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六角家4

天文12年(1543年夏)12歳


観音寺城の評定の間に、嫡男の六角義賢ろっかく よしかたと、数が減ってしまった宿老の平井定武、後藤賢豊、進藤貞治、目賀田綱清が集まっている。

上座に当主の定頼が座り、平井定武と後藤賢豊を見つめている。


平井定武と後藤賢豊は表情が暗い。

日野城での談合結果を上手く説明できなければ、定頼に斬り殺される可能性があるからだ。


「ご苦労だった。疲れたであろう。交渉はいかがであった」


「甲賀郡全てと蒲生の領地に日野城の譲渡、5年間の不戦協定と迷惑料2万貫で交渉をまとめてまいりました」


その話を聞いた義賢が激昂する。


「何たる無様か、宿老が2人も出向いて、相手にばかり都合の良い条件を飲んでくるとは!これで話をまとめて来たと言えるのか? これでは北畠家の言いなりではないか」と、刀にかけた手が怒りで震えている。


平井と後藤は義賢に切られることを覚悟した。


「義賢落ち着くのだ。後藤よ、三蔵はどのような人物であったか?」

「噂通りの神童でございました。とても12歳の子供とは思えませんでした」


またまた激昂し始める義賢。


「そんな12歳のガキなど。脅しつけて、言うことを聞かせればいいではないか? ガキを脅すなど簡単なことであろうが!」と、再び刀に手をかける。


名君と謳われる定頼に認めてもらいたくて頑張っている義賢にとって、自分は周りに認めてもらえないのに、子供の三蔵を皆が認めている事が悔しくてならなかった。

三蔵が憎い! 許せなかった。


「簡単に刀に手をかけてどうする。将来上に立つものとして見苦しいぞ。この者たちは六角家を支えてくれる忠臣だぞ」


「己の心すら制することのできぬ者に付いていく家臣はおらんぞ。忠臣というものは、仕える家に忠すのではないぞ! 仕える主の心に惚れて忠すのだ。なぜ叱責されるのかよく考えてみよ」


「平井、後藤、北畠家と談合しておまえたちは、どう考えたのだ。説明してくれ」

さすが定頼様、良く分かっていると両名が安堵する。


「少々北畠家に有利な条件となったとしても、婚姻により神童を六角家に、いや定頼様の懐に取り込むのが最良の策かと考えました」と平井が答える。


「随分と惚れ込んだものよな。そう簡単に神童を取り込めるか?」


「たしかに神童ではあります。おとなになれば竜とも成るかも知れませんが、今はしょせん子供です。一度取り込んでしまえば、後は殿の政治力でいかようにも料理できましょう。殿ならばこの同盟を利用し、伊賀と伊勢まで我が物にできるのではないでしょうか」


「儂と神童で勝負せよと言うのじゃな! それも面白い! 神童と早く会ってみたいの」

さすがは宿老よな。我が心を良く解っておる。

定頼は頬が緩む。


「平井、父上に無礼であろう。何を考えておるのだ。家臣の分際で出過ぎたことを言うな」

我が嫡男ながら、義賢は見えるものが狭すぎるの。

この者が後継ぎで大丈夫なのか? 

定頼は気持ちが少し沈むと同時に苛つきを覚える。


「義賢黙っておれ! お前は面白い話だとは思わぬのか? 『いくさによる戦い』、『政治による戦い』と、世の中の『戦い』には色々なやり方が有ることを知れ。いま少し物事を大きな視野で観なければならぬ」


「平井、儂には三蔵の年齢と会う娘はおらんぞ。そんなに惚れ込んだというのなら、其方の娘はどうなのだ。丁度良い年頃ではないか?」


「我が娘の百合を三蔵に嫁がせるのであれば、殿の養女にしていただくのが宜しいかと」


「父上! 名誉ある六角家が伊賀の忍者ヅレに振り回されて良いのですか? 私は納得できませんぞ! 婚姻など必要ありません。今すぐに兵を集め北畠家に攻め込みましょうぞ!」と、義賢が激昂している。


待てども……義賢は誰からも自分に賛同が得られない。

その言葉を最後に怒り心頭となり部屋から出て行く。


「義賢にはよく申し付けておく。心配するな。わしと三蔵の勝負か! そういう勝負も良いものじゃのう」


……評定の間での、定頼への報告が終わった……


平井は定頼への報告の後、体に酷く疲れを感じた。しかしひょっとすると、このことは『平井家に巡ってきた幸運』なのかも知れないと心が高揚している自分に気が付く。


とにかく平井廓に急ごう。


平井廓に戻り妻と百合を呼ぶ。これまでの話と婚姻の話を百合に聞かせる。

「神童様の妻ですか。平井のため。六角家のために喜んで嫁がせていただきます」


「良く言ってくれた。礼を申す。後は父に任せておけ。何と言っても従五位上北畠伊勢守。2カ国の国主じゃ。決して悪い話ではないぞ」


「まあ、これから嫁入り道具を揃えねばなりませぬな。あなた様、ケチった嫁入り道具では平井家と六角家の恥になりますよ。忙しくなりますね」と、妻が喜んでいる。


「まあ待て。婚姻の話はこれから北畠家と連絡をとり、三蔵殿の了承を取らねばならぬからな」


平井はさっそく真田に再訪の約束を取り付けるのである。







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