河東の戦
天文14年(1545年初夏)14歳
蝦夷の火山灰問題も解決したことだし。次は政治だな。朝廷と敵対して建国するか、朝廷と良い関係を保ち建国するのか、どちらになるのかは主上との話し合いの結果次第だ。
俺は日本丸30隻を率いて俺は伊勢に戻ることにした。うち2隻は既に先行して伊勢に向かわせている。
蝦夷国では日本丸を新たに10隻創造しておいた。10隻あれば、仮に南部家や津軽家が攻めてきても問題ないだろう。幸隆と若手武将も蝦夷に置いていくしね。
オヤジたちと特殊部隊の400名は俺に同行してもらう。主上との会談があるからね。不測の事態が会った場合に対応してもらう予定だ。
蝦夷からの移動は今回も順調だ。風はあるが波は荒れない。
俺たちの船団は中継基地の大島が見えるところを移動して来た。俺の側にはウヌカルがいる。伊勢で母上と嫁たちに紹介しないといけないからね。ウヌカルも船には強いみたいだ。デッキから蝦夷以外の風景を見ることができるのでご機嫌なようだ。
船の中では俺とカタコトの日の本の言葉で長時間喋っているので、かなり意思疎通ができるようになってきている。先行させた2隻を含め日本丸30隻には蝦夷の海産物や毛皮などを満載にしている。
これでまたまた儲けることができるな。
実はそのうちの1隻には石炭が積まれている。居残り忍者が長老にお願いしてくれたおかげで、アイヌさんが石炭を集めておいてくれたのだ。これはこれで別の目的で使用する。
日本丸のデッキから大島を眺める。大島には大量の船が停泊している。手旗信号の連絡のやり取りで、信長が乗船する20隻が俺を待っていることが分かった。大島の港に俺の船を急いで入港させる。
大島の港では北条氏康から俺宛に送られた忍者特別速達便の文を持って、信長が待っている。
何かあったのかな?
信長は今川家、武田家、斎藤家、北条家、六角家、筒井家の状況を探らせてくる忍者調査隊の報告から、今川家が北条家の実効支配する駿河東部の河東地方に攻め込むという情報を得る。
北畠家としての対応をどうするかと考えている時に、北条家から風魔による忍者特別速達便の連絡が来たことで、三蔵宛となっている忍者特別速達便は北条家からの軍事支援要請に違いないと判断する。
先行した日本丸から俺が伊勢に戻ってくることを知ると。信長は瞬時に決断する。大島で俺の判断を仰ぐべく、兵4000人を乗船させた日本丸20隻を大島に向けて出港させていたのだ。
さすが信長。判断力と行動力が最高だ。
北条家から俺宛の速達便の内容は予想通りで、『今川義元が河東に兵を進めている。北条家はこれを一蹴したいのだが、雪斎の謀略により、山内上杉氏の上杉憲政が河越城に攻め込もうとしている。そのためどうにも困った状態になっている。河東方面を助けてもらうとありがたい。婿殿よろしく頼む。』と、書いてあった。
歴史とはぴったり同じではないけど、俺が歴史を変えているからそんなもんでしょ。忍者調査隊に調べさせた情報を基に臨機応変に対応すれば良いのだ。
俺はまず、『蝦夷国の建国に成功したこと』を信長に伝える。信長は俺の行動力に感心し、成功を祝ってくれる。俺も信長の今回の行動の早さを褒めておく。
『良いことをした部下は褒める』が人心掌握の基本だからね。斎藤家は『一向宗の聖地』の対応で、信長のいない尾張にチョッカイを出せる余裕なしのようだ。
北条家への支援は行うが、俺がこの戦に直接関わるのは、今後のことを考えれば避けておきたいことを信長に説明する。
主上との話し合い如何では、俺はまだ蝦夷に行っていないことにする可能性もあるからだ。くどくど説明しなくても、信長はすぐに理解してくれた。レスポンスが良くて助かる。
信長を大将として、北条家を救うための戦を行うことに決める。まず信長から北条家に使者を送る。
……使者に持たせる文の内容は……
要請があれば北畠家軍は、迫撃砲400門による攻撃で沖合から今川軍の側面を攻撃する。そうなれば今川義元は蒲原城の近くで討ち死にするか、びっくりして駿府に引き返すしかない。
武田家から和議の仲立ちをしても良いと言うような使者が来るかもしれないが、無視して欲しい。必要であれば北畠家の銃兵を含めた兵4000人を蒲原城に入れても良い。北条家を助けるための戦の総大将は織田信長が務める。北条氏康殿と話がしたいがどうすれば良いか。
……とした……
北畠家からの使者に小田原城は沸き立つ。氏康は既に河東まで出陣している。小田原の港の沖合に停船する信長に氏康から『河東にて至急お会いしたい』という風魔の忍者特別速達便による返事が届く。
信長は河東に上陸して氏康と会談を済ませる。日本丸20隻を蒲原城沖に向かわせるとともに、信長は兵4000人を率いて北条兵とともに蒲原城に入る。
北条氏康は「北畠家の御恩を北条家は終生忘れない」とお礼の言葉を残し、ほぼ全軍を率いて河越城に向かう。
信長は、河東の全権を任されていた。
蒲原城付近で、今川軍とライフル装備の北畠家軍が睨み合っている。先ほど今川軍が小手調べに攻め込んできたが、ライフル射撃によりボロボロになって逃げ帰っている。そこから今川軍は動けない。両軍の睨み合いがずっと続いている。
今川軍が撤退しないのは1万以上の兵を率いているためである。数の上では今川軍が断然有利であるためだ。
敵より兵を多く揃えた今川軍が、成果を上げずに撤退すれば、今川家当主のメンツが潰れてしまうからである。義元は撤退したくても出来ないのである。大名は当主が舐められたら終わりなのだ。だからメンツを重視する。
蒲原城付近で交戦状態に入っている時に、日本丸は今川軍を砲撃すべく、蒲原城の沖合に集結だ。「迫撃砲の攻撃開始」海軍の大将になっている九鬼定隆から全船に命令が下る。
迫撃砲の攻撃が始まる。義元の陣にも着弾する。今川軍は大パニックだ。
恐怖と怒りで我を忘れた義元が、雪斎に何か策はないのかと怒鳴りつける。
「こういう時こそ落ち着きなされ」師である雪斎が義元を嗜める。
深呼吸を何回か行い。冷静になった義元が、近習に「蒲原城に和議の使者を出すぞ」と命じた。
「北畠家の奴。覚えておれよ。今日のことを死ぬほど後悔させてやる」と叫びながら、唇を血が出るまで噛み締める……
信長率いる北畠家軍団に、義元から和議の使者が来る。使者の口上は「今川家は河東から兵を引く。今後5年間の停戦を約束したい。北条家への迷惑料として2万貫を支払う」である。
信長は「北条家と北畠家に3万貫ずつ払えと伝えろ」と、使者を突き返す。すぐに戻ってきた使者の口上は「条件をすべて呑む」である。
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