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おじいちゃん

一方、有紀に引きずるように連れて行かれた沙魚丸であるが・・・


離れ座敷に入る手前の縁側に有紀が座ったので、沙魚丸は有紀の後に隠れるようにちょこんと座り様子を(うかが)うことにした。

有紀の(りん)とした居ずまいを見て沙魚丸の口元がゆるむ。

〈叔母上、かっこいい。できる女将って感じで素敵。〉


沙魚丸から羨望の眼差しを向けられた有紀だが、澄み切った声で座敷の中で端座している老人に呼びかける。


「お父様、可愛い娘が参りましたよ。」


前世で実の父親にそのような軽口を叩いたことのない沙魚丸は驚いた。

さらに、有紀の嘘偽りの欠片(かけら)すらない清々しい表情を見て、呆気に取られる。


〈叔母上、色々と凄いわね・・・〉


ふっふっふ、と書見していたらしい紅雨がついと顔を上げ、厳めしい口髭を触りつつ、有紀に語りかける。


「感謝せい。儂に似たことをな。」


二人の挨拶代わりの会話を聞き終えた沙魚丸は心の中で呟いた。

〈親子だなぁ・・・〉、と。


そんな二人の会話を呑気に聞いていた沙魚丸は有紀の気配が変わったことに気づき動揺する。

〈あっ、あつい。叔母上の体から怒りのオーラが・・・〉

そんな馬鹿な、と忙しく沙魚丸が頭を横に振っていると、有紀がさっと立ち上がった。

ゆっくりと頭を横に振りながら座敷に入り、紅雨の前に座ると有紀は答える。


「何度も申し上げておりますが、私はお母様に似たのです。」


「たわけたことを申すな。お前の母は、道端(みちばた)でつつましやかに咲く小さな花のような可憐な女であった。お前の中身は鬼百合ではないか。毛一筋も似ておらん。」


「まぁ、こんなに可愛い娘を鬼百合に例えるなんて、酷いお父様ですこと。お母様はお天道様(おてんとうさま)のように明るく優しい御方でした。お父様はお母様のことを何にもご存じ無いのですね。」


およよ、と袂で顔を隠し泣く真似をする有紀を見て、沙魚丸の口は半開きになってしまう。

〈叔母上、ちょっと(あお)りすぎではないかしら・・・〉


「お前には夫婦の機微は分からんのだ。たわけたことばかり申しておると禿げるぞ。」


ふっ、と軽く笑った有紀はたおやかな黒髪をふぁさっとかき上げ、空中をふわりと舞わせると、勝ち誇った表情を浮かべた。


「禿げているのはお父様でしょ。私はお母様に似たので禿げません。」


「儂は禿げておらん。ちょっぴり薄いだけじゃ。」


紅雨の言葉を聞いた有紀は大袈裟にため息をつく。

そして、とても悲しそうな表情で言うのだ。


「それを禿げていると言うのです。」


「そう言うところが鬼百合だと言うのだ。」


火花を飛ばして睨みあう二人を前に沙魚丸は仲裁すべきか放っておくべきか悩む。

そして、師からの教えを思い出す。

鶴山城から戻って来たばかりの雨情に強判談(こわだんぱん)して、押し売りのように沙魚丸の学問の師となった孔雀和尚の教えを。


「ハゼ殿。拙僧が申し上げた『三十六計逃げるに如かず』ですが、覚えておいでですか。」


「もちろんです。命さえあれば何とかなるので、死にそうな危機が訪れた時は、さっさと逃げろと言う教えですよね。」


ドヤ顔で答えた沙魚丸に和尚はニッコリと笑った。


「惜しいですが、それでは足りません。」


「足りませんか。」


あれー、と首を傾げる沙魚丸に和尚は優しく(さと)す。


「逃げる時は堂々と逃げなければなりません。卑怯(ひきょう)惰弱(だじゃく)な振る舞いをしたと敵だけではなく味方からも思われた時、ハゼ殿は大将として死んだのです。お分かりですか。」


「和尚様。堂々と言うのが今一つ分かりませんが、何となく申されたいことは分かった気がいたします。」


「今は、それで結構です。これから、しっかりと学んでいきましょう。ですが、一つだけ覚えてください。ハゼ殿は主君となったのですから、一つ一つの振る舞いで周囲の信頼を得なければならないことを胸に刻んで下さいませ。」


「了解です。」


沙魚丸は孔雀和尚の言葉を噛みしめる様に数度唱え、考えるのだ。

〈ここで私がいなくなれば、石臼の製作は叔父上から許可をもらったってことで進められるんじゃない。そうよね、そうよね。でも、ここで逃げ出すのは卑怯かしら・・・。くっ、悩ましいわね。体が逃げたがっているけど、心がダメよと言っている。あぁ、どうしたらいいの。〉


逃げるべきか逃げざるべきか、王子ハムレットのような心境となった沙魚丸。

迷いで揺らめく沙魚丸の心を察知するのが、しっかり者の戦国武将の妻たる(あかし)

有紀の勘はとても鋭い。


「ハゼ様。何をしているのかしら。」


剣呑な有紀の声に沙魚丸はぎょっとした。

〈うわぁ、夫婦そろって何なのよ。怖い。怖すぎる。とりあえず、ごまかすしかないわ。〉

沙魚丸はピシッと背筋を伸ばして答えるのだ。


「お二人のためにお水をお持ちしようかと思いました。」


咄嗟に嘘をつく沙魚丸。

〈やっぱり、ここで逃げておくべきだったかしら。もう遅いけど・・・〉

後悔する沙魚丸に声が飛んだ。


「何だ、沙魚丸もいたのか。お前もこっちに来い。」


沙魚丸がいたことにようやく気付いた紅雨が沙魚丸を見た。

その視線には、じっとりと疑いがこもっている。

もしかして、しゃべったのか、と・・・


慌てて沙魚丸は首を振る。

何にもしゃべっておりません、と。


有紀は紅雨と沙魚丸が1度しか会っていないと思っている。

沙魚丸がこの屋敷に来て、雨情に連れられ紅雨に挨拶した1度だけだと・・・

実は、違う。

沙魚丸と紅雨は、もう何度も会っている。

そう、何日も何時間も濃厚な時間を過ごしているのだ。


◆◆◆


雨情の屋敷に入ってすぐに雨情に連れられ離れにいる紅雨のところへ挨拶に行った時、紅雨はおもむろに言った。


「儂をじいちゃんと呼ぶように。」


〈いかつい髭をして何を言ってるんだろう・・・。もしかしてギャクかしら。〉

沙魚丸は戸惑った。

そして、何と返事をするか悩んだ。


〈とても頑固そうな顔をしているけど、初対面の私の気持ちを楽にしようとしてくれてるのかしら。だとすると、叔父上を始め、常盤木家はツンデレ集団かもしれない。〉

とは言え、初対面の相手をおじいちゃんと呼ぶわけにもいかず、沙魚丸は椎名秀久(おじいさん)のことを思い出した。


「私には既に祖父がおりますが・・・」


〈会ったことも無いし、沙魚丸君の記憶にも無いけどね。〉


「あんな者を祖父などと思わなくていい。今から儂がお前のじいちゃんだ。いいな。」


「はっ、はぁ・・・」


「そういう訳だ、沙魚丸。義父上をこれからはおじいちゃんと呼ぶように。」


隣にいる雨情が言うので、ぎょっとして沙魚丸は雨情の顔を見ると、ものすごく真面目な顔で言っている。


〈マジですか。うーん、これは、おじいちゃんと呼ばないといけなさそうね・・・〉


「おじいさま。これから・・・」


「おじいちゃん。」


紅雨からぴしりと言葉を正される。

〈何、このお約束の展開は。〉

仕方なく、沙魚丸は三つ指をついて挨拶をする。


「おじいちゃん。これからよろしくお願いします。」


それでいいのだ、と言うような表情になった紅雨がニッコリと笑う。


「よし。おじいちゃんが碁を教えてやろう。沙魚丸はどれほどできるのだ。」


「あの、1度もやったことありません・・・」


沙魚丸は前世でも碁石すら触ったことが無い。

お化けの碁打ちが小学生に()りつき活躍する漫画を読んだぐらいでルールすら知らない。

元の沙魚丸にも碁の知識は無い。

生きるのに必死でのんびりと碁をやっている暇はなかったのだから。


「それはいかん。大将たる者、碁ができなくては軍略一つ練れんぞ。」


そう言った紅雨はすくっと立ち上がり、いそいそと碁盤を持ち出してきた。


「儂がしっかりと教えてやるからな。さぁ、さぁ、そこへ座りなさい。」


「えっと・・・」


ちらりと雨情を見ると、雨情はやれやれと言った顔をしている。

沙魚丸の戸惑った視線の先を追った紅雨が、沙魚丸の視線の先にいる雨情に気づき、手を振りながら言う。


「何だ、雨情。まだいたのか。戦の間、有紀がずっとお前のことを心配していたぞ。まだ、ろくに会話すらしておらんのだろう。さっさと行ってやれ。」


「義父上。沙魚丸を可愛がり過ぎないようにお願いいたします。」


「何を言っている。初めて会う孫を可愛がって何が悪い。」


「義父上。孫ではありません。」


「酒井のじじいの代わりを儂がするのだ。孫と言って何が悪い。」


紅雨の言葉を聞いて、雨情は一礼すると沙魚丸の肩を叩いて言った。


「じいちゃんにたっぷりと可愛がってもらえ。」


そして、立ち上がり、背を向けようとすると、紅雨が思いついたように雨情へ話しかける。


「有紀には・・・、沙魚丸と碁を打つことを言うでないぞ。」


「分かっております。」


ニヤリと笑った雨情は去って行った。


それから、水すら飲む暇なくビシビシと教えられた。

日が傾き、夕日が座敷を真っ赤に照らす。


「これくらいにしておくか。」


心から満足したように呟いた紅雨と、ようやく終わったと安堵する沙魚丸。

ほっとしている沙魚丸に紅雨は明るい声で言う。


「なかなかいい筋をしておる。50年もすれば、儂といい勝負ができるかもしれんな。」


わっはっは、と豪快に笑う紅雨にこくこくと頷きながら沙魚丸は思った。


〈褒めてないよね・・・。何気に、無理って言ってるのかしら。〉


「では、明日も来るのだぞ。」


「明日もですか。」


「当たり前だ。雨情も言っておっただろう。お前は当家で修行することになったと。儂が碁と和歌を教えてやる。楽しいのう。お前もそう思うだろう。」


反論を許さない紅雨の強い眼差しに沙魚丸の抵抗する心は瞬時に砕けて消えた。


「もちろんです。」


それからと言うもの、毎日毎日、紅雨の離れを訪れては碁と和歌を教わる沙魚丸であった。


しかし、沙魚丸が紅雨のところへ通っているのは、雨情以外、数人の者しか知らない秘密である。

何しろ、沙魚丸と過ごすこの時は、紅雨の周りからすべての家人が追い払われるのだから。

不思議に思った沙魚丸は碁石を置きながら聞いてみた。


「どうして、秘密なのですか。」


ちらり、と沙魚丸を見た紅雨が、ふむ、と言って少し時間をおいてから口を開く。


「有紀もな、碁が上手いのだ。」


「そうなんですか。」


感心したように返事をする沙魚丸にピクリと紅雨が片眉を上げた。


「儂ほどではないぞ。」


「叔母上もおじいちゃんの指導を受けたのですか。」


「その通り。だが、あの子は、自力で強くなったと息巻くのだ。」


「それは悲しいですね。」


何の気なしに言った沙魚丸の言葉に紅雨が深く深く頷く。


「沙魚丸はおじいちゃんの心をよく分かっておる。」


「は?」


何を言ってるんだろう、と言う顔をする沙魚丸のことなど軽く無視して紅雨は話を続ける。


「そこでじゃ。儂は考えたのだ。あの子に素直さを取り戻すにはどうすればいいかとな。聞きたいだろう。」


もちろん聞きたいよな、と言う表情をした紅雨の顔が徐々に沙魚丸へと近づいて来る。

〈圧が強すぎる。絶対にこの一族は悩みなんて無いわ。〉

ストレスが増えつつある沙魚丸は精一杯の愛想を顔にみなぎらせて力強く頷く。


「はい。是非とも。」


「仕方あるまい。特別に教えてやろう。沙魚丸を強くして有紀を負かすのだ。そして、儂の力を見せつけるのだ。」


ふっふっふ、と暗い表情で笑う紅雨を見つつ、沙魚丸は思うのだ。

〈昨日、今日、碁を始めた私が勝つっておじいちゃんは思ってるのね。〉


こてん、と首を傾げた沙魚丸はニヤリと笑う。


〈おーほっほっほっ。こういう時は、やっぱりお嬢様笑いが最適よね。素晴らしいわ。おじいちゃんは私に碁の才能があると思ったのね。勝つわ、おじいちゃん。私、あなたの娘をコテンパンにやっつけてあげる。〉


俄然やる気を出した沙魚丸だが、実を言うと、紅雨は沙魚丸に碁を打つ才能があるとは全然思っていなかった。

この時点では、置き碁と言うハンデ戦で有紀を敗者にすると言う企みを紅雨は考えていた。

だが、この後の沙魚丸の修行により紅雨の考えが変わっていく。


紅雨の人を見る目は確かだった。

沙魚丸は、いい意味で単純なのだ。

能力が高い、と言われてチヤホヤされたことなど皆無の沙魚丸である。


期待をかけられたことに奮起した沙魚丸は強くなるために、有紀に勝つために、暇さえあれば、紅雨のところで碁を教わった。


目を輝かせて紅雨の指導を受ける沙魚丸に、紅雨も沙魚丸のことがどんどんとかわいくなってくる。

何しろ、紅雨のもとへ訪れる子供は沙魚丸だけなのだ。

本当の孫たちからは、口やかましい御祖父様(おじいさま)と煙たがられている紅雨である。

秘密裏に沙魚丸を鍛え上げて、邪険にする孫たちに紅雨と沙魚丸2人の実力を見せつけてやると思ってしまった。

そう、紅雨は真剣勝負で有紀を負かせてやると計画を変更したのだ。


紅雨にも沙魚丸にも好タイミングだったのかもしれない。

常盤木領の者は、皆、大忙しで、ある意味、暇な2人に注意を払う者がいないのだから。


雨情は木蓮以下の主だった家臣を引き連れ、野々山城へ戦の報告に行かなければならない。

源之進、次五郎、針間の3人もこれまた忙しい。


鶴山城の戦いで沙魚丸の臣下となることを誓った隅小沢家の者たちにも家族がいる。

その家族はと言えば、沙魚丸に臣従したことすら知らずに鷹条家の領内で戦に出た夫や父、兄弟を心配して待っているのだ。

敗戦で混乱している所を狙って、隅小沢家の一族郎党を鷹条領から鶴山城へ、更に常盤木領へと3人が主軸となって脱出させた。


そして、源之進は協力してくれた三日月武蔵のため、鶴山城で後始末に忙しく駆け回っている。

鷹条家の家臣だった次五郎は以前の縁故を活用し、鷹条家が一枚岩の結束からほど遠い状態にするべく針間と共に内部工作に取り組み始めた。

沙魚丸が一番頼りしている小次郎にいたっては、酒井家の旧臣を大木村に根付かせるべく額に汗している。


ちなみに、一郎は清水彦左衛門の息子に愛刀を届けた後、清水家の家臣に取り立てられた。

現在は、清水家の者たちから信頼を得るべく、笑顔で働いている。


二郎と四葩は笹屋のところで、商人に化けるための修行についた。


口やかましい人たちが誰もいない自由な状態を沙魚丸は楽しんでいた。

だから、紅雨の名前が有紀から出た時、雨情と有紀で紅雨の説得を終わらせて欲しかった。


有紀が紅雨の離れへ行くと言った時、沙魚丸は思った。

〈このままでは、おじいちゃんとの極秘計画がバレちゃうわ。何とか逃げないといけないのだけど。〉


そう思ったものの、有紀の力は強く沙魚丸は抵抗できなかった。

引きずられながら、沙魚丸は必死で考えた。

〈うん。何にも思いつかない。まぁ、何とかなるでしょ。〉

沙魚丸は考えるのをやめた。


無策の沙魚丸は紅雨に見つからないように座っていた。

できるだけ、いやなことは後回しにしようと考えて・・・


◆◆◆


沙魚丸を見る紅雨の目は冷たい。

〈私が叔母上に話したと思ってる目だわ。あぁ、辛い。人から信頼されないって辛いわ。なんてね。悲劇のヒロインごっこをやってる場合じゃないのよ。〉


沙魚丸は必死で訴える。

座敷に入り、紅雨の前に座る前に分かってもらおうと。

そう、有紀に気づかれる前に分かってもらわないといけないのだ。

話してません、何にも話してませんから、と身振り手振りで必死に訴える沙魚丸だが、紅雨はじっとりとした視線を変えない。


〈やばい。どうしよう。〉


呑気な沙魚丸もこの危機を乗り切ろうと表情が深刻なものに変わって行く。

ただならない表情に紅雨も気づいたようで、ようやく明るい表情に変わった。

〈やれやれ。やっぱり、誠意ね。〉

ほっと胸をなでおろす沙魚丸だが、自身の変顔で解決したと知れば、泣くかもしれない。


幸いなことに有紀の視界から外れている沙魚丸が何をしているのか知ることなく、有紀は紅雨にかくかくしかじかと経緯を話す。


「という訳で、ハゼ様の石臼造りのご許可をお父様にいただきに参ったのです。」


有紀の話を聞き終わった紅雨は、

「そうさのう。」

と、何かを考えるように答えた。


〈叔母上。立て板に水のようなご説明。とても天晴れでございます。〉

沙魚丸は実に偉そうに内心で有紀を褒める。


「では、よろしいですか。」


有紀の問いかけに紅雨は軽く首を横に振る。


「沙魚丸を試験する。それで合格なら許そう。」


「お父様。また、そんな子供みたいなことを・・・」


「この試験に合格すれば、茶臼を造るのも許してやろう。」


「それは魅力的なお話ですわね。」


父と娘はニヤリと笑いあう。

〈また始まった・・・。何だかんだ言って、仲良しよね。〉

沙魚丸は顔に出さないように静かにうんざりした。


「もしも不合格ならどうするのですか。」


「儂が出す簡単な試験を落第するようでは、この先が大変不安である。仕方ないので、儂が自ら沙魚丸を特訓するしかあるまい。」


悲し気に話す紅雨だが、沙魚丸は紅雨の口角が少しばかり上がっているのを見て取った。

〈おじいちゃん、堂々と私を鍛えるつもりね。〉

特訓の時間がさらに長くなるのか、と悲鳴を上げそうになる沙魚丸。


その前に、有紀がため息をついた。


「お父様。一人で寂しいからハゼ様に相手して欲しいと言えばどうですか。」


〈えっ、そうなの。〉

驚く沙魚丸だが、図星を突かれたのか珍しく紅雨がうろたえる。


「儂は孤独を愛する男だぞ。一人で寂しいなどと、何をたわけたことを・・・」


「はい、はい。そうですね。孤高の老戦士様、失礼いたしました。」


ぐぬぬ、と言う紅雨を無視して有紀が沙魚丸にぐっと顔を近づける。


「ハゼ様、勝負を受けますわよ。いいですわね。」


〈怖い。これは、拒否権は無さそうね・・・〉

精一杯の笑顔で沙魚丸は頷いた。


「がんばります。」


よろしい、と有紀は頷くと紅雨に尋ねる。


「それで、勝負とは何をなさるおつもりですか。」


「何、簡単なことだ。儂に茶を点ててもらおうか。」


紅雨がニンマリと笑った。

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