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第二次魔王討伐  作者: りおちんちん
路地裏のシャルンホルスト編
5/12

股ぐらがイライラする

 魔力とは、生命の肉体だけでなく、その精神をも蝕む猛毒である。ずいぶん昔、子供のころに読んだ魔法学の本には、魔力についてそういう書き方がなされていた。


 この通り、オレはミカと一緒に隠れるようにして生きてきたから、学校とか大学とか大層なところで教育を受けたことはない。


 魔族として、自分の身の内に流れている魔力。それがどういう働きをして何をもたらしてきたのか、自分や他人のことを通して、なんとなく理解しているだけだ。


 魔力は、女だけが振るう魔法のような超能力として昇華されるだけでない。エルフが大陸にもたらしたテクノロジーのほとんど全ては、魔力を消費して機能する。


 百年前の魔王軍との戦いでエルフの帝国が滅び、戦前のエルフ族による知識、技術の大半は失われてしまった。いまや大陸北部の不毛な土地に追いやられ、異種族への復讐の機会を窺っているとされるエルフの社会でのみ、高度なテクノロジーが存在していると聞く。


 その結果、大陸の大部分では中世と同じ生活にまで落ちぶれたわけだが。電気や産業、船や飛行機といったエルフ譲りのテクノロジーは、いまもオレたちの暮らしを支えている。人々は灰に埋もれた廃墟の中からテクノロジーを拾い上げ、修理し、それらを持ち寄って戦前の営みを辛うじて維持していた。


 だが、発電所や工場をなんとか修復することができたとしても、それを動かすためには膨大な魔力が必要である。


 エルフ帝国と魔王軍が死に、現在も種族間の小競り合いは続いているが、いまの大陸で求められる魔力の需要は圧倒的にこれだった。


 優れた個人が自己の才能を示すために磨き極め、主に戦いの中で使用される魔法とは根本的に違う。最も人口が多い獣人だけでも数兆人いるとされる大陸社会の安定、発展のための魔力は巨大なエネルギービジネス。


 そのためにオレのような有望なオスの玉袋が狙われ、飢えと欲望に駆られた女たちによって容赦なく搾り取られ、人権と生命が踏みにじられているのであった。


 そして、ここでこうして濡れる股ぐらを疼かせながら、すっかりとろけた女の顔のミカが見上げているもの。


 つまり、オレの股ぐらから生える巨大で長大で硬化しきった、たくましいかぎりの棒状の魔力器官。これまで交尾のたびに、ミカを下品によがり狂わせてきたオレの男根だ。


 それを汗まみれの頭の上に乗せてやると、ミカの瞳孔がしゅっと締まって、死ぬ直前のネコのそれより細くなった。聞いているこっちが焦るぐらい、ばくばくとミカのドデカい心臓の音が漏れてきて、自然とオレの息まで荒くなる。


 ヨダレを垂らしてじっと見つめるミカの顔には鬼気迫るものがあり、そのまま、何かの拍子に口から飛びついてきてオレの男根を喰いちぎるのではないかと危険を感じたほどだ。


 くどいようだが、オレは女の魔族みたいに生命の取り返しがつかない。頭だろうが心臓だろうが、オレの身体のどの部分が失われるのも絶対に嫌だし、言葉では表せない激痛を伴うものであろうことは理解している。


 その中でも、股ぐらの生殖器官の喪失。これだけは男として、たとえ何があろうと決して認められるものではない。


 ミカには至急、魔力の補充が必要だと思って自分から出しておいて何だが。オレはいまの状態、まだ完全体には至っていない段階でおよそ三十センチはある男根をミカから離し、両手で隠して視界から遮ることでミカを我に返させた。


「・・・何してんの」


「あ? それは、こっちのセリフだよ」


 ミカの状態が正常に戻るにつれ、オレは改めて事態の複雑さを知った。


 自分で言うのもなんだけれど、オレは女が想う男の理想形というものを忠実に具現化したようなものだ。少なくとも、この魔族の親譲りか魔力がそうさせるのかは知らないが、ぴちぴちの若い小娘といっても通じる美貌がそれを証明している。


 実際、オレはまだ十代の半ば。エルフや魔族は種族柄の性質、魔力の適性によって死ぬまで若いままだから、名実ともに若くて美しい現在のオレだから言えることだ。


 しかし、この年頃は人間や獣人の感覚からすると、おそらく最も性的な魅力を発揮する年頃だ。魔族特有の銀髪もさらさらでふわふわ、放っておくと地面につくまで伸び続ける。魔力も一日中、ずっと股ぐらがイライラして玉袋の中身が沸騰しかけていた。


 十五から二十という年齢は、ワインとしても飲みごろだろう。


 そんなオレと長いこと暮らして交尾もして、一応は女のミカがオレに発情してしまうのは仕方がない。それにしても、さっきのミカは少し異常だった。


 たかが人間の分際で魔法使いに憧れ、魔力に溺れ、バケモノに堕ちていく女たち。それ自体は何も珍しくはない。そんなものは大陸中にありふれている。


 ミカもオレの魔力を日常的に摂取することで、すでに魔力に飢えた魔女と化し、やがて理性も人の形も失った魔物になりかけているのは間違いない。人間であったミカの身体が魔力を欲しがり、乾いた子宮が切実に交尾を求めていた。


 だが、そうではない。ミカは明らかに魔女として変異を遂げつつも、普段と変わらない完全な自我を持ち合わせている。魔力という猛毒を一度でも取り込んだ女は身体の芯から作り変えられ、魔女となり、男を見れば襲いかからずにはいられなくなるのが通常だ。


 魔王のオレをもってしてもはっきりとしたことは言えないが、飢えた魔女の前でオレがわざわざ玉袋付きの男根まで晒しているというのに、魔力に飢えたミカが正気に戻ることができたのはオレへの憎しみのせいなのか。


 正直、なんだかつまらないけれど、こうなってしまった以上は無理に交尾をせがむと本当に竿を斬り落とされかねない。


 オレは膨張したまま収まりがつかなくなった股ぐらの器官を慎重に扱いながら、もぞもぞと下着だけ穿き直しておいた。


「それ、どうするの?」


「だって・・・お前、どうせさせてくんないし」


 オレがそう言って頬を膨らませると、ミカは激怒こそしなかったものの。はあ、とまた大陸の裏側まで届くような深いため息をして心底、軽蔑の眼差しでオレを上目に見ている。


 そのとき、ミカの目が急に鋭くなったと思ったら、すうっとして巨大な影がオレたちの上に覆いかぶさった。


 はて。通り雨でもきたかと思って振り返れば、いつの間にか、背後に肉薄していた巨大で柔らかい肉の塊にぶつかった。どこか覚えのある生温かい感触は母性そのもの。これに触れていると、いつも夏の虫捕りを思い出すのは何故だろう。


「キナコくん」


 ずいぶん久しぶりに名前を呼ばれた気がする。いつもオレを見張っているミカは、オレのことをモノのように思っているから、こうやって血の通った人らしく扱われることは逆に珍しいのだ。


 まあ、オレは人間と違って赤い血の代わりに青い魔力が流れているのだが。それは、この際あまり言わないでおこう。

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