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長島一向宗1

天文13年(1544年夏)13歳


今日は軍師たちと重要な話をしている。


長島一向宗をどうするかについての話だ。長島に集結する一向宗の信者を早いうちに何とかしないと、領地を蝕む癌に成長していくことを知っている。


前世の歴史では、一向宗の排除に織田家がとんでもなく苦労したことを覚えている。一向宗は危険な相手なのだ。信徒を死兵に使うからね。坊主の誰かが考えたのだろうけど、酷い事を考えたものだ。


「長島から一向宗を排除しようと思う。捨て置けば、北畠家にとって一向宗はどんどん危険な存在になっていくだろう。日の本の国にとっても同様だろう。彼らと共存共栄などということは有り得ない」


「我らもそう思います。しかしまともに武力で排除しようとすれば、死兵の大軍に飲み込まれ、我が軍の被害は甚大なものになりますぞ」勘助が答える。幸隆も頷いている。


『本来、宗教とは苦しみ悩む人々の心を救済するためにあるべき』だと思うのだが。死兵など許されるのか?


「武家がいくさを繰り返す。いくさには銭が掛かる。武家は寺社に銭を借りる。田畑が荒らされて年貢が払えない農民も銭を借りる。そのお陰で、いくさをしない寺社は儲かる。土地を増やす。銭を溜め込む。財を奪われないために私兵を雇う」


「こうして寺社は権力を持ち、大名になっていく。そうなると、どこにも負けない最強の力を持ちたくなる。『最強の死兵』を作り出すために、信者に『寺を守ために武器を取って戦わない者は地獄に落ちる』と脅し洗脳をかける」


「こういう事は宗教がやってはならないはずだ。禁じ手だぞ。許せない。しかし奴らは強い。『死を恐れない信者。つまり死兵』を縦横に駆使してどんどん強くなる」


一旦話を止めて、優秀な軍師たちに頭を整理してもらう。


「坊主の私利私欲のため、あるいは寺を守るために、一向宗は現世に地獄を作り出している。元は立派な宗教であったと思うが、狂った戦国の世にあって捻くれてしまったのだろう。自らがおかしい事に気づき本来の姿に戻ってくれれば良いのだが」


「長島に存在するのは寺などではない。最強の兵を持った、強欲で危険な大名の城だ。信者達の行く着く先は地獄だろう。信者も冷静に考えれば騙されていることに気付くはずなのだが。何故気付かない。一向宗に弱点はないか?」


「彼らの中にも、騙されている事に気付き棄教して我が領民になったものもおります。しかし僅かな数に過ぎません」と、幸隆が答える。


「宗教に染まり洗脳されてしまうと、坊主の言うことが全て正しいと思うようになる。それ以外の人間の言葉は受け入れなくなる。危険ですな」と、勘助が答える。


「それにしても宗教とは怖いな。我が領民は豊穣神様を信仰しているから安心だと思うが。もしもそうでなければ、長島の一向宗は我が領土にどんどん浸透するだろう」


「北畠の家臣や兵、そしてその家族の中に、こいつは騙されやすい人間だと目を付ければ、手を変え、品を変えながら洗脳を仕掛けてくる。一度信者に取り込めば、今度はその人を足がかりにして、身近な家族や友人を取り込んでいく」


「殿! 一向宗にいくさを仕掛けると、終わりのない泥沼の戦いになりますぞ」と、勘助が進言する。幸隆も同意して頷いている。


「彼らに長島から自主的に出ていってもらおうと思う」

「そんな都合の良いことが可能でしょうか?」と、勘助と幸隆が不思議そうな顔をしている。


「お前たちと話していて気づいた事がある。宗教に限らず騙され、洗脳され易い人間というのは、詐欺にも騙されやすい人なのだと思う。言い換えれば暗示にかかりやすい人とも言える」


「そういう観点で、今回のことを改めて考え直してみた。長島砦は死兵が守る難攻不落の砦と考えるのではなく。騙されやすい人がいっぱい住んでいる街だと考えてみるとどうだ。視点を変えてみるのだ。色々な策が考えつくだろう。どうだ?」


軍師たちは、俺が何を言いたいのか理解できない。

ただ俺を見つめながら必死に思考を巡らす。


「たとえば『長島は大津波で沈む』と暗示にかけて信じ込ませることができれば、奴らは安全な山の方に、つまり美濃大垣の方に逃げだすのではないか!」


「いったいどうやって信じ込ませるのですか?」と、勘助と幸隆が不思議そうな顔をしている。


俺は具体的な作戦『くの一お姉さん作戦』を順に説明する。


「指導的な立場にある坊主の多くが、『長島の寺が大波で沈む夢を見た』と言い出したらどうなる?」


軍師達は話の展開がわからないという顔をしている。


「長島の坊主は金欲女色にまみれた坊主だ。だから『くの一お姉さん作戦』なのだ」

「殿! その先は言わないでください。知恵を絞るのが軍師の仕事です」と、ニヤリと勘助と幸隆。


「美濃に一向宗かぶれの領主を作り出す必要がありますな」と、勘助が進言する。

「長島の可哀想な信者を、美濃の信心深い領主が救うのですね」と、幸隆もだ。


優秀な軍師だ。いや優秀な詐欺師か。一向宗を騙してくれ!


それで『くの一お姉さん作戦』なのですね。その後は我ら軍師にお任せ下さい。

さすが我が軍師は一流だ。


後は任せたぞ。





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