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北畠家の学校

天文13年(1544年夏)13歳


伊賀に学校作ってから7年目、人材がたくさん育ってきた。


最初は「農民にそんな教育して何になる! 米作らせとけば良いのだよ! お金の無駄だよ! 意味不明! 神童は世間知らずか!」とか不平不満のオンパレードだ。


学校に子供を通わせている親たちからも「子供を学校に行かせるより、田んぼや畑の手伝いをやらせた方が楽だ! 人手を増やすために子供を産んだのに。子供を遊ばせるとはなんだ!」と、愚痴られる始末だ。


民のためを考えてやっているのに、民が陰でボソボソと批判。


実際に学校に通わせている親でさえブツブツと不満! 

もうね『神のお告げだから、絶対にやらないといけない』ということにして強引にやりましたよ。


良くやった、俺! 誰も褒めてくれないからもう一度、良く頑張った! 偉かったぞ、俺!


読み書き計算程度は修得に1年もかからない。


学校の名前は馴染みのある『小学校』とした。小学校は予め決めておいた期間を通学する方式ではなく、読み書きと計算が出来るようになれば1ヶ月でも卒業できるようにした。


逆に学べる期限を1年だけとした。学生それぞれ向き不向きがあるからね。それでも卒業生はどんどん増えている。最初は文句を言っていた親達が今では一番喜んでいる。


なぜかと言えば。


農民たちが自分の作物を売ったり、生活用品を買ったりする機会が増えてきたからだ。

俺が領地を治めてからは、税金分の作物を納めてもらえば、残りは商人とかに売って良いとしたからね。


売ってしまっても備蓄があるから大丈夫なのだよ。


そんな売ったり買ったりする場面で、読み書きと計算が役に立っているらしい。最近では売り買いで商人に騙されることがなくなったそうだ。


今までは、商人に騙されていることさえ判らなかっただろうけど。それに優秀な学生は北畠家で働いてもらっているからね。


最近は小学校に通って当たり前というのが領民の意識に根付いてきた。民の意識変革に少し成功かな。民度がほんの少しだけアップしたかもね。


小学校が上手くいったので中学校も作ることにした。中学校は職人学校と軍人学校、文官学校、海軍学校といった具合だ。中学校も小学校と同様に早期卒業方式を採用だ。


職人学校は職人の親方に講義をさせた。職人は『見て勝手に覚えろ』の世界だったが、小学校で文字が書けるようになった卒業生たちを親方にへばり付かせ、基本的な職人マニュアルを作らせた。


マニュアル作りに協力してくれた親方には手間賃を支払うことにしたら、マニュアルが段々と充実していった。


最初の頃、親方たちは学校で技術を教えることに対して、ほとんど全員が反対していた。


『自分の弟子でもないやつなんかに、技術など教えられるか』という気持ちだったのだと思う。


そこで俺は『職人を目指す若者が最初に学ぶべき基本的な技術』だけでもいいからとお願してみた。


『まあそれくらいなら』というところから、マニュアル作りが始まっていった。


それでも協力するのは嫌だという職人には出て行ってもらった。結局出ていったのは、腕の良くない職人ばかりだった。きっと持っているノウハウが少ない人達だったのだろう。


今では職人たちにとって職人学校は、腕の良い見習い職人を見つけ、自分の工房に引き抜きを掛ける草刈り場になっている。少し進歩してきた。


文官学校は、北畠家の文官達に講義させた。文官達から忙しくて死にそうですと言われたが

『ここで人材を育てないと、もっと忙しくなるぞ』と脅す。

同時に報酬も増やすことで講義してもらった。アメとムチだ!


軍人学校は、主に武士の子供が入学したが、適性のある農民の子も一緒に学ばせた。


刀や槍、銃や榴弾の扱い方から手入れの方法、さらに孫子の兵法まで幅広く教える。

講師は北畠家の武将たちだ。彼らは教えるのが楽しいのか、うれしそうに教えている。


海軍学校も作った。

教えられる人がいないから講師は俺になる!


他の学校の講師たちに散々無理させている手前、忙しいから俺はやらないとか言えなかった。地球は丸いという話から、緯度経度と地図の見方、星の運行、航海技術に砲術まで色々教えることになる。


当然ながら、全ての学校で武家の子供が農民の子供を差別することを強く禁じている。最初が肝心だよね。


嫁たちはなぜか、海軍学校に来て俺の横で講義を聞いている。時々勘助や幸隆やその他の家臣たちも聞きに来ている。

この講義はこの時代では相当レベルが高いと思うのだが、頑張って学んでほしい。


中学校を卒業した学生は、北畠家のさまざまな場所で働いてもらっている。

これまで苦労して教育した金の卵は絶対に他国には出さないよ。彼らが将来の北畠家を支えてくれることは間違いないだろう。


最初は農民出身者が差別されないか心配していたが、元々忍者の国ということもあり差別はまったくないようだ。


北畠家では、農民、職人、軍人、文官、正直屋の商人たち全てが『自分達の幸せな暮らしを守るために命をかけて国を守るぞ』という国防意識に溢れている。


国防意識が芽生えるとは、本当に良い国になってきている。


平井の娘の百合が嫁いできた時、一番ビックリしたのは学校だったそうだ。


国を担う働き手を、教育により自らが育てようとする俺の取り組みを見て、不思議な気がしたらしい。そりゃそうだよ。どこの国もそんなことはやっていないから。


『育てた人材が国を動かし、国を豊かにしていくこと』や、『教育が国の根幹を作ること』をやっと理解できてきたみたいだな。百合も少し視野が広がってきた。


「百合、北畠家には慣れたか」

「はい、おかげさまで」


「そうか、北畠家ではいろんな事をやっている。どんなところに一番興味がある?」

「学校です。国を豊かにするために教育がいかに大事なのか分かった気がします」


「ほ〜、百合は優秀だな。そこに気がついたか。将来百合には学校運営を任せるかな」

「ありがとうございます。全力で取り組みます」


女である私に大事な仕事を任せてもらえるとは本当に感激だ。


北畠家の女は子を生む道具ではないようだ。民の教育に目をつけ成果を上げていく神童様。この方は我々とは違う物が見えていらっしゃる。


この殿に嫁げて本当に幸運だった。

頑張って勉強しよう。旦那様のために。百合は頬を染める。




ここまで、お読みいただきありがとうございます。

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