今後の戦略2
天文14年(1545年冬)14歳
「いっそのこと、日の本の外に自分たちの国を作るというのはどうか?」
「そんな都合良く攻め取れる国、あるいは国を作れる場所があるのでしょうか?」と、3人が俺に一斉に俺に聞き返す。
「信長、一緒に見に行ったではないか」
「まさか蝦夷ですか。朝廷が支配する国は九州から陸奥までですので、蝦夷の所有は曖昧ですね。なるほど!」と、信長が返答する。しかしどうやって国を作るのだろうという顔をしている。
「前回行った際にアイヌの言葉を覚えさせるために残してきた者たちがいる。次回蝦夷に行くときには言葉で苦労することはないだろう。蝦夷には既にアイヌが住んでいる。俺はアイヌと共存共栄しながら蝦夷を国として作り上げるつもりだ」
「アイヌは狩猟や漁業を主として生計を立てている。ならば俺たちは農業や工業や貿易で生計を立てる。アイヌの今の暮らしを尊重し、むしろ今より幸せになってもらう自信がある。そういう意味で共存共栄を目指した国作りが出来る可能性はある。無論アイヌが反対すればこの話はなしにする。無理に進めることではない」
「いずれにしても蝦夷に国が作れても、日の本とおさらばするということではない。そのつもりもない。広大な蝦夷の一部に、幕府や寺社や公家といった旧来の権威や利権勢力の影響を受けない国が作れれば、今後の展開に有利に働くのではないかぐらいの気持ちだ」
「殿はそのために蝦夷に行かれたのですか?」と、3人が驚いたように確認する。
「そうだ、そのために蝦夷に残った者たちに言葉を覚えてもらっている。言葉が解らなくては何も始まらないからな。アイヌの了承を得て、蝦夷国を作れる目処がつけば、次に主上との話し合いが必要だ。朝廷と敵対したくはないので、主上に蝦夷国を認めてもらう方法を考えなければならない。できればこの国の友好国として存在できれば良いと思う」
「主上から嫁をもらい、官位も持つ殿が切り取った土地は朝廷のものとなると思います」と、勘助が心配する。そう、そこが大きな問題なのだよ。
「仮に朝廷が認めないとしよう。強大な軍事力さえあれば、誰からも口の出しようがないと思うぞ。そもそも大軍勢を仕立てて蝦夷まで攻めてくるにしても、俺たちの持つ船の能力を上まわる船を作る技術も操船する技術も銭もないと思う。そのあたりも蝦夷国を認めてもらうための、有力な交渉材料になると思う」
「普光女王の件はどうするのですか。あるいは伊賀や伊勢の領地はどうするのですか?」と、幸隆が聞いてきた。普光女王の件は断っても良いのだが、伊賀や伊勢の領地を返上すると領地の民達が苦しむことになる。
「新しい国を作ることの問題点が色々判ってくるな。幕府や寺社や公家といった旧来の権威や利権勢力の影響を受けない勢力を蝦夷に作る利点についても深く検討する必要がある」
「また俺が新しく国を作ることに成功した場合、真似して日の本に新たな国を作ろうとする奴も出てくるかもしれないな。それは問題と言えば問題なのだが。逆にその状況を利用できることもあるかも知れないな」
「普光女王の件や蝦夷国の件について、主上と話をしないといけないな。話をしてもらえるかどうかも判らないし、主上と話をしたことで俺達にどのような影響があるかも判らない」
「しかし蝦夷国ができることで、日の本の統一が仮に上手く行かなくても、日の本で塗炭の苦しみに喘ぐ民に移住先を確保できることになる。もちろん今話していることは、蝦夷国が作れるというのが前提の話だ。確定の話でもない」
「つまり架空の話に過ぎない。検討すべきことも、想定できない事も沢山ある。だからこそ、この4人で正しき戦略を練っていかねばならん。大変だが最後まで俺についてきてくれるか?」
「我らはどこまでも殿について行きます」と3人が言ってくれた。
ありがたいな。
蝦夷建国について、想定すべき問題点や課題が色々あることは解った。
この先も3人の頭脳に投げかけることで、蝦夷建国についての問題点や、課題の深堀りが進むだろう。
いづれにしても全ての前提条件『蝦夷に国を作ることをアイヌが認めてくれるか』を確認しなくては先に進まないことは確かなのだ。
もう一度蝦夷に行こう。アイヌと話をしよう。アイヌの思惑もあると思う。国が作れるなら、次は主上との話になる。主上がどう考えるかも判らない。北畠家VS朝廷となった場合、どういう展開になるかは読めないな。
色々想定できないことだらけだ。これから進む道は、随分危険な道になりそうだ。しかし進むことにしよう。進まなければ何も始まらない。想定不可能な事だらけだ。前に進むかどうかを決断するのが、きっと俺の仕事だろう。
その決断に基づいて必要となる色々な検討は、俺の軍師たちの優秀な頭脳にさせておけば良い。その都度修正しながら進めていけば良い。そうしないと前には進めない。正攻法で天下統一を進めても時間がかかり過ぎるからな。
乱暴かな。しかしやろう……
歩いた足跡が道となるということで良いと思う。
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