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豊穣神様

天文13年(1544年冬)13歳


祝言も無事終わったな!


この時代の結婚式は長い。

普通はその後夫婦で一緒に寝るのだろうけど。

まだお互い子供同士だから一緒に寝る必要はないと思う。

いずれにしても、やっといつもの生活に戻った。


「百合、読み書きはできると思うが、計算の方はどうだ?」

「計算は簡単なことならできます」


「千代女にも同じことを言ったのだが、計算は大事だぞ。計算はものを売買するのに役立つだけではないぞ。計算ができなければ大局的にものを判断することができない。物事を深く考える上で基本になるものだ」


「計算は桔梗と桜に習うようにしてくれ。彼女たちは俺が伊賀に学校を作ったときから計算を習っている。学校で習う以上のことは俺が教えたのだが、今はかなり高度な計算もできるようになっている。彼女たちに頼んでおくな」


「計算ですか? 桔梗さんや桜さんに習うようにいたします」


そういえば、桔梗さんや桜さんと話をすると、彼女たちが物凄く頭の回転が早いのが判る。伊賀や伊勢の様子について、何気にいろんな事を聞いたりしても、どれも順序立てて解りやすく説明してくれる。


父上のところに報告に来ていた六角家の内政担当の方よりも、数段仕事が分かっている気がする。

やはり、この家は普通ではないわね。


「桔梗や桜や千代女には『兵の名簿作りと戦死した家臣や兵の家族への補償』を担当してもらっている。百合もそれを手伝ってくれ。領国が増えて大変なのだ。それから百合も俺のブツブツに付き合ってくれな。あれは俺の癒やしにもなっているのだ」


「『兵の名簿作りと戦死した家臣や兵の家族への補償』については、桔梗さんや桜さんに聞きながらお手伝いさせていただきます。その〜、ブツブツとは何ですか?」


「それは、妻たちが言っていることなのだが、いつも俺は領地の問題点をブツブツと『あ〜でもない』、『こ〜でもない』と、呟いているそうなのだ。本人は無意識なのだが。それに妻たちが妙案を考えてくれるのだ」


「その案についてまた俺がブツブツと『あ〜でもない』、『こ〜でもない』を、繰返す。これが夫婦の楽しい時間になっているのだ。夫婦の遊びでもある。もちろん百合が難しければその場にいてくれるだけでも良いぞ」


北畠家に行って、武家の作法とか公家の作法とかで、役に立とうなどと考えていた私が情けない。これは相当頑張らねば、置いていかれてしまう。神童の妻になるとはこういうことだったのね。


でも面白い。何故かワクワクする。負けられないわね。

どこか他の家に嫁いでいたらこんなことは絶対ないわ。

北畠家の学校では、女子も読み書き計算を習っているとか。これは本当に面白い家だわ。


こんな家に嫁げるなんて、なんて幸せなのでしょう。

百合は気合が入り過ぎて、まったく眠気がなくなっていた……


……もう朝か。今日も忙しいな、予定が満載だ……


そういえば、忙しく気づかなかったのだが、領民の間では自分たちが豊かで幸せに暮らせるのは『神童である俺のおかげ』という話になっているそうだ。


これまでが、これまでだったことも相まって、俺を現人神と敬い崇拝する人たちの数が増えているらしい。

感謝を込めて城の方角に向かって手を合わせて拝んでいる人もいるようだ。


今までの努力が評価されていることはうれしいとは思うが。

俺は神では無い。

それに、こりゃ絶対まずいのだ。ほっておけば、豊穣神様が気分を害されるはずだぞ。


『三蔵。勘違いしてはならないぞ』とかね!


そもそも俺のスキルは豊穣神様から貰ったものだし、そのスキルがあればこそ、なんとか今があるからな。

何といっても豊穣神様は本物の神様だから。


「本物の神様の豊穣神じゃ。お前のことはずっと見ておるぞ」

突然頭の中に聞いたことがある声がしてくる。


「豊穣神様。大変ご無沙汰しております。いただいたスキルのおかげでなんとかやっています。領民達が豊かで幸せに暮らせるようになったことに大変感謝しております」


「感謝の意味で、村ごとに祠を作って豊穣神様を祀りたいと思います。そこで神様にお願いがあります。神様の像を1ついただけないでしょうか?」


「うれしいこと言ってくれるわね。あなたの前に像を出現させとくわ。はい、これね。これを祠の中に祀ってくれるとうれしいわ」


「この像に感謝の祈りを捧げてくれる人が増えれば増えるほど私の神力は増すのよ。それに比例して弟子であるあなたのスキルのパワーも増えるわよ」


「神様! 今、弟子と言われましたか?」


「聞き間違いよ。弟子ではないわね。あなたとも付き合いが長くなったという意味ね。弟子見習いの心得ぐらいだわね」


神様。相当うれしかったみたいだな。


「ありがとうございます。頑張って民を幸せにし、神様の評価が上がるよう努力します。弟子見習い心得にしていただいた事に感謝いたします」


「もう一つお願いがあります。豊穣神様の像に感謝の祈りを捧げてくれる村には、ご褒美として作物の収穫が少し増えるようにしていただけないでしょうか?」


「豊かな実りをもたらすのが、豊穣神である私本来の仕事だからね。収穫を2割アップぐらいで良いかしらね。だだし5割アップまでが上限ね。後は自助努力することね。もちろん祈りをやめれば収穫は下がるわよ」


「十分でございます。ありがとうございます。感謝の祈りを捧げれば神の加護により豊作となることを民に伝えますね。これで豊穣神様を祀る人がさらに増えること間違いなしです」


神様の気配が消える。


俺は神にいただいた像を見ながら『創造 豊穣神像 100体』と念じる。

神様の像が100体出現する。すぐに小姓の藤吉郎を呼び出す。


「豊穣神様からのお告げがあった。豊穣神様から頂いたこの像を領内の村々に祠を作って、村人が豊穣神様を祀るように取り計らってくれ」


「民には『今の豊かさがあるのは豊穣神様のおかげであること。像に感謝の祈りを捧げれば神の加護により田畑が豊作となること。』をしっかりと説明してくれよ。そして俺にではなく、この豊穣神様の像に手を合わせるようにと伝えてくれ」


「その説明は大事だからな。神様に怒られるからな。字の読めない領民に説明するために必要なら、解り易い絵は俺が用意するぞ」


「万事わかりました。藤吉郎にお任せ下さい。像を運ぶ人夫と黒鍬衆を連れてきます」と藤吉郎が走っていく。


さすが藤吉郎テキパキしているな。信長君のお気に入りになれるはずだな。





ここまで、お読みいただきありがとうございます。

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