尾張の様子2
天文13年(1544年夏)13歳
俺は織田信秀さんに使者を送る。
経験値を上げてもらうため、使者には藤林保正君を任命する。頑張ってね。
『織田家と主に商業取引に関しての相互協力の協定を結びたい。そのために織田家の当主との会見を持ちたいと思う。場所は熱田でいかがか。できれば嫡男様とも交友を持ちたいので一緒にお連れください』と、伝えてもらった。
織田から返答の使者が来た。
『ぜひお会いたい。嫡男も連れていくのでよろしく』という返事だった。
ここで問題が発生する。俺が熱田に行くことに対して重臣全員が大反対なのだ。
もう13歳だけど絶対ダメらしい。過保護だよね。
「才能溢れる信長君をぜひ北畠家に取り込みたい」と、皆を説得したのだが。
「目が見える時でも『うつけ』と馬鹿にされていた信長なんかに、そこまでする価値があるとは思えない」と、皆が挙って反対を主張する。
俺は知っている。
信長君は『寡兵で桶狭間合戦に挑み、東海の覇者の義元を討ち取って天下を取った英雄』であることを。
しかし何でそんな事を知っているかは言えないのだ。
「とにかく俺を信じて行かせてくれ。頼む。この通りだ」と頭を下げ続けた。
そしたら今度は「主君が家臣に簡単に頭を下げるのはダメです」と叱られる。
どうすれば良いの。
とにかく俺は粘りに粘る。
最後は皆さん諦めてくれました。熱田までは日本丸2隻で行くことになり。護衛は冨田勢源と森可成が率いる銃兵と槍兵が200人ずつとなった。
熱田の港に入ったものの、日本丸を横付けできる桟橋はない。日本丸を沖に停泊させて、船底の浅い小早船で往復しながら兵を岸まで運ぶ。
港では既に信秀が家臣を連れて待っていてくれる。
港で信秀と対面する。
「神童と名高い北畠家殿とこうしてお会いできたこと嬉しく思う」と、信秀さんが切り出す。
沖に停泊している2隻の南蛮船らしき日本丸をチラチラ見ている。船とライフル隊を見ながら俺の値踏みをしているところか。
どんな風に値踏みしたのかな。あまり気分は良くないな。会社にいた時もそういう人がいたな。思い出した。
「従四位下北畠伊勢守です、今後ともよろしく頼む」
俺は普光女王降嫁が決まり従四位下に昇進している。官位は俺の方が上なのだぞ。
「立ち話も何でしょう。千秋季忠に熱田神宮を案内させましょう」
熱田神宮といえば、草薙剣だよ……楽しみだな。
熱田神宮に軽く参拝した後、奥の部屋に案内してもらう。部屋で世間話をしながら、お互いの国の産品について話し合う。信秀は戦国武将として、今川や斎藤と渡り合う有力武将である。
話をしていると、尾張の産品を売り込むセールスマンとしても優秀なおじさんだと思う。
尾張の焼き物についても語りながら、堺から伊勢そして今川や北条に繋がる航路の中継基地としての熱田港の有用性を淀みなく喋っている。こういうところはイケてるじゃないか。見直したぞ。
俺は信秀に対して、明るいお喋りイケオジという印象を持った。
『たくさんの女性を口説き尾張の種馬と呼ばれるには、やはりトーク力が必須なのだな』と、関係ないことが頭に浮かぶ。
俺も負けじと、我が国の産物をコマーシャルする。
売れ筋No1の焼酎を始め、最近始めた綿や絹織物の話をしながら、港の使用料や関税などにも触れつつ、しれっと信長君の話にも触れてみる。
その言葉が丁度良いタイミングと判断したのだろう。
信秀さん、近習に信長君を呼んでくるように声をかける。
信長君が手を引かれてやって来る。びっくりするほど痩せ細り顔色も悪いじゃないか。
やつれた英雄になっているぞ!
「人払いを」と言うので、俺と護衛の冨田勢源とイケオジと信長君の4人で話をしている。
「このまま尾張の城に置いておくと、嫡男の座を狙う織田信行の取り巻きに命を取られる恐れがあるため、信長君を伊勢で匿ってもらえないだろうか」と、信秀から申し訳なさそうな雰囲気を醸し出しながら頼まれる。
「かまいませぬが期間にもよりますぞ」
「毎年500貫支払う。協定の証としてずっと預かっては貰えないだろうか?」
「本当に良いのですか」とイケオジに確認すと、イケオジが頷く。
「嫡男殿は伊勢に来ることをご納得か?」
「是非もなし」と信長君。
出たな信長君の『是非もなし』
聞けて良かった。
「承知した」と、俺は答える。
通商に関する細かい話は、北畠家の文官とそちらの文官で話を詰めることとし、俺は信長君を連れて、伊勢に帰ることにした。
気が変わらないうちに、さっさと連れて帰っちゃうもんね。
という訳で信長君を北畠家で預かることになったのだ。
協定の証としてとか言っていたが。
大丈夫か? 英傑だぞ。もったいないぞ。
イケオジ。信長君はもう返さんぞ。
返さんと言ったら絶対返さない。
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