はぜどん
数日後。
沙魚丸の周りには石臼造り計画のメンバーが集った。
「まず、俺から。」
居並ぶ者たちを抑えて真っ先に口を開いたのは行雲である。
〈この日のために挨拶の言葉を用意した私って・・・〉
『総責任者として何か偉そうな言葉を話すべきね。』
表面上は嫌々ながらも、内心ではとっても張り切っていた沙魚丸は苦笑して懐の原稿を取り出すのを止めた。
「行雲さん、どうぞ。」
話を始めるよう微笑む沙魚丸に、行雲が一礼を返して口を開いた。
「俺の知り合いに太兵衛と言う石臼造りの名人がおります。太兵衛が言っていたことを思い出しました。」
ここに集まったのはモノづくりが好きな人間である。
モノづくりの名人の言葉と聞いた一同は、早く話せと無言の圧力を行雲にかける。
皆の反応を全身で受け止めた行雲は、ニヤリと笑う。
「皆様は『石臼芸より茶臼芸』と言う諺をご存知ですか。」
行雲の問いかけに皆は黙って首を横に振る。
椎名領まで石臼は伝播されていないため、諺を聞いたことがある者はいたとしても内容まで知っている者はいない。
但し、一人だけ知っている者がいる。
そう、前世で石臼について学んだことのある沙魚丸である。
〈あー、これは私が答えなきゃいけないのかな・・・〉
できることなら目立ちたくないという精神を根底に抱える沙魚丸は、このまま知らない振りをしてもいいか、と思った。
しかし、やる気満々の行雲を見て、後ろ向きの姿勢ではダメだと気づいた沙魚丸は顔を上げる。
〈トップが消極的でどうするのよ!〉
沙魚丸は勇気を振り絞って、おずおずと答える。
「えーっとですね。広く浅くよりも、一つのことに秀でた方がいいと言う意味だったかと思います。」
沙魚丸の答えを聞き終わった行雲は両手で顔を覆って天を仰ぐ。
そして、そのまま動きを止めた。
〈えっ、何。主君のくせに知らないのかよ。がっかりさせやがって! とかですか・・・〉
やっぱり答えなきゃよかった、と沙魚丸は悔やみ始める。
天を仰ぐポーズを解いた行雲はおもむろに手を胸の前で組んだ。
「素晴らしい。俺の御主君はなんて物知りなのか。俺は今、心の底から感動している。どこの世界の貴人が石臼にまつわる諺など知っているだろう・・・。」
〈大袈裟すぎます。もしかして、馬鹿にされているのかしら・・・〉
疑念を持った沙魚丸がちらりと行雲を見ると、目をキラキラと輝かせて沙魚丸を見ている。
〈本気で感動してる・・・のかな〉
沙魚丸が疑いを消しかけたところで行雲が姿勢を改め、大真面目な顔をする。
「皆様もそう思いませんか。」
「うむ、まったくその通り。」
同意を迫る行雲に真っ先に頷いたのは、三輪である。
二人は同士とばかりに無言でがっしりと手を握った。
「某もそう思います。」
由北が遅れてはならぬと発言し、二人の手の上に自身の手を重ねた。
〈何をやっているのよ、この人たちは。〉
恥ずかしい演技を見せられているようで辟易とする沙魚丸だが、少しまんざらでもない気がする。
沙魚丸を称えた行動をしてくれているのだから。
〈とは言いつつも、由北さんは、私より三輪さんをずっと見ている気がするんだけど・・・〉
由北の笑顔が愛想笑いにしか見えない沙魚丸であった。
うんうん、と互いの目を見て頷きあった三人が名残惜しそうに手を放し、ようやく行雲が口を開いた。
「この諺は、『石臼は何でも挽けるが、出来た粉は粗い。片や、茶臼は茶しか挽けないが、きめ細かい抹茶ができる。』ことからできたのです。」
そうなんですね、と頷いた沙魚丸は、茶臼かぁと呟いた。
〈誰にも言ってないけど、茶臼で口薬用の火薬を造ることが私の目的なのよね。石臼の量産は何とかなりそうだけど、茶臼の量産は難しいかなぁ。〉
心の中でため息をついた沙魚丸は、行雲の視線を感じ、先をどうぞと微笑みで促した。
姿勢を正した行雲は大きく息を吸い込み、ピタリと沙魚丸を見た。
〈何ですか。そんな改まった顔をして・・・。覚悟が決まった目をしているわね。私も頑張るって決めたからね。さぁ、ドンと来なさい。〉
行雲の言葉を受け止めるべく沙魚丸も姿勢を正した。
「石臼も出来ていない内から、このようなことを言うのはダメだと分かってるんだが・・・」
〈おいおい、ここで躊躇するのはダメでしょ。プロポーズをぐずる男は振られちゃうよ。〉
残念そうな表情をする沙魚丸に行雲は大きく頭を振る。
「もし、素晴らしい石臼を造ることができたら、俺に茶臼を造らせてくれ。」
沙魚丸は驚いた。
心の底から驚いた。
〈もしかして、私の心を読んだの。行雲さんって、特殊能力を持ってる人なの・・・〉
などとあり得ないことを思い浮かべるほどに驚いたのだ。
だが、行雲の濁りない決意に燃える瞳を見た沙魚丸は自身の勘違いだと即座に察した。
〈よしきたぁ! すべて私の思い通り。〉
歓喜に包まれた沙魚丸はにやけそうになる表情を何とかするために自らの頬を強めのビンタをしなければならなかった。
バチン
手形の残った頬を皆にさらし、沙魚丸は叫んだ。
「もちろんです。石臼も茶臼も行雲さんに任せます。なんなら今日中に造ってくれていいですよ。」
沙魚丸は本気で言ったのだが、行雲を始め皆は場を和ませる冗談だと思った。
ノリノリになった沙魚丸は熱のこもった声を上げる。
「私は感動しました。石臼造りは、常盤木領の民を飢えから救うために計画したものです。それを助っ人で参加した行雲さんが茶臼まで造ろうとしてくれている。皆さん、私たちも負けられません。さぁ、やりましょう!」
沙魚丸の締めの言葉に一同の心は一つになった。
そして、行雲を中心として、由北と三輪が補佐し石臼造りが始まった。
由北が石臼に向いていそうな石を領内の各地から運んで来る間に、行雲と三輪は石臼を造るための準備をする。
啖呵を切った沙魚丸はと言えば、紅雨や孔雀和尚を始めとした師匠からの教えと共に神界でも修行に励み、どうにか暇を見つけては作業小屋へ走った。
ズラリと並んだ石を前に、行雲が選んだのは梅雨石と言われる花崗岩だった。
理由を聞いた沙魚丸に行雲は楽しそうに答えた。
「硬すぎる石は何と言っても掘りにくい。粉挽きに使うと表面がつるつるになって粉焼けしやすい、と太兵衛が言っていたのを思い出した。」
そんなこんなで、行雲の弟子を含めた10人で試行錯誤を繰り返し、石臼造りに励む日々が続いた。
第一号の石臼が出来たのは、それから2か月が過ぎていた。
小屋の中には、石臼を造る途中で失敗のために割れた石がゴロゴロと転がる。
その中を進もうと足の踏み場を見つけるのに苦労する沙魚丸が立ち止まって感動の声を上げる。
「よく割りましたねぇ。」
「色々と試したからなぁ・・・。特に、穀物を入れる穴を丸く掘るのが難しい。この工程が無事に終わると失敗は減るから、優先してやった方がいい。」
沙魚丸に説明する行雲の横で三輪が筆を上げる。
「今の話はしっかりと書いておきます。」
三輪は石臼造りの内容を本にするべく、まめまめしく筆を動かしている。
石臼造りを始める時、沙魚丸から頼まれていたのだ。
3冊作って欲しいと。
1冊は、雨情に渡すため。
1冊は、沙魚丸の領地で使うため。
1冊は、何かあった時のための保存用。
薄い本を買っていた沙魚丸は、保存用の本の大事さを知っているのだ。
三輪が筆を動かしている間に、行雲は袋から取り出した小麦を上臼のくぼみに入れた。
「沙魚丸様。どうぞ。」
沙魚丸は挽き木をつかんだ。
〈この挽き木も持ちやすい工夫をしてるのね。粗暴に見せかけて、実は繊細。行雲さんはジゴロの才能があるかも・・・。将来、私の領地ってモテル男たちの巣窟になる気がする。〉
今はそんな先のことを考えている場合じゃないわ、と頭を振って雑念を追い払った沙魚丸は無心で石臼を回す。
ゴロゴロ
ゴロゴロ
と、何度か回すうちに、粗く挽かれた小麦が石臼から出て来た。
おぉ、と沙魚丸は嬉しい声を出す。
しっかりと挽けるのを確かめた沙魚丸は手を止め、笑顔を行雲に向けた。
「ちゃんと挽けてますね。立派な石臼をありがとうございます。」
沙魚丸の誉め言葉に、感極まった顔をしている行雲の代わりに三輪が答えた。
「行雲が頑張ってくれました。」
続けて、興奮気味に話すのは由北だった。
「私も粉食を研究します!」
由北の言葉を聞いた沙魚丸は次の計画をぶち上げるのはここしかないと思った。
「相談があります。」
「はい。」
3人が沙魚丸の言葉を静かに待つ。
石臼を造ることが決まってから、ちょこちょこと作業小屋へ訪れた沙魚丸は、気づいたことを色々と話した。
沙魚丸が言うことを試した結果、彼らは沙魚丸の発言を聞く価値があると思うようになっていた。
「石臼を挽くのは大変ですよね。」
「そうですね。何度も挽かないと粉にはなりません。それに、ただ回すだけですから飽きます。しかも、ゆっくり回さないと粉焼けを起こしますから大変なことは事実です。飢饉対策とは言え、辛い労働になるのは間違いありません。」
最も多く臼を回した由北が顔をしかめつつ話す。
うんうん、と頷いた沙魚丸が指を立てた。
「そこでですね、人力に頼らない方法は、どうかと思ったのです。」
「牛とか馬で石臼を回すのですか。」
道具に精通した三輪が、似たような道具はありますが・・・、と口を挟む。
「いえ、水を利用しようと思います。」
訝し気な表情をする3人に沙魚丸は言葉を続ける。
「川の流れを利用した水車を造ります。」
石臼が思いの外、簡単に出来たことに気をよくしていた沙魚丸は水車もサクッとできるだろうと思っての提案だった。
だが、水車が出来上がったのは、何と3年後・・・
行雲は茶臼に取り掛かる前に、水車用の特大の石臼を造らなければならなかった。
そんな大きな石がその辺に転がっている訳がない。
行雲は石切り場の選定から始め、さらに、石を切ると言うことをしなければならなかった。
石切りの技術を知らない行雲の苦労は想像を絶することになるのだが、行雲の苦労話はまた別の機会に・・・
◆◆◆
水車が出来上がる直前、沙魚丸は神界にいた。
なぜか。
もちろん、修行のためである。
神界での修業は、修行後に女子会?が開かれる。
会の参加者は2人。
沙魚丸とムカデ姫である。
「はぜどんさぁ、私の言ったこと覚えてる。」
修業が終わったムカデ姫がグビグビ飲んでいた水筒をドンと置き、沙魚丸に切り出した。
「むーちゃん、はぜどんはやめてって何回も言ってるでしょ。」
秋夜叉姫にしごかれる二人は、同じ釜の飯を食った二人として、あるいは、秋夜叉姫に憧れる仲間として、初めて出会った時よりずっと、ずーっと仲良くなっていた。
いや、他に友人と呼べる者がいない二人にとって親友と言える存在かもしれない。
だが、『私たち、親友だよね。』と手を取り合って言うには、もう年を取り過ぎた二人にはいささか眩しすぎる言葉でもある。
「はぜどんって響きがさぁ、強そうだし、何よりかっこいいよ。」
ぶっきらぼうに話すムカデ姫の言うことに沙魚丸はどうしても賛成できないでいた。
沙魚丸はイラストレーターとして、過去に放映されたアニメも随分と参考にしたことがある。
そう、はぜどんと言えば、バケツを乗っけたキャラが脳裏に浮かぶのだ。
〈はーちゃんとか、はぜっちとかさぁ、色々あるでしょ。はぜどんってセンス無いわぁ・・・〉
恨めし気な目をムカデ姫に向けた沙魚丸が不満をぶつける。
「私は、ちゃん付けしてるのになぁ。どん、は女の子に付けないよね、普通。」
「と言っても、はぜどんは、すっかり男だしねぇ・・・」
沙魚丸にじっとりと向けたムカデ姫の視線には憐れみしかなかった。
この3年で沙魚丸の魂と体はすっかりと馴染んでしまった。
転生した当初、神界では結衣と沙魚丸の姿を自分の意志で好きなように変えることができていたのだが、修行が進むにつれて結衣の姿を選ぶことはできなくなっていた。
ムカデ姫が豊満な胸をユッサユッサ揺らし、これでもかとモデルポーズを取り始める。
「はぜどんは元から男みたいな体だったしねぇ。私もね、結衣の姿なら、ちゃん呼びする気はあるのよ・・・。はるちゃんとか。」
〈はるちゃん、だと。むーちゃんが考えたニックネームにしては可愛いわね。〉
ムカデ姫のセンスの無さに絶望していた沙魚丸は、ええっと声を出して驚く。
虚をつかれた沙魚丸は無防備となっていた。
そんな隙を武神の眷属たるムカデ姫が見逃がすわけが無い。
沙魚丸の胸をパンパンと叩いたムカデ姫は勝ち誇ったように、ふっと笑う。
「こんなにいい体になって、修行に付き合った私も嬉しいよ。女の子にモテモテの鍛え込んだ細マッチョになったのに『ちゃん』は無いよ。『ちゃん』は。」
にっこりと微笑んだムカデ姫は沙魚丸の肩にそっと手を置いた。
「こんな立派な体をしてさぁ、はぜちゃんなんて呼ばれ方は、気持ち悪いし、家臣に舐められるよ。」
「ぐぬぬ。」
沙魚丸は言い返せない。
3年に渡る神界と下界の厳しい修行の結果、沙魚丸の肉体はギリシャ彫刻もビックリな体となった。
前世であれば、芸能界デビューもありかな、と言うぐらいに・・・
修行場にある鏡に写った自分のナイスバディにウットリする沙魚丸をムカデ姫は知っているのだ。
反論できず口を尖らせている沙魚丸の頬をムカデ姫が突っついた。
「それより、孔雀和尚を追い出してよ。」
「また、その話。だからぁ、無理だって言ってるでしょ。和尚さんは沙魚丸家臣団の軍師の座をつかんだの。黒衣の軍師って、みんなに言われてるのよ・・・」
孔雀和尚のドヤ顔を思い出し、ため息をついた沙魚丸だが、千載一遇の機会が訪れたと閃いた。
〈もらったぁ!〉
頬を突っつくムカデ姫の人差し指を突き指させてやろうと沙魚丸は頭を素早く回転した。
「ぎゃぁ。」
叫んだのは沙魚丸だった。
ムカデ姫の指は沙魚丸の頬に負けるほど柔な指では無かった。
「はぜどんは本当に馬鹿だよねぇ・・・」
「いつか、私が勝つ。」
頬に穴が開いていないか確認する沙魚丸に肩をすくめてムカデ姫が返事をする。
「はい、はい。頑張ってね。」
本気を出したムカデ姫に沙魚丸は勝ったことが無い。
沙魚丸が修行できるようにムカデ姫の力は秋夜叉姫から枷をつけられているのだ。
ジンジンとする頬をさすりながら沙魚丸はムカデ姫の顔を見た。
「和尚さんのこと嫌いだよね。なんかあったの。」
「会ったことも見たことも無いよ。」
「ちょっと、意味が分からないんだけど・・・。」
「孔雀なんて名前を名乗っているところが絶望的にヤバいからだよ。」
「孔雀かぁ・・・。確か老師が名付け親らしいけど。孔雀って綺麗だからいいと思うけど。」
ヤレヤレとムカデ姫は肩をすくめ、さらに頭を振り、分かってないなぁと呟き、大きくため息までついた。
「はぜどんは、本当に無知だよね。孔雀の大好物はムカデなんだよ。私、被捕食者なの。漢字分かる。食べられる方なの。」
そして、人差し指を唇に持って行き、内緒のポーズを取ると、小声で話し始める。
「孔雀明王様って孔雀に乗ってるでしょ。この孔雀が私を見る度に涎を垂らすの。もう本当に嫌。」
プリプリ怒るムカデ姫に沙魚丸は尋ねる。
「その孔雀って雄なの?」
疑問を呈した瞬間、沙魚丸の頬はぎゅぅっとつねり上げられた。
「痛い、痛いって。」
「今の話の流れで、どうしてそんな下ネタに行くのよ。あの孔雀は私を餌だと思ってるの。」
沙魚丸は頬をさすりさすりしながら、小首を傾げる。
「眷属同士で食い合っていいの?」
「ダメに決まってるでしょ。だけど、あの孔雀、3歩歩いたら何もかも忘れるのよ。」
「あぁ、鳥頭なのね・・・」
〈明王様の眷属でも鳥頭は変わらないのね・・・〉
「そんな訳で、私は孔雀が嫌いなの。いつか、私が焼き鳥にしてやろうと狙っているから、手伝ってね。」
「うん、えーと、手伝うかどうかは置いといて・・・。まぁ、理由は分かったわ。でも、神界と下界でしょ。絶対に会うことないから気にしなくて良くない・・・」
ちっちっち、とムカデ姫が指を振る。
「はぜどんが領地をもらったら、私、はぜどんの見張り役として下界に行くことになってるの。」
「えっ、まじで。」
「何、嫌なの・・・」
「嬉しいに決まってんじゃん。やたー。じゃぁ、毎日、会えるの。」
沙魚丸の答えに上機嫌となったムカデ姫がコテンと首をかしげる。
「私に変身して欲しい希望を聞いておくようにおひいさまから言われたんだけど・・・」
沙魚丸はムカデ姫の話をきちんと聞かずに独り言ちる。
「もしかして、ムカデ。それは、ちょっと・・・。どうしよう。」
呟いた沙魚丸の頭をパシーンとムカデ姫が一発はたいた。
「ねぇ。はぜどんって本当に馬鹿なの。それとも冗談で言ってるの。」
〈本気で言ってるって言ったら殺されそうだし、冗談って言ってもヤバそうだなぁ・・・〉
ムカデ姫の顔色を見た沙魚丸は笑ってごまかすことにする。
「あっ、そうだ。私のお嫁さんとか、どうかしら。」
「えっ、密かに私を狙ってたの。私のすべてはおひいさまのためにあるんだけど・・・」
胸を隠すポーズをして、不審げに沙魚丸を見るムカデ姫に沙魚丸はきっぱりと手を上げる。
「狙ってません。」
沙魚丸の返事なんて、どうでもいいかのようにムカデ姫が口を開く。
「そうだ。言い忘れてたわ。下界では私の神力は封じられて使えないから。」
〈神力が使えなくっても、むーちゃんは片手で私を持ち上げられるから関係ないよね・・・〉
ムカデ姫に怪力のことを言うと酷い目に会うことを十二分に体で知っている沙魚丸は言葉に気をつける。
「むーちゃんは神力なしでも強いから関係ないよね。」
「残念でした。武人として下界に行くことは禁じられてるの。」
「じゃぁ、何するの。」
「もち、はぜどんの内政のお手伝いよ。」
内政の手伝いと聞いた沙魚丸は絶句する。
「むーちゃんが・・・」
「何よ、その顔。」
呆気に取られた沙魚丸の頬をムカデ姫が引っ張った。
いてて、と言いながら沙魚丸は混乱していた。
なぜなら、ムカデ姫は武神の眷属であって、内政ができるなんて聞いたことがないからだ。
「だって、むーちゃん、寝てたから数百年分を取り戻すために勉強中なんでしょ。」
「そうだよ。あと、私は武に特化した眷属だから、頭の中身は普通なんだって。」
〈おっ、おう、自分で言っちゃった。〉
沙魚丸は真っ先に思い浮かべた職を言ってみる。
「本当にお嫁さんぐらいしか・・・」
「私もそんな気がしてきた・・・」
二人はムカデ姫が何になるか頭を抱えるのであった。




