そうだ北海道に行こう3
天文13年(1544年秋)13歳
そんな良い感じの雰囲気のところに、山科のおっさんが図々しく割り込んでくる。
「神童殿は病も治せるとか。のう、ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
ホホホの声がでかいぞ。北条家の家臣一同がこちらを注目しているじゃないか。
嫡男の重い病気とかね。他家のこういう微妙な問題に関わるのはチョーダメなのだよ。
見えないところで、いろんな思惑が絡んでいるはずだ。氏政君を次の当主にと考える勢力も当然いるだろう。つまり氏親君は死んでねと思っている家臣がいるということ。
また、そうはさせないぞという勢力もいるはず。そういう家臣たちにしてみれば、俺が失敗でもしようものなら、生かして返さんとなるのだよ!
山科め、勝手にシャシャリ出てきやがって、そもそもお前は俺に治療させる立場にないからな。何かお前の手柄みたいな雰囲気を醸し出すなよ。
これだから公家の奴らは嫌なんだよ!
『俺が失敗しても自分は安全』そして『成功すれば自分の手柄』と思っているだろ。
こういうあまり関わりたくない奴は前世の会社にもいたな。
『余計なこと言いやがって。いい加減にしとけよ。山科〜』と、俺の家臣たちも山科を睨みつけている。彼らも状況を理解できているはずだからね。
山科のおっさん、そそくさとどこかに逃げやがった。
ネズミのように素早い奴め。
しかし奴は北条家の城内を勝手に走って行ったけど、行く先はあるのかな?
まあ図々しいから大丈夫だとは思うけど。
城は防衛施設だから勝手にウロウロしたら、不審者として切られちゃうよ。解っている? 見習いたくはないが、その図太さだけは凄いと思う。
「治せるのですか!」と、氏康さんファミリーの熱視線だ。突き刺さる視線が痛いぞ。
『治せるのですか!!』が来ちゃったじゃないか……
まあそういう展開になるよね。
余命が短い可愛い息子がいれば、親なら藁をもすがりたくなるに決まっている。目が見えなくなった嫡男を、さっさと見捨てる尾張の信秀とは違うわな。
きっと信長君も同じことを考えていると思うな。
氏康さんの奧さんの瑞渓院さんも、ここにいる北条の重臣達も飲むのをやめちゃっているじゃないか。
宴会会場がシーン……だぞ。
おいおい。皆がこっちを見とるぞ。
こりゃ「頑張ったのですが、具合が余計に悪くなったみたいです。いつもは上手くいくのですが。本当にゴメンナサ〜イ」というような展開になれば、北条家との和やかな関係は即終了、国交断絶だぞ!
そんな雰囲気の中で小田原城から出て行くのは最悪だ。
北条家には、お土産持ってちょっと挨拶する程度のはずだったのに!
旅先の気楽な訪問のはずが、重たい訪問になっちゃったじゃないか。
山科〜、覚えとけよ!
治癒スキルがガンに効くかどうかなんて、今までやったことないからね。
未経験なのよ。
このスキルは万能ではないはず。効かない病気だってあると思う。
それに普通に考えてガンは、前世でも難しい病気でしょ!
氏康さんに促されて、氏親君や家族達と共に隣の部屋に移動する。
いや、連行されてる。
おいおい隣の宴会場がシーンとしとるぞ。
氏親派の家臣さん、盃の代わりに刀持っていないだろうな? とりあえず落ち着こうね。
それにしても親睦深めたらさっさと蝦夷に行く予定だったのに!
「治療する前に申し上げます。必ず治るとは限りません。全力を尽くしますとしか言えません」と、どこかの医療ドラマみたいな事を言っておきました。
「治らないと言われた病気です。治らなくても仕方ありません。気にしないで下さい」
よっしゃ、言質もらいました。
それでも治らないと気まずいよな。
「始めます」
失敗しないでくれよ。神様、スキル様!
俺は横になっている氏親君の腹部に手を当てる。いつもの様に手から光が溢れてくる。襖の隙間からも光が漏れているから、家臣さんもびっくりだろうな。やがて光が消える。
神様にパワーアップしてもらって、手からの光がかなり強くなっている気がする。
それにしても、光で病気が治るのは凄いな。
どういう理屈なのだろう。まあどうでも良いか。
「ずっとこのまま、微睡んでいたい。春の日差しのようなフワ〜とした気持ちです」と、ニコニコしながら、氏親君がうれしそうに話をしてくれている。
スキルがパワーアップされてなかったら治せなかったかもね!
「父上。母上。体が凄く軽いです」と、氏親君がいきなり起き上がってピョンピョン跳ねている。いきなり走り出そうとするのを止めてもらい、俺は氏親君の腹部に手で触れる。
まずはガンの状況の確認だ。硬くなっていた腹部のシコリがまったくない。
俺の手の平センサーもガンの消滅を知らせてくれている。
氏康さんも瑞渓院さんも氏親君のお腹を触っている。
「どうだ、ここは痛くないか?」と胃のあたりを軽く押したりしている。良い家族だね。
尾張の信秀とは違うぞ。
神様、スキル様、ありがとう。北条家と気まずくならずに済みました。
氏康さんとそのファミリーのみんなが涙ぐんでいる。
瑞渓院さんなんか。俺に手を合わせている。
北条家訪問は好印象で終われそうだ。
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