」

「はい、頑張ります」

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