今後の戦略1
天文14年(1545年冬)14歳
伊賀で色んな事をやり始めてもう10年も経っている。あっという間だったな。
忙しかったという記憶しかない。
でもね。未だに伊賀と伊勢に南近江の一部を治める領主に過ぎないのよ。
どうするこれ。先が長いよね。
今までの事を少し振り返ってみる。まずは伊賀を俺の国にした。旧北畠家を滅ぼして、新北畠家を作った。甲賀を傘下にして六角家を弱体化させた。北畠家は伊賀と伊勢と南近江の一部を領有した。
人材関係では、勘助や幸隆や祐長をスカウトした。武田家から頭脳と武田四天王の1人を奪った。信長君や可成や貞勝をスカウトした。織田家から英傑嫡男と勇将に優秀な内政外交担当を奪った。藤吉郎君もスカウトした。
斎藤家については、一向宗の聖地を作ることで内憂を作り、道三の動きを封じた。武田家や織田家、斎藤家の3家については、本来の3家が歩むべき歴史が、少し修正されたはずだ。
里見家の海賊をほぼ殲滅して里見家の力を弱めた。そのことで、北条家をいつも邪魔していた里見家の力が弱まり、関東で北条家が動きやすくなるだろう。逆に関東公方だの管領といった不要な旧勢力も活性化するかもしれない。
北畠家は北条家とは同盟を結んでいる。
アイヌさんに昆布と交換で武器を大量に渡した。このことにより、蠣崎VSアイヌの構図に変化をもたらすと思う。
つまり俺が行動したことで、従来の歴史の流れが大きく影響を受けているはずだ。この影響により本来なら発生する歴史イベントが発生しなかったり、発生しなかった歴史イベントが発生したりとかするかもしれない。
またイベント発生の時期も前後するかもしれないな。記憶にある歴史イベントの記憶も、参考程度にしか役に立たないということになるだろう。もともと当てにもならない歴史イベントに命を賭けるつもりはなかったけどね。
今後は、ますます忍者調査隊による目と耳が重要になるな。有力大名からは目と耳になる忍者を剥ぎ取らせてもらおうことにする。というかね。全国の忍者さんたちが北畠家の傘下に入りたがっているからね。
そんな事を考えながらお茶を飲む。なかなか頑張っているじゃないか俺……
誰も褒めてくれないから自分で褒めよう。
さて今日は今後の大戦略を、俺と軍師2人に加えて、新たに軍師級に引き上げた信長君とでじっくり話し合うつもりだ。
いいアイデアが捻り出せると良いのだが……
まずは戦略の大目標を確認しておく。
「俺は豊穣神様と『民を幸せにする事』を約束した。これは守らねばならぬ。だからこれは外せない大目標となる。この大目標を達成するための戦略を話し合いたい。忌憚のない意見を頼む」
3人の顔が引き締まる。
「武力を用いて『大名を次々臣従させる』あるいは『臣従しない大名は滅ぼす』という事を繰返しながら、北畠家が日の本を統一するとして、統一が完了するまで、何年ぐらい掛かると思うか?」という質問を皆んなに投げかける。
皆の意見はいろいろだが意見を集約すれば、30年ぐらいはかかるというものだった。さすが名軍師と英傑。史実に近い。
至高の匠スキルによる武器の優位性はあっても、武力で領地を拡大するための戦の時間だけが短くなるだけなのだ。
つまり、『戦で勝ち取った敵領地の民を慰撫する』のに掛かる時間は同じだけ掛かるのだ。統治の方法が変わるから、寧ろ時間が余計に掛かるかもしれない。
つまり天下統一までには、『武力で領地を拡大する』と『広げた領地の民を慰撫する』の繰返しを、何度も時間を掛けて行う必要があるのだ。
30年ぐらいはかかるというのは妥当だと思う。
「30年は長いな。勘助も幸隆もおじいさんになっているぞ。俺も信長もいい歳になるな。ところで天下統一戦において、室町幕府は北畠家にどう対応すると思うか」
……3人からの意見をまとめると……
今までの歴史において、他の大名より抜きん出た力を持つ大名が現れた場合、幕府は他の大名たちに呼びかけて、その大名を弱体化あるいは潰してきている。
今後殿が大きな力を持てば、全国の大名に北畠家を討てと命令するに違いない。
天下統一戦においては、幕府を潰してしまうのか、あるいは北畠家が将軍家となるのか、もしくは幕府という地位を無力化するのか、それぞれに対策を準備しておく必要がある。
それに伴い政治的な動きをする場合、どこかの勢力に安易に政治力を借りることは、将来に禍根を残す可能性がある。
……というものであった……
室町幕府は本当に面倒な存在だ。どこかの大名が潰してくれないかな。
あるいは潰させるように仕組むか。やはり三好家に工作するか?
「天下統一戦において、寺社勢力はどう出ると思うか」
……3人からの意見をまとめると……
大名の支配から独立した存在であり続け、自分たちの権益が守られるなら、寺社は大人しくしているだろう。しかし北畠家が少しでも弱みを見せれば、自分たちの権益を増やそうと、北畠家に襲いかかるだろう。
……というものであった……
まったく寺社も面倒だな。何とか潰してしまう方法はないかな?
皆が納得する口実を作る必要があるな。
「天下統一戦において、朝廷と有力公家達はどう出ると思うか?」
……3人からの意見をまとめると……
主上と殿は婚姻により結びついているので、中立かお味方ではないか。どちらかというと、天下統一までは北畠家とは一線を引き。統一後に北畠家に近づいてくる。うまく北畠家を利用して自分たちの権力を強めようとするでしょう。
……というものであった……
俺もそう思う。
公家は我こそが日の本の主と思っているからな。しかし彼らに統治能力はない。つまりあまり害はないが邪魔な存在だ。
どこかに隔離できれば良いというところか。
「北畠家は日の本のどこの大名や寺社と戦っても勝てる戦力がある。しかし抵抗勢力が結束すれば苦戦するだろう。そうさせないためにはどうすれば良いか?」
……3人からの意見をまとめると……
全部を敵にしないようにどこかと組むのが定石。しかし組んだ相手には特権あるいは権益を認める必要がある。天下統一が進むにつれて、難癖をつけては組んできた相手を1つ1つ潰して行く。
……というものであった……
大人のやり方だけど、何か嫌なやり方だな。
後世では、俺は嫌なやつで確定かな……
「大名を屈服させるのに30年かかり、さらに幕府と寺社と公家といった旧勢力を無力化できるところまでを含めると、すべて片付くまで何年かかりそうか?」
皆の意見は楽に50年はかかるという意見であった。
想像していたけど、なんかガックリくる期間だな。
「そうなるとこの国が生まれ変わるのは、俺たちの子供どころか孫の世代になるな。もしも俺たちの子供あるいは孫の出来が良くなければ、また最初からやり直しになるのではないか?」
それにしても、いろいろ考えるにつれ、信長君や秀吉君、家康君は本当に良くやったな。偉いわ。
「では幕府と寺社と公家を先に潰すのはどうなのだ?」
これに対しては、北畠家が完全に全国の大名を弱体化あるいは滅ぼした後でなければ、手を出さない方が良いに意見がまとまる。
「では、どんなに急いでも民はこれから先、50年近くも苦しみ続けるのか。しかも俺たちの子供あるいは孫の出来が良くなければ、再び戦国に逆戻りして、永遠に民が救われないということか。何かうまい方法はないのか?」
子供や孫がダメでも平和が維持できた江戸幕府は凄いな。
結局俺は、家康君みたいに超長生きすることが必要となるぞ。
いや〜。それは嫌だな。
3人は黙っている。良い考えがないようだ。
俺の頭脳たちよ、何かいいアイデアないのか?
ここまで、お読みいただきありがとうございます。
初めての作品ですので
あたたかくご支援いただければありがたいです。
励みになりますので
ぜひブックマークや評価などをお願いします。




