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志摩衆

天文13年(1544年夏)13歳


志摩衆から『日本丸を乗りこなせるようになりました』という報告をもらった。

俺はウキウキしながらヨットハーバーにいる。


ちなみにヨットハーバーには俺の希望で、漆喰で白く塗ったギリシャ風の建物を建てさせている。今は夏だよ。海風が気持ち良い。リゾート気分になってくるぞ。


ちなみに俺の髪型は総髪そうはつだ。つまり元のまま。元服式はやったけど、丁髷ちょんまげ月代さかやきとかもとどりへのスタイル変更はやっていない。


現代人である俺としては、丁髷も髻も、カッコワル〜と思ってしまうのだ。今のところ、神童はそんなものだろうと思われているようで、家臣たちも何も言わない。忍者も海賊も丁髷に月代になんてしていないしね。


という訳で、俺の後ろ髪は風で揺れているのだ。


ギリシャ風の建物の中には、雰囲気にあった白いテーブルに白い椅子も作らせている。俺は妻たちと共に白い椅子にもたれて寛いでいる。重臣たちも同様だ。


皆さん日本茶よりも麦茶の方が好きなようだ。

暑いからね。井戸でよく冷やしておいたものだ。

テーブルには麦茶用の大きな急須が置かれている。お酒は出さないよ。

麦茶も蕎麦茶もともに、正直屋の売れ筋の産品となっている。


ギリシャ風の建物。白いテーブルに白い椅子。潮風も心地良い。今が戦国時代なのを忘れてしまえば最高なのだが。


いかん。いかん。志摩衆の晴れ舞台だな。


手旗信号の合図で沖の船が一斉に動き始める。

風を受けて海上を船が滑るように移動を開始する。


以前、志摩衆に手旗信号を教えたら「これは優れものですね」と、言いながら直ぐに使い始めてくれた。忍者も海賊もこだわりがないところが良いな。


武将たちも『戦場での命令伝達』に便利だと思ったみたいで、戦場での使い方をいろいろ工夫しているようだ。

変化を嫌う旧北畠家ならきっと不採用になったと思う。


手旗信号は望遠鏡と組み合わせればかなり有効だ。一緒に教えるとゴチャゴチャになるので黙っているが。

モールス信号もあるよね。ツー・トン・トンというの。

光でカシャカシャやれば夜も通信できる。


船に搭載する武器なのだが、色々考えて第一日本丸と第二日本丸に大砲を積まないことにした。


木造帆船の上部に重い大砲を設置すると、船のバランスが悪くなるからだ。その分船底部にオモリを増やせば良いが、それだけ船の最大積載量が減る。今のところ日本丸はどちらかといえば武装した商船という方向性で考えている。


もちろん南蛮船が大挙して日の本に攻めてくれば別だが。その時はその時に考える。


結局、大砲の代わりにグレネードランチャーを海兵に持たせることにした。

グレネードランチャーからは口径40mmのグレネード弾が放物線を描いて射出される。


有効射程は150mだが最大射程は400mもある。ターゲットに当たれば爆発するから敵船が密集していれば有効な攻撃ができると思う。


グレネードランチャーにした理由は、構造が単純なため、至高の匠スキルでも楽に作成できるのではないかと思ったからだ。グレネード弾についても同様だ。


全長は737mmで短く、重量も2.7kgと軽いのも良い。しかしこの時代の木製の船なら当たれば木っ端微塵にできる威力だろう。


この時代のノロノロ海戦を想定すればグレネードランチャーで問題なしと判断し、1隻あたり30丁を配備しておいた。


『沿岸部に建てられた城や沿岸部に展開する軍隊への攻撃』と、いうのが日本丸にとって想定される使い方になるだろう。大海戦はないと判断する。


『沿岸部に建てられた城や沿岸部に展開する軍隊への攻撃』への使用を想定すると、グレネードランチャーでは射程が短い。


そこで長距離攻撃用に迫撃砲を1隻あたり20門配備することにした。これも構造が簡単であり、至高の匠スキルで楽に作成することができた。砲弾についても同様だ。


仕様は全長が1280mmで重量は約38kgなので大砲とは比べ物にならないくらい軽い。直径81mmで重量4.2kgの迫撃砲弾を射出できて、最大射程は5.65kmである。


揺れる船の上で使用する場合に、どれくらい集弾出来るかは判らないが、動かない的である城とか、密集して陣を組む大軍をターゲットとするなら使えそうだと判断する。


軽いから1隻あたり20門搭載する。数撃ちゃ当たる方式だ。


これで、短距離はライフル、中距離はグレネードランチャー、長距離は迫撃砲というラインナップを揃えることができた。


しかしこのラインナップにも弱点がある。たとえば小早船の大軍を散開させておいて、ジグザク運動しながら高速で日本丸に接舷し、移乗からの抜刀切込み攻撃だ。

グレネードランチャーの曲射では、このようなチョロチョロした攻撃には対処できないだろう。


そこで、対戦車ライフルを、海兵に持たせることにした。これはボルトアクション型ライフルである。既にライフルを創造している経験もあるので、至高の匠スキルで容易に作成できるのではないかと思った。


この対戦車ライフルは、この時代の木製の船なら船体に簡単に穴をあけられるはずである。重量は約12kgと重いが船で使う分には問題ない。


射程距離も3.5kmなので、この時代の海戦がせいぜい500m程度の範囲と考えれば問題なしと判断し、1隻あたり20丁を配備した。呼び名は大型ライフルにしておこう。


日本丸を武装した商船として活用していくという方向性で考えると、少しオーバースペックの武装だがまあ良いだろう。


いかん。別の事を考えていた。志摩衆の晴れ舞台に集中だ。


大型ライフルとグレネードランチャーの音がする。「ダーン。ダーン。ダーン。」ターゲットにした小さいボロボロ木造船の数隻が餌食となる。交互に攻撃を受け粉々になって沈んでいく。


迫撃砲を海岸の岩場に向けて発射し始める。

今度は長距離だ。「トゥーン。トゥーン。トゥーン。」迫力あるね。遠くの岩場が吹き飛んでいく。練習の成果かな。結構集弾できているような気がする。


この状況を見ても、うちの家臣達はだれも驚かない。爆弾クロスボウで慣れているからかな。何でも慣れだね。勘助と幸隆は「海岸に近い城はこれでイチコロ」とか話し合っている。


こうしてみると、榴弾をクロスボウで飛ばす方式をグレネードランチャーに切り替える必要があるかどうかだな。元々爆弾クロスボウ方式はこの時代の人にあまり違和感を持たないように考えた結果のものなのだが。


家臣達がグレネードランチャーに大した違和感をもたないなら、爆弾クロスボウをこっちに切り替えるのもありかな。しかしクロスボウは、本来の矢を飛ばす道具としても使えるから何とも言えないな。


特殊部隊はクロスボウ方式でも良いのかもしれない。

50%ずつ配備して評価比較してもらうかな。今後の検討事項だ。


志摩衆に造船の方はどうかと聞いてみた。ヨットの改良版は作れるようになったが、日本丸はまだ難しいそうだ。ただし日本丸のメンテナンスであれば何とかなるようだ。


「良くぞ乗りこなした。さすが志摩の海賊衆だ。日本丸をもう3台追加する。それに合わせて船員を増員しろ。」と命じた。


「それはありがとうございます。若い衆がもう操船に夢中でして。その話を聞けば大喜び間違いなしです。」


「その方達に渡しておる俸禄は十分か? 海賊はもう止めておるのだろうな。」

「もちろんでございます。俸禄には十分満足しています。若い衆の妻たちも喜んでいます。」


「熊野の堀内に、臣従するか? 敵になるか? 最終通告しておけ。敵になるならグレネードランチャーや大型ライフルの練習台になってもらえ。日本丸の数が増えるから、今度は海戦の陣形や戦闘方法も良く練っておけよ。弾はいくらでも補給するからな」


「承りました。熊野の連中ですが。年寄り連中たちは、『由緒正しき熊野水軍に志摩の海賊どもが何を言うか』と、反発するものが多いようです」


「しかしながらいくら熊野の年寄り連中が反対しても『南蛮船に乗りたい』という熊野の若い衆の熱意は抑えることは出来ないでしょう。間違いなく臣従すると思います。もし臣従を拒否すれば、ありがたく動く練習用の的になってもらいます」



船が増え、海軍らしきものが出来始めてきた。操船技術や砲術も上達してくれば。陸地が見えない航路でも航行できるような技術と、それを扱える技術者が必要になってくるな。


今世界は大航海時代の入口辺りぐらいだな。多くの犠牲を出しながら命知らずの船乗りが世界地図を作っているところだろう。


陸地が見えない航路でも航行できるような技術といえば、前世ではGPSだ。しかしこの時代に衛星が飛んではいない。GPSを使わないで、自分の船の位置を知るためには『緯度経度を計測する技術』と『緯度経度の入った世界地図』が必要になる。


大航海時代から近世にいたるまで色々な方法が検討されてきている。だがやはりこの時代から少しだけ進んだ技術を取り入れるのが良いだろう。


緯度経度の計測は北極星と太陽を使えば良いはず。2つの星は地球から遠く離れているので一定方向を示していると考えられる。緯度は北極星の仰角を計測すれば良い。


しかし経度については、地球が24時間かけてクルクル自転するため、経度を計測するためには時計が必要だ。


グリニッジ標準時の時計と同期した時計を持って航海する。航海の途中で太陽が真南にきた時に、グリニッジ標準時の時計と同期した時計の時間を調べれば、グリニッジ標準時よりどれくらい進んでいるかを計算して経度を知るという原理だ。


緯度経度表示がされた前世の地図には、グリニッジから東に180度、西に180度という表示になっている。


緯度と経度が分かれば、緯度経度表示の世界地図で船の位置を確認できるのだ。


緯度は北極星の仰角を計測する方法を採用する。経度は精度の良い時計を作って一工夫すればなんとかなるだろう。


一工夫というのは、精度の良い時計を、至高の匠スキルで作り出せても、標準時間が分からないことと、グリニッジ標準時との関係が決まらないことを、両方解決することだ。


解決方法としては、東京の緯度経度は、北緯36度で東経140度、なので、俺が創造した時計をグリニッジ標準時にしてしまい、東京の経度分を補正すれば良いだろう。


あまり精度は期待できないが、そんな程度のものでもこの当時の航海技術よりはずっと高いと思う。


城の俺の部屋に戻ったら、神様にパワーアップしてもらっている至高の匠スキルを使い、必要なものをいろいろ作成するか。


とりあえず思いつくのは懐中時計、金属製の分度器と定規、水準器、方位磁針、緯度経度が記されていて、国名が入っていない地球儀と地図ぐらいかな。


懐中時計が出来たら、日本の標準時間を設定しないといけないから、日時計を職人に作らせて太陽の高度が一番高くなる時を12:00に決めてしまおう。それが標準時間だ。時々補正して、航海前に船の時計の時刻を合わせれば良いはずだ。


仰角を計測する機器とかは俺が図面を書いて職人に作らせよう。ついでにグレネードランチャーや迫撃砲を打つ時には敵との距離を知る必要があるから、三角測量の原理で直角三角形を使って距離を測る機器も作らせておこう。


緯度や経度の計測や、測距儀も作ることが出来そうだが、問題は学校に通わせている志摩衆が原理を理解できるのかという問題がある。『地球が〜。星が〜。仰角が〜。』を理解してもらえるかだな。


そもそも使い方だけを修得させても、原理が理解できてなければ、その後の技術革新がない。もしも志摩衆の中に原理を理解できるやつがいなければ、学校全体の中で数学に強そうな奴を見つけば良いか。学生の数も増えている。1人ぐらいはいるかもしれない。


既に志摩衆の中から適性を見て、40名程度を学校に通わせて読み書き計算を勉強させ始めているところだ。でもまだ入口だ、先は長いな!


やはり教育だよ。読み書き計算の上位学校を作ろう。海軍用の学校をね。しかし講師はやはり俺か? いつも俺なのだよ、忙し過ぎる!


いつも同じだが考え始めると切りがないな。またブツブツが始まったと言われるかな。だれかに『日本の大航海時代プロジェクト』を丸投げしたい。


鉄甲船てっこうせんを作ったと記憶している九鬼嘉隆くき よしたか君を英才教育するか。といってもまだ赤ん坊なのだ。

先が長いな……






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