蝦夷王国2
天文14年(1545年秋)14歳
食事の時間となる。
俺は宮殿の外交用の饗応スペースに座っている。窓際のテーブル席に俺と妻達。その前に複数の広く長いテーブルが配置されている。
そこに妻の家族や重臣と重臣の家族が座っている。北条家チームもテーブルを用意している。基本テーブルと椅子だ。テーブルクロスでおしゃれな雰囲気にしているし、キャンドルホルダーの横には花も添えてある。
結婚式みたいな感じに仕上がっていると思うのだが、戦国の紳士淑女たちには気に入ってもらえているだろうか。
お酒を飲む人には大きめのぐい呑みに澄酒を注いで配った。お酒を飲めない人には蕎麦茶や麦茶にしようかと思ったのだが、せっかくだからハーブティにした。ついでにおしゃれなティーカップも創造しておいた。
ハーブティとティーカップは、皆の評価を聞いてみたかったのだ。戦国時代に、ハーブティとティーカップの組合せが売れるかどうかね。蝦夷はハーブがいっぱい自生しているから売れるといいのだが。健康にもいいしね。
飲み物が配り終わった。
「それでは乾杯というものをしたいと思う。南蛮ではお酒を酌み交わす前に乾杯という儀式を行う。お互いの盃をこうして相手の盃に軽く当てるようにする。お互いを信頼していますよという意味があるらしい。当てるのは軽くだぞ。器が壊れるからな。それに倣ってやってみようではないか。では乾杯!」
乾杯が終わる。少しぎこちないな。まあ少しでも盛り上がってくれれば良いからね。
「まず。最初に感謝の意を伝えたい。伊賀から始まり伊勢そして蝦夷王国まで、俺を信じ行動をともにしてくれたことに感謝する。北条家の皆様も蝦夷まで来ていただきありがとうございました」
「蝦夷国の目的は既に知っていると思う。『戦をなくし民を幸せにする国』を作ることである。蝦夷国では日の本の民もアイヌの民も共存共栄しながら仲良く暮らすことを目指している。そして蝦夷国発展の恩恵を受け、日の本も豊かで幸せな国になって欲しいと思う」
何を語るのかと、全員が話に集中している。
「豊穣神様にお願いし、蝦夷の痩せた大地を豊穣なる大地に変えていただいた。この蝦夷国は農地となる平地が多いので、開拓すれば作物の収穫量もびっくりするほどになると思う」
「蝦夷国はそんなに広いのですか」と、平井が尋ねる。
「広大だ、しかも平地部分が多い。まあ少し寒いし雪も降る。雪対策は信濃衆が詳しいはずだ。田畑の管理はいろいろ工夫もいると思う。雪国での暮らし方は、幸隆と信濃衆を頼りにしているぞ」
「お任せください。しかしまずは我らに立派な屋敷を建てていただきましたことを感謝いたします」と、幸隆が代表して屋敷建設のお礼をする。
「この蝦夷の地には、燃える石がある。冬になって寒くなっても、この燃える石を部屋の暖炉に焚けば、外は寒くとも部屋の中は、汗が出るほど暖かくなる。この石があれば薪は必要ない。もちろん売り物にもなる。また儲かるな」
「燃える石ですか。北条家にもぜひ売ってくだされ」
「長綱殿、もちろんです。暖房だけでなく。鉄を作るときにも大いに役立つと思いますぞ。何より木を切らなくて良いので、ハゲ山を作らないで済みます。ハゲ山は治水としては最悪であり。洪水の原因となります」
「俺はこの国の農業を安定させながら生産高を増やしていくつもりだ。海産物や新たに産品を開発して、明を始め様々な国と交易を進める。交易相手は明だけではないぞ」
「しかし遠くの国と交易をするためには、丈夫な船と航海術が必要だ。船はあっても、航海術は修得するには時間がかかる。そのために海軍学校が役に立ってくれるはずだ。伊勢に航海術を学ぶ海軍学校を作ったが、将来、その学校を蝦夷に移す予定だ」
「蝦夷国の石高はどんどん開拓すれば400万石ぐらいにはなると思う。しかしアイヌと共存共栄していくのであまりギチギチと開発する気はない。銭は主に交易で稼ごうと思っている。交易の稼ぎは石高の2倍から3倍になるのではないかと思う。今のところは取らぬ狸のなんとやらであるが」
聞いている家臣たちの理解が追いついていかない。少し間を置こう。
「蝦夷国には燃える石の他に金や銀の鉱山もある。将来は蝦夷国の通貨を作る予定だ。その金と銀が役に立つだろう。蝦夷のさらに北には燃える水もあるぞ。この蝦夷国はとても豊かなる国なのだ」
「妻たちよ、心配だったのではないか? この蝦夷国は貧乏ではないぞ。豊かなる国だ。民が幸せに暮らせる国にしてみせる。安心しただろう。移住者をたくさん受け入れても大丈夫だぞ」
俺はここで長い話を一旦切って。みんなの顔を見回した。
話の内容をすべて理解できなくとも、とにかく俺を信じてくれているのは判る。皆が笑顔だ。蝦夷に国まで作った俺を心配してくれていたのかもしれないな。
「信長に譲った南近江の一部と伊賀と伊勢が安定し、蝦夷国が軌道に乗るころには、日の本中に蝦夷国の建国が知れ渡るであろう」
「その後は日の本で何が起こるか分からない。いろいろなことに対処できるように、まずは我々の体制を整える必要がある。幸隆、頼りにしているぞ。そして海軍もな」
「は、身命を賭けてお仕えします」と、幸隆が答える。定隆も頷く。
難しい話が終わり、料理がどんどん運ばれてくる。海鮮料理がメインだ。
「今日は食べて飲んで。ゆっくり体を休めて欲しい。船旅でずいぶんと疲れたと思う。そして準備が出来しだい、早川との婚姻を行うつもりだ。瑞渓院殿様も蝦夷行きを心配されて、早川についてこられたと思います。しかし本日色々ご覧になり、少し安心いていただいたと思います。いかがでしょうか」
「安心どころか。妾もこの宮殿に住みたくなってきたわ」
俺は長綱さんの方を見て『止めてください』と目で合図を送ったが、見えないフリをされてしまった。瑞渓院さんが苦手なのか?
……月日はどんどん過ぎる……
もう今年も冬が近づいてきている。色々やっていると時間が過ぎるのが早いな。
冬が訪れる前に、蝦夷に来た日本丸のうち20隻は海産物を満載して伊勢に向かわせている。こちらに戻る時には、綿や絹の生地、陶器や刀や槍、それに家畜、特に馬をたくさん積んで来てもらおう。
陶器や刀や槍はアイヌの海産物と交換予定だ。これからどんどん交易を増やして行くぞ。特に昆布や鮭は凄く儲かるからな。
直ぐではないがこの国の通貨を作る必要があるから、どのような貨幣体系にするかも検討しておかないといけない。外国との貨幣の交換比率もある。いろいろややこしいな。この国の内政を任せる人間が必要だな。藤吉郎はまだ10歳だし、流石に無理だな。誰かいないかな?
露天掘りできる炭鉱といえば夕張だが、まだ夕張まで進出するほど人が多くない。
この冬の分についてはアイヌに聞きながら、近場で取れる石炭をなんとか確保しておいた。この冬分の石炭は十分に確保できている。今後の石炭確保についても軌道に載せないといけないな。人が足らないな。
各部屋備え付けの暖炉で石炭をガンガン燃やしているので部屋はどこも暖かい。石炭をガンガン燃やすのを見ていると、蒸気機関が思い浮かぶ。海軍には蒸気機関モデルや黒船サスケハナ号の模型を渡してある。
もちろん原理の説明もしているのだが、海兵たちは『習うより慣れろですよ』と、元気に答えるばかりだな。
こいつら絶対理解してないだろう。
外輪型蒸気船サスケハナ号を、至高の匠スキルで創造して、例によって説明した後は『壊れてもいいから乗りこなしてみろ』の方が、あいつらには合っているのかな。
壊れたらまた創造すれば良いだけだしね。今回もそれでいくしかないか。
外輪蒸気船の操作に習熟できればアメリカ大陸までいける。楽しみだ。
あ〜あ、さっさと戦国時代を終わらせられないかな。
作物だけど、小麦、蕎麦、米も収穫できたという報告があがっている。来年はガンガンに作らせるぞ。まずは、目指せ、農業酪農王国だね。
その次は工業化だけど、それまで俺は生きているのかな?
忍者調査隊に調べてもらっている南部家と津軽家だが、南部家は我々に興味がないようだ。というより攻めたり攻められたりで、蝦夷に関わる余裕はないようだ。
食い物の奪い合いだな。南部に暮らしている民にとっては、たまらないだろうな。津軽家は国力も戦力もないしどうでも良いという感じだ。
しかし油断はしない。少しでも不穏な動きが有れば先制攻撃だ。といっても港と船を破壊すれば十分だろう。陸奥の国に攻め込むのは氏親君に任せるね。期待しているよ。
早川との婚礼は終わったのだが、瑞渓院さんが帰ろうとしない。『食事も美味いし、畳より椅子とベッドの生活が気に入った』と言っているらしい。瑞渓院さんは早川が心配なのだろうな。北条は家族愛が深いね。そういうところ嫌いじゃないな。
氏親君は、幸隆に任せている。今は蝦夷に作った学校を見てもらったりしている。内政や軍事についても俺のやり方を学んで欲しい。いずれ越後と上野を治めてもらう予定だからね。
まだ9歳なので好奇心が旺盛だ、護衛を付けて港やアイヌの村など色々見学している。年齢も近いこともあり、妹の幸が見学に付いて回っている。北条家との関係からすると、氏親君には幸の旦那さんになってもらうことになるだろうな。
ところで来年の夏あたりは、日本海経由の船が函館まで来たりするかな。今の日本の航海技術では日本海航路がメインだからね。来るとしたら敦賀か博多あたりの商人かな。ハッキリ言って来なくて良いぞ。商売仇だから。
わざわざ蝦夷まで来た商人を追い返すのも可哀想なので、海産物を凄い高値で売っておこう。日の本で蝦夷の商品を最も安く扱えるのは、商社正直屋とその系列店ということにする。
たしか敦賀とか博多の商人たちは蝦夷の海産物を明に輸出しているはずなのだよね。
相当儲かっているはず。いっそのこと、この商人たちを正直屋の系列店に加えてしまおう。蝦夷を握っているのが俺だから、彼らにとってもその方が良いよね。俺も明に新たに販路を開拓するより楽だしね。
ウインウインで問題なし。商人たちの世界では、そろそろで天下統一なのだけどな。
しかし俺はどこに行っても、ブツブツといろんな事を考え続けている。変わらないな。元が研究者なのでいろんな事が気になってしょうがないのだよ。
女性陣たちは、ドレスの良さにハマっているようだ。俺が至高の匠スキルでたくさん作成してみたからね。
西洋風の宮殿なので和服よりドレスの方が似合うかもしれないね。
作成したのはウエディングドレスだけど、宮殿で着るドレスはこれで良いのかな?
良く分からないな。違うのかな? まあ後は妻たちが試行錯誤しながら楽しんで欲しい。
いずれ産品になってくれればなお結構。
だから本気で遊んで下さい。
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