六角家との婚姻1
天文12年(1543年秋)12歳
六角家から婚姻を進めたという話がきてしまった。
上野城に主だった家臣たちに集まってもらっている。伊勢の兵たちは国に戻したが、まだ上野城に居残り継続中だ。
俺って、ず〜と忙しいのだけど。いつまで忙しいのかな?
子供は疲れ知らずだから良いのかな? まあ疲労で倒れたら自分で治癒すれば良いし。
しかし倒れて気を失ってしまうと治癒できないよね。
そのまま死んだら『治癒スキル』は役に立たないのだが。
集まっているのは、オヤジたちと楯岡道順、山本勘助、真田幸隆、工藤昌祐、森可成、藤堂虎高、島清国、望月出雲守、村井貞勝である。
まあ全員だ。とても大事な決定事項になるからね。皆の意見を参考に、最良の結論を出す必要がある。
「婚姻の相手は平井の娘だ。六角家の養女にして北畠家に嫁がせるつもりらしい。そうなると今回は正室ということになる。しかし良く考える必要があるぞ。六角家と婚姻となれば政治的に色々な面倒事に関わらざるを得なくなるであろう」
俺は説明を続ける。
「六角家との婚姻同盟により、幕府を今までのように無視しにくくなるだろう。定頼の娘は晴元の嫁だしな。また公家の近衛稙家が将軍家に近しい。この近衛家というのもなかなか面倒なのだ」
「また六角家の領地は近江という政治的に難しい位置にあり、法華に一向宗に比叡山といった寺社勢力との関わりも無視し難くなるだろう。つまり、将軍家や管領に公家に寺社、三好家や畿内の大名たちの誰とも巧妙に外交調整をする必要が出てくる」
「この婚姻により北畠家は政治的に面倒な立場に放り込まれる。六角家の狙いはそこにあると思う。北畠家を政治的に雁字搦めにし、飼いならそうとしている。だからこそ上手く切り抜ける必要がある。皆の考えを聞きたい」
勘助が意見を述べる。
「六角家と北畠家との婚姻とせず、あくまでも六角家の重臣の娘との婚姻に留める。正室ではなく側室。それであれば婚姻による影響は少ないと思います」
村井貞勝が意見を述べる。
「六角家との婚姻となれば、北畠家は否が応でも将軍や管領との関係が発生してきます。殿の目的である『戦をなくし、民を幸せにする』を達成することに対して、様々な制約が掛かると思われます。将軍や管領は『民を不幸にしている筆頭』です。私も山本殿の意見に賛成します」
俺はこんな結婚はお断りしたい。室町幕府や公家との関係が深くなり、今後の行動に制約を受けるのはごめんだ。
何かいい手はないか。
「なるほど貴重な意見だ。他にはいい考えはないか。それではこの申込みを断ればどうなるのだ?」
「次々と別の娘で、同じような話がくるでしょう」と幸隆が答える。
「面倒だな。もう既に俺は定頼の手の上に乗せられているのか? 俺の考え過ぎか」
一同が考え込み始める。こういう展開はダメだな。
その時、我々が話している部屋に小姓の藤吉郎が大急ぎで走って来る。
「殿! 山科様が来られました」
『なんだよ。こんなタイミングで! 一番ややこしい奴は来ないで欲しい』と、思いながら皆の顔を見る。
皆も同じようなことを思っているのか、一様に嫌な顔になっている。
俺の顔も同じ顔だと思う。
全員が『山科! 忙しいから今度にしろ〜や〜』という気持ちなのだ。
とにかく話だけ聞いて、さっさとお帰り願おう。
評定を行なっている部屋に通すよう藤吉郎に伝える。
藤吉郎が、山科のおっさんを呼びに行こうとしていると、既に山科のおっさんは、近くまで歩いて来ている。
『いつものことだけど。ムカつくわ。このホホホおやじが!』と、全員がムッときている。
しかもいつものように、当然のごとく上座に座ろうとしている。
公家という人種はある意味凄いと思う。俺にはこんな芸当はできない。
まったく怯む様子が見えない。子供時からメンタルを鍛えるトレーニングを受けるのか?
『もうどうでも良いから、さっさと要件を済ませて帰ってくれ』と、皆が顔を合わせて頷いている。
嫌われているぞ。おっさん!
俺も面倒くさいのでさっさと上座を譲る。
『はいはい、お好きにどうぞ。歓迎していないけどね』という気分だ。
俺は「それで、緊急な御用の向きとは何でございますか?」と尋ねる。
おっさん! 俺と家臣たちのイライラ光線をものともしない。アウェイな雰囲気を一切意に介さず話を切り出す。
「良い話じゃぞ! その方。嫁をもらわんか。ホホホ……ホホホ……ホホホ……」
でたなホホホ!
はあ、なんのこと?
しつこい勧誘電話を断る時は「間に合っています」と、言うのだっけ。
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