長島一向宗2
天文13年(1544年夏)13歳
長島の攻略は優秀な軍師たちが知恵を絞り、策を練ってくれるだろう。任せておこうか。
騙されやすい人が長島砦にウヨウヨいるのだ。これを利用してやれば良いのだよ。
オヤジたちには腕利きの、くの一お姉さんを揃えるよう頼んでおこう。
とにかく人殺しをすることなく長島が空き家になってくれれば良いのだ。成功確率は60%ぐらいかな。とにかくゾンビと戦うような戦は御免だ。
俺も家臣も兵も。皆が心が病むようなことはダメだ。断固反対!
軍師達から策を説明された、くの一お姉さんを、長島に次々送り込む。もちろん美濃にもね。さあどうなることやら。
今まで、ここ一番という時には、くの一お姉さんに助けられているな。お姉さん方、頼りにしていますよ。
今回も報酬は割増で払おう。危険な任務だからね。
長島の金欲色欲まみれで声のでかい坊主たちをターゲットに、くの一お姉さんたちが次々攻略を進めている。百戦錬磨のお姉さん達の報告によると、どこの国でも坊主なんか、チョロいだそうだ。
得意の暗示術は100%上手くいっているそうだ。さすがだ!
暗示術にかかった坊主たちだが。会う人、会う人に『拙僧に御仏のお告げがあったのだ。大波に沈む長島から一刻も早く、信者を連れて逃げよというお告げじゃ』と、得意げに説法している。
しかも御仏が自分を選んでくれたことに舞い上っている。
『これぞ日頃の修行の成果だ』と、大声で自慢しまくる。
やってもいない修行が如何に大変だったのか自慢しまくる。堕落坊主なのにね!
声のでかい坊主が喚き出すと、お告げのなかった坊主たちは心中穏やかではない。
お告げがなかった坊主たちは『なぜあんな奴でなく、私の枕元に御仏が立って下さらなかったのか!』と、大いに悔しがる。
そのうち自慢そうに喚き散らす坊主に我慢ができなくなる。
『隠していたが、実は私にもお告げがあったのだ』と、嘘を触れ周り始める。
もはや坊主たちは『なんか変だ。騙されているかもしれない。何か怪しい?』などと考えもしなくなっている。暗示をかけられて大声で騒ぐ坊主が、悔しい側の坊主の嘘により、暗示をかけ返される結果となる。
暗示が暗示を産んで、嘘が真実に育っていく。
潜入させている数名の忍者も『なんだ。知らないのか? お坊様たちの中では、長島が大波に沈む話は、もはや周知の事実だぞ!』という調子で、お告げの情報拡散に励んでいる。
やがて時が経つに連れ、長島の砦の中では信者が数人でも集まれば『大波が来るぞ。ここにいては危険だ! それな! それな! 別の所でも聞いたぞ。御仏のお告げは、本当の話だってよ! マジで!』というような噂話が最高潮に盛り上がる。
やがて話に懐疑的な人も「なんか怪しくね〜とか、懐疑的に思っている自分が恥ずかしい」と、思うようになる。
騙されやすい人に限らず。人の習性として『いろんなチャンネルから同じような情報が入ってくる』、『多くの人から同じような情報が入ってくる』と、その話が本当の話に違いないと思い込む傾向がある。
つまり暗示がどんどん深くなっていくのだ。
長島は競い合うように、坊主は坊主に、信者は信者に、無意識に暗示を深めていくことになる。長島砦はどんどん暗示に沈んでいく。
元々一向宗に暗示を掛けられている人たちだからね。
暗示には滅法弱いのだ。
一方の美濃における、くの一お姉さんたちの暗示工作だが……
長島から大垣に向かう途中に丁度良い城があった。城は斎藤道三の家臣が治めている。
この城は長島から近からず、遠からずの絶好の位置にある。
この城の領主がターゲットに決定だ。
いつものように、くの一お姉さんたちに、この城を治める領主とその重臣たちを籠絡してもらう。次にこの領主とその重臣たちに暗示をかけて、一向宗の熱心な信者に仕立て上げる。
もはや、御仏のお告げなどあろうものなら、泣いて喜ぶぐらいの優等生信者になっているらしい。
今は次のステップに進んでいて『長島の大波の話』をしっかりと信じ込んでもらっているところらしい。
最後の仕上げに、彼らに御仏からのお告げが下る。
お告げの内容は『長島から逃げてくる信者を救え。お主の領地を一向宗の聖地とせよ』だ。
ここでも、くの一お姉さんたち、の仕事が順調に進んでいく。お姉さん方、頼りにしていますよ。あと少しだ、頑張って!
『一向宗の熱心な信者』に仕立て上げられた領主とその重臣たちは、『御仏からのありがたいお告げ』を受けて舞いあがる。
まさに天にも登る気持ちだ。気分は高揚。『我は長島の信者を救う聖人とならん』という勝手な妄想に取り憑かれていく。
領主とその重臣たちも、長島同様にお互いが暗示を掛けることになり、『何か怪しいぞ』と疑う気持ちなど微塵もなくなる。
時代を問わず暗示って怖いね。
バカバカしいことこそ、簡単に信じ込まされてしまうのだ。
領主は御仏に選ばれた使命を果たそうと行動を起こす。
『私は、御仏からお告げをいただいた。長島に大波が来る。信者の方々は一刻も早く我が領地に逃げて来られよ。ここを一向宗の聖地とすべく準備を整えている』という文を、何度も長島の坊主たちに送っている。
長島の寺と関係を持たない美濃の領主が『長島が大波に沈む』と言ってきたことで、坊主も信者も『それ見たことか。我々はお告げに従わなければならない。御仏の言葉を信じるのが我らの努めだ』と、争ってみんなが我こそが熱心な信者であることを示そうとする。
皆が争って大声で叫び始める。
「絶対に長島に大波が来る。御仏の教えに逆らってはいけない。仏罰が下るぞ」
まあしょうがないよね。一向宗では、『御仏のいうことを聞かないものは、地獄に落ちるぞ』という洗脳かけているからね。その洗脳を利用させてもらっただけだよ。
人は騙しの仕掛けが大掛かりになればなるほど、その中に含まれる嘘を疑わなくなる傾向がある。
『こんな手間隙かけて嘘をつかれるはずがないだろう』とね。特に一向宗なんかに、ころりと騙されるような人たちには効果絶大だよ!
ここまでくればタイミングを図ってトリガーを引けば良いだけ。彼らから冷静な判断力を奪う。パニックにさせる。
それでOKだ!
家臣達に命じて、長島に流れ込む河川の上流部を少しずつ堰き止めさせておいた。また河川の河口付近に、これでもかと大量の火薬を仕込ませる。俺は爆弾をいっぱい持っているからね。
決行当日だ。この日がやってきた。
日が暮れてきたタイミングで、海底部の爆薬を一気に爆破させる。大きな音と大きな揺れと大きな波が作りだされる。
忍び込ませている忍者に「大津波が来たぞ〜」と、騒がせる。
さあどうなる?
信者たちは、暗いから状況把握もままならない。大きな音と大きな揺れともに、海側から逃げてきた人達の強張った表情と慌てように、長島砦や寺の坊主と信者たちにもパニックが伝染する。
このタイミングに合わせて上流側の堰も切る。
川の水位が上がり始めたのを見た信者たち。もはや暴走ネズミの如く、『一向宗の聖地』に向かって走る。
「大波が来たぞ〜。逃げろ〜」と叫びながら我先に逃げる。逃げる。逃げる。もう誰の制止も無駄だ。大波から逃げる。懸命に逃げる。
松明をもって走ってはいるが、薄暗い街道が恐怖心をさらに倍増させる。
とどめに日本丸から迫撃砲を海岸線に40連射だ。
長島の信者さん、ビックリさせて済みません。
でもね。血みどろの攻防戦をやるよりましでしょ。お互いにね! 熱心な領主さんがいる『一向宗の聖地』で幸せにね。
閑散とした長島に立っているのは、うちの忍者さんだけになった。
兵5000人を大急ぎで砦に入れた。長島砦の無血占領が完了した。
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