ヴァイオレットーホームズが、女性の管轄をワトソンに任せる訳ー
ヴァイオレットとは、シャーロック・ホームズの母親の名前だ。
「ぶな屋敷」にヴァイオレット・ハンターというホームズの妹分みたいな女性が出てくるが、母親と同じ名前だから、特別親身になったのかも知れないとシャーロキアンの間でささやかれている。
この物語は、そんなシャーロック・ホームズが8歳の頃の物語。
ー☆ー
イングランドの北、ライディングで。
「わぁ、お母さん、きれいなバラの荷馬車だね」
「本当ね、シャーロック。お母さんは、ピンクのバラが大好き」
シャーロックとお母さんが、散歩の途中で、バラの花かごを積んだ荷馬車に遭遇した。
シャーロックは、手をつないでいるお母さんを見て、
お母さんは、ピンクのバラが好きなんだ。
そういえば、お母さんって、いい匂いがする。バラの香りだなぁ。
と、シャーロックは、ひそかに思った。
そうだ、お母さんの誕生日には、これにしよう!
幼いシャーロックは、お母さんに手をつながれながら、楽しくこんな考えを巡らした。
ー☆ー
お母さんの誕生日当日。
シャーロックは、お小遣いで買った一輪のピンクのバラを後ろに、家に急いだ。
シャーロックは、このピンクのバラをお母さんが見たらどんなふうになるだろうと、嬉しくなって家の扉を開けた。
するとーー
「ヴァイオレット、誕生日おめでとう。俺の気持ちを受け取ってくれ!」
シャーロックの見知らぬ男が、お母さんに、真っ赤なバラの大きな花束を渡していた。
それよりも、シャーロックがもっと、驚いたのは、お母さんがシャーロックにも見せたことがない最上の笑顔で、その男から、真っ赤なバラの花束を受け取っていたことだ。
嘘だ、母さんは、ピンクのバラが好きなんだぞー!
シャーロックは、扉を覗くように見てひとりごちたが、幼かったので、どうすることもできなかった。
大好きなお母さんの誕生日に、青天の霹靂にさらされたシャーロック・ホームズ。
ホームズの女性嫌いはこういうところからきているのかも知れない。
読んでいただき、ありがとうございます。
ホームズが幼い頃の記述が殆どないので、参考文献を読んで、こんな物語を作ってみました。
映画『ヤングシャーロック・ホームズピラミッドの謎』では、女性に興味がないのは、恋人を失ったからだという風に描かれていますが、母親不信の方が大きいのかな?と思いこのような物語を思いつきました。
参考文献
『シャーロック・ホームズ入門百科』
小林司 / 東山あかね著