六角家との婚姻3
天文13年(1544年冬)13歳
平井の読み通り、百合は定頼の養女とはならなかった。
義賢が狂ったように反対したからだ。
ナイスプレイだよ、義賢君!
失点を重ね続けてくれ。
百合との婚姻は、伊賀上野城で行う事になった。
祝言用の料理は本膳料理である。
本膳のメニューの中に伊勢海老が登場するので、見た目が豪華になっている。
伊勢海老の運搬は忍者宅急便が、おがくずコンポして運んでいるので新鮮だ。
茹でエビはタルタルソースで、刺身は醤油で食べてもらっている。
また猪肉を使った猪カツや、鳥の唐揚げなども希望する人には食べてもらっている。
祝言には定頼さん、後藤さんと平井家の家族一同、進藤さんが出席だ。
義賢や目賀田さんは留守番のようだ。
北畠家からはオヤジたちに楓母上と重臣達である。
式の最中は伊賀忍者警備隊が、城内と城の周辺警備をしている。
料理に毒とか盛られたら、北畠家の信用問題になるからね。
『ウチはもう慣れているけど、六角家の人たちは肉を食べていいのかな?』と、心配したのだが、嫌がるどころかムシャムシャ食べている。
美味けりゃ食べるのか。しかし少しガッツキ過ぎだと思う。
公家の連中もやって来ている。俺は誰も呼んでないのだけど。
山科のおっさんこと山科言継とその愉快な仲間たちだな。
勝手に連れてきやがって……
「美味いもの食わしてやるから山科に任せろ」とか偉そうに言っているに違いない。
それに乗っかって、ホイホイ付いてくる方も相当図々しいと思う。
流石に公家は鋼のメンタルだ。
将軍と仲良しの太閤さんこと近衛稙家は来ていないが、息子の近衞前久9歳が、山科のおっさんに付いて来ている。
実弟の元太政大臣の久我晴通も来ているな。
公家の知り合いは山科のおっさんのみで良いのだがな。
もちろんおっさんとは、金だけの付き合いだけどね。
なんか山科のおっさん、着ているものが小綺麗になっている気がするな。
ピンハネしていないだろうな。
この人たちは女王の婚約相手がどんな奴か見に来たのだろうな。きっとね。
いや違うな、こいつらひたすら食べているからな。
呼んでもないのに、図々しく乗り込んできて。
良くもまあ、こんなに堂々と飲み食いできるな。やっぱり公家はロクな者じゃないよ。
公家とは極力関わらないようにしよう。
百合と俺は、上座で行儀良く座っている。
行儀良い俺たちを他所に『猪カツや、鳥の唐揚げ』に、皆が群がっている。
特に公家!
ところで……
呑兵衛さんにはお酒を色々用意しているのだよ。
米焼酎、麦焼酎に蕎麦焼酎を樽でね。
柄杓ですくって好きなだけどうぞ方式だ。
澄酒も作って良いのだが、もう少し米の生産に余裕ができてからにする。
俺は立ち上がって。酒樽の前に移動する。
酒樽を柄杓でコンコン。
呑兵衛の皆さんが注目している。
とにかく美味い酒を飲みたいという期待が、眼差しに表れているぞ。
なんか可愛いワンちゃんみたいになっているぞ!
「皆さ〜ん、この焼酎には、もっと美味しい飲み方がありま〜す」と、焼酎の横に立った俺は、柄杓で樽を叩きながら再度注意を集める。
定頼さんまでこちらを注目しているな。
「まずは、3種類の焼酎の中で好みの焼酎を選んで下さい。それぞれ米、麦、蕎麦の風味があります。次に炭火で沸かしているこの白湯を注ぎます。ハイこのようにお湯割りを作って下さいね」
「お湯割りにすることで、それぞれの風味が香ります。まずはそれを楽しんで下さい。割合は好みですが、焼酎1にお湯が2ぐらいの割合がいいと思います。お酒に弱い方はお湯の割合を増やして下さい」
「そして、その中に潰したこの梅干しを入れます。後で飲んでみて下さい。何ともいえず美味いはずです」と、焼酎の美味い飲み方を解説する。
13歳の俺が解説するのは変なのだが、神童はそんなもんだろうと思っているみたいだ。
「焼酎が1にお湯が2だな」とか赤ら顔の呑兵衛たちが確認する。
もう既に呂律が回っていないですよ。
うれしそうに、ニコニコしながら作り始める。
こういうのを作る時って楽しいのだよ。俺も経験が有る。
それにしても、呑兵衛たちの飲み方が止まらないけど大丈夫か?
酒と梅干しはたくさん用意しているからなくなることはないけど。
目出度い席で絶対吐くなよ。せめて庭にしてくれ。
なんといってもこの時代の日本酒がイマイチ過ぎたからね。
ドブロクだもんね。ハッキリ言って料理と合うとはいい難い。
比べるのがドブロクなら、そりゃ焼酎が何倍も美味く感じるだろうね。
真っ赤になった定頼さんから「六角家を頼む」と、言われた。なぜだ?
やはりバカ息子が心配なのだろうな。ダメな子ほど可愛いと言うもんね。
俺は定頼さんが、なんか可哀想な気になってきた。
「息子もダメですが、孫はもっとダメなんですよ。孫のせいで六角家は潰れますからね」と、思わずカミングアウトしそうになった。
それにしても定頼さんが苦労して六角家を大きくして来たのにね。
子供がダメならそれまでなのだな。
でもこれは他人事ではないのだよ。将来の俺の子供がダメな場合はどうなるのかな。
六角家の宿老たちから「焼酎をお土産に貰えないか」と、北畠家の重臣たちに熱いお願いコールが起こる。
勝手に居座っている公家達からも図々しくも『俺たちの酒も頼む……』という無言の熱い視線が重臣たちに突き刺さっている。
そんなので良いのか?
飲み方を記して、主上に梅干と各種焼酎5樽を送るかな。そうだ最近は伊賀で焼き物を作らせていたな。焼酎飲むのに良さそうな盃も一緒に送っておこう。
前世で読んだお酒関連の記事を思い出した。
黒ぢょかみたいなのは売れる気がする。
平たい急須とぐい呑みのセット。それに加えて急須を温める卓上囲炉裏もあると最高だよね。
新たな産品に追加しよう。
まずはオヤジたちと重臣達に使ってもらおう。言わば『オヤジ宅飲みセット』だね。干物も炙れるしね。干物は伊勢の干物だ。
少し時間がかかるが主上と公家達に、オヤジ宅飲みセット高級版と焼酎を送ることを伝えておいた。
そうしないと帰りそうにないのだよ。
マロは、いらないからさっさと帰れ!
オヤジ宅飲みセット高級版は菊マークつけたやつを、皇室ブランドで山科のおっちゃんが売ればいいかもね。
朝廷の財政が多少でも助かるかもよ。
ネコババしないで、儲けは主上に還元するようにして下さい。
北畠家ブランドは、正直家で売れば良いしね。俺って孝行息子じゃん。伊賀焼も本格的に始動だな。腕の良い焼き物職人をオヤジたちにリクルートしてきてもらおう。
なんだかんだで、伊賀名産品も増えていくな。
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