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利害の一致

お気に入り登録、評価、いいねなど、ご愛読いただき感謝しております!

いよいよ合戦!と言うことで登場人物が増えて参りましたので、相関図を作りました。

愛想の無い相関図で申し訳ないのですが、ご参考までに掲載しました。

よろしくお願いいたします。

挿絵(By みてみん)

龍禅の護衛のための兵を置き、海徳は鶴山城を目指し村を出立した。

時間を調整するため通常の行軍速度よりも遅めの速度で進んでいるためか、馬上で気持ちよさそうに鼻歌を歌う海徳を見ながら十六夜は頭を悩ませていた。


〈丸根城を出立する際に、海徳様が寒山様へと密使を遣わされたが、内容をお聞きしておくべきでしょうか・・・〉


「どうしたのだ、十六夜。そちも難しい顔をする時があるのだな。」


「何をおっしゃいますか、海徳様。私も人の子でございますから、色々な表情をするに決まっているではありませんか。」


覗き込むようにして見て来る海徳に十六夜は微笑みつつ小首をかしげた。


「まぁ、それはそうなのだが・・・。そちが儂の腹心となって以来、何事も順風満帆に進むのでな。そちの笑顔しか見たことがなかったので少し不安になったのだ。」


「それは、申し訳ございません。私が今こうして笑えるのは、全て海徳様のお陰でございます。今後、さらにたくさんの策を講じ海徳様のために働きますので、ご安心ください。」


「嬉しいことを言う。ところで、何を悩んでいたのだ。」


「海徳様が寒山様に遣わされた密使のことなのですが・・・」


「あぁ、あれか。そちが陣触れを出すのに忙しそうだったので、言うのを忘れておった。次五郎が雨情の軍と同道しておるから、寒山に必ず討ち取るように命じたのだ。」


「そうでございましたか。」


微笑んで答えた十六夜だが、不安を禁じえなかった。



十六夜の不安は的中した。

海徳からの密書を読んだ寒山は、密書を握りしめ、いきり立った。


「陣を山中から麓へと移す。すぐにだ。急げ。」


近習が寒山の命令を伝えようと、陣中を走り回る。

命令を伝え聞いた副将の中石川が寒山のところへ軍目付の小松田を伴いやって来ると、冴えない表情で寒山を咎めるように言った。


「寒山殿、いきなり陣を移すとは、どういうことだ。しかも俺に一言も相談しないとは・・・。戦は一人でできないということを、いい加減、分かってもらえないか。」


苦虫を嚙み潰したような顔となった寒山が冷ややかな声を出した。


「私が大将なのだ。陣替えなど、大将の専権事項であろう。私は大将を海徳様から直々に命じられたのだ。もしや、中石川殿は海徳様に文句があるのか。」


「いやいや、海徳様に文句なんて一言も言ってないでしょう。その妄想も止めていただきたいのだが・・・。」


寒山と中石川の二人は、事あるごとに角突き合わせている。

服装が乱れているだの、集合が遅いだの、返事の声が小さいだの、と理想の軍を目指し細かく指示を飛ばす寒山に対し、もう少し鷹揚にしないと逆に兵の士気が下がると言って中石川が反論する。


待ち伏せの軍を編成して国を発って以来、二人が激しく言いあう横に居続けた男が一人。

軍目付に任じられた小松田左近である。


〈海徳様。もう、私には無理です。こんな二人を取り持つなんて夢のまた夢でございます・・・〉


金に目がくらみ戦の経験の無い寒山を大将にした海徳であるが、戦の中で育ったような荒くれ者の中石川を寒山が巧みに御することが果たして可能なのだろうか、と時間が経つにつれて不安が増していった。


そこで、海徳は二人が衝突し悲惨な結果とならないよう保険をかけることにした。

物腰が柔らかく人当たりの良い小松田なら、二人の緩衝材としてうまく間を取り持ってくれるだろうと考えた海徳は小松田に軍目付を命じたのである。


小松田を呼び出した海徳に対し、小松田は恐る恐るだが、「無理でございます。」と断った。

なぜなら、小松田は先代の頃からずっと事務官僚として城内で働いており、戦の経験が皆無であったからだ。


だが、海徳は小松田の言うことに全く耳を貸さず、瞬きほどの間に小松田は押し切られた。

小松田は自らの情けなさに自嘲するも、次のように考え、仕方なかったのだと自らを慰めた。


〈独裁者が要求することに、命がけで拒否を続けることができる人間が一体どれほどいるのだろう・・・〉


海徳に押し付けられた任務ではあるが、根が真面目な小松田は、二人の間を取り持とうと真摯に取り組んだ。

小松田の苦労のかいもあって、少しのいざこざはあったものの、待ち伏せのために陣を構え、椎名軍の到着を今や遅しと待ち構えていたはずだった。


ところが、今にも殴り合うのではないかと思うぐらいに激しく唾を飛ばしあう二人を目にして、自分の努力が全て無駄に終わったのか、と小松田はひどい虚脱感を覚えた。


小松田が脱力している間にも二人の口論は激しさを増していく。


重役の子として育った寒山は、幼少の頃から優れた頭脳を駆使し、議論で負けたことがない。

正論居士になったとでも言えばいいのだろうか、寒山を納得させる者は誰もいなくなってしまった。

そんな状況に寒山は鼻高々だった。


だが、目の前の中石川という新しく海徳の家臣となった男は頭ごなしに寒山の意見を否定してくる。


〈私を否定する者が鷹条家にいるはずがない。私は海徳様から特別に目をかけられ、誰からも一目置かれる存在なのだ。それをこんな新参者が偉そうに反論してくるとは・・・〉

寒山はぎりっと歯を鳴らした。


「私の指揮の何が問題だと言うのですか。中石川殿。」


はぁーっ、とこれみよがしな大きなため息を吐いた中石川が肩をすくめる。


「すべてですよ、す・べ・て。陣替えするとか意味が分かりませんし、兵の配置も悪い。物見すら出していないではありませんか。」


「中石川殿は、『高所に陣を構え、逆落としに攻めれば破竹の勢いで勝てる。』と言う兵法の教えのことを言っておられるのでしょう。ですが、私が陣を移すのには考えがあるからです。黙って従って下さい。」


手に持った和鞭をぐっと握りしめ、寒山は中石川を睨みつけた。


「戦のことをろくに知らない貴方の言うことに黙って従うほど、私は死にたがりではないのですよ。高地に陣を取れば、兵は敵を見下し安心できるのです。山の麓で、しかも、鶴山城に背を向けて陣を構えるのは、あまりにも愚策。三日月殿の気が変わられて、我らに牙を向けるかもしれないのですぞ。」


「何を言い出すのかと思えば・・・。あまりにもお粗末な話であなたの頭が大丈夫かと心配になるぐらいです。鶴山城に背を向け陣を構えているのは、三日月殿へ信頼を見せるため。他家を出奔して当家へ仕官しただけあって、人を疑いの目で見るのがお得意なようですね。」


寒山が挑発するかのように薄ら笑いを浮かべた。

中石川はカチンときた。


「戦をしている時に信頼などという御大層な言葉を使えるのは、自らの命を賭け戦う誇り高き武士にのみ許されているのです。貴方のような頭でっかちな若君が使っていい言葉ではありません。それが証拠に、貴方は鶴山城から最も離れた場所に身を置き、たくさんの兵に囲まれていらっしゃっるではありませんか。」


寒山を馬鹿に仕切った声の中石川が憐れみの目を寒山に向けた。

痛いところを突かれた寒山だが、動揺した様子はみじんも見せない。


「大将たる私が討ち取られるような事態になれば、この軍が崩壊することすら、中石川殿には想像できないのですね。憐れな頭にご同情申し上げますよ。」


寒山は頭痛がするかのようにわざとらしく額をさわる。


「戦が初めての貴方に言われるのですから、確かに憐れなのかもしれませんね。」


「私の命令にそこまで反抗すると言うことは、中石川殿は戦が怖いのですね。戦が嫌ならここから帰ってもかまいませんよ。」


空気が一瞬で凍った。


「武人に言っていいことと悪いことの区別もつかんのか、小僧。」


寒山をつかみかからんばかりに詰め寄る中石川の勢いに小松田は怖気立った。


〈いや、まだだ。私が腑抜けてどうするのだ。〉

気力を振り絞った小松田が、口論を止めようとして二人の間に割って入った。


中石川に恐怖を感じ、振り下ろした寒山の和鞭が小松田の頭をはたいてしまう。

あまりの痛さに、寒山はへなへなと地面に崩れ落ちる。


しまったと思うものの、ここで謝っては沽券に関わると考えた寒山は、ぎろりと中石川を睨んだ。


「お前が私の言うことに逆らうから、こうなったのだ。お前が悪いのだ。」


中石川の顔に憤激の色がみなぎり始めた。


〈これはとんでもなくまずい。〉

小松田は、何でもないような顔をして立ち上がった。

本当は痛くて痛くてたまらないのだが、必死で耐える。


「中石川様。寒山様には、陣替えしなければいけない理由があるのでしょう。まずは、理由をお聞きになった方がよろしいのでは。」


「小松田殿が、そう言われるなら・・・」


〈面倒くさい。寒山様に教えてって、直接言えばいいでしょう。〉

小松田の心中は荒れ始めた。


「寒山様。中石川様もこのように言っておいでですから、お教えいただけませんでしょうか。」


「教えて欲しいなら、最初からそのように言えば良いのだ。猪武者め。」


「何だと・・・」


〈寒山様、そんな憎まれ口を言ってたら、また言い合いになるでしょう。〉

小松田は泣きたくなった。


「まぁまぁ、お二方とも。中石川様は既にご理解されているかと思いますが、愚かな私に陣替えの理由をお教えいただけませんでしょうか。」


深く頭を下げた小松田に対して、いがみ合っていた二人は口ごもる。

文官とは言えども、小松田は海徳からの信任が厚い奉行衆の一人である。

小松田が進んで恥をかいてくれているのだと分かった二人は、ようやく矛を収めた。


頭を下げつつ、小松田は思った。

〈幼いころから兵法に親しみ周囲から神童と言われ育った寒山様は、今まで頭脳ばかりを評価されてきたから武功を上げたいお気持ちは分かるのですが、大将を任されて勇み足を踏んでいるようですね。〉


やれやれと頭を上げた小松田に寒山が話し始めた。


「海徳様から密書が来たのだ。海徳様を裏切った次五郎が椎名家の家臣となり椎名軍と同道しているらしい。当家の機密を知っている次五郎を必ず殺せと書かれている。高地に陣取っていては、万が一、次五郎を取り逃がすかもしれない。だから、陣替えを行うのだ。」


中石川と小松田は別々の理由で驚く。


「次五郎様は、鷹条家でも勇猛果敢で有名な御方ではないか。まさか、裏切るなどと確かなのか。」


〈仕官して日の浅い中石川様には信じられないでしょうね。ですが、あの御二方の仲の悪さは有名でしたし、海徳様は次五郎様のことをいつも罵っておいででした。裏切ったと言うのは恐らく嘘でしょう。言いませんが・・・〉


小松田は、とうとうこの日が来たのかと思った。


「これを見ろ。どうだ、しっかりと書かれておるであろう。」


寒山が嬉しそうに中石川に密書を渡した。

小松田はようやく納得した。


〈寒山様が次五郎様のことを好敵手とお考えなのは有名でした。もっとも、次五郎様は寒山様のことを歯牙にもかけておられませんでしたが・・・。なるほど、我が軍にどんな被害が出ようとも、絶対に次五郎様を討ち取りたいのですね。〉


密書を穴の開くほど見つめていた中石川が、寒山に密書を返した。

大きく息を吐いた中石川が寒山に言った。


「分かった。そういうことなら陣替えに反対はない。ただし、俺を先鋒にしろ。俺も新参者で武功が必要だ。音に聞く椎名雨情と茄子次五郎の二人を討ち取れば、海徳様に大手を振ってお会いできるからな。」


ニヤリと笑った寒山が答えた。


「私の言うことに服従するなら、許しましょう。」


「よかろう。だが、先鋒のこと、(たが)えるなよ。」


功名心に逸る二人の利害が一致し、陣替えは速やかに行われることとなった。


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