六角家2
天文12年(1543年夏)12歳
蒲生は槍隊2000人の前衛に盾を2重に持たせている。
槍隊の後ろには弓兵が配置されている。そのままゆっくりと前進してくる。残りの槍隊はいつでも突撃できるよう待機させている。
まずは小手調べに一当てするつもりなのかな?
北畠軍は土手の上に、幸隆の指示で盾を持った槍隊が並んでいる。
ライフル隊は堀の中から盾の隙間から銃口を差し出し、敵槍隊に狙いを付けている。
ライフル隊と敵槍隊との距離が300mとなった。ライフル隊が弾幕を張り始める。
敵槍隊は、2重の盾で弾丸から身を守る。同時に後ろに配置された弓隊が矢を放ち始める。矢は放物線の軌道を描いて飛んでいくものの距離があるため精度が悪い。
土手の槍隊の盾に少し矢が時々刺さる程度だ。
蒲生は槍隊を更に前進させる。ライフル隊との距離は200mとなる。
敵槍隊の2重の盾はライフル弾でボロボロになっていく。
更に槍隊が前進する。やがて盾を弾が貫通するようになる。槍隊が次々倒されていく。また盾の防御が無くなった弓隊も倒され始める。
六角軍の不利な状態を確認した蒲生は、一旦兵に引き上げを命じる。
しかし槍兵や弓兵の損傷は大きい。蒲生と三雲は北畠軍を倒すための策を再考するため、陣の守りを固め直す。お互いの陣は再び睨み合い状態となる。
一方この戦闘が始まる前に、オヤジたちが率いる特殊部隊は、山城である三雲城の斜面を登り始めている。
三雲城は要所要所を少ないながら三雲家の忍びが守ってはいるものの、特殊部隊の敵ではない。装備が違う。榴弾と拳銃の遠距離攻撃で次々倒れされていく。
本丸に隠れている三雲一族を、全員始末するまでの時間は大してかからない。オヤジたちは城を占領したことを三雲に知らせるため掛け声を掛けさせる。
「エイエイ、オー。エイエイ、オー」
さらに城が燃えているように偽装するため、枯れ木を燃やして煙を上げる。
オヤジたちは三雲城の守りを甲賀衆にまかせ、休養も不要とそのまま日野城に急ぐ。
三雲は、三雲城からの爆発音に気が気でなくなっている。白い煙が上がり。城から勝どきも聞こえてくる。三雲城の落城を覚悟した。一族も無事ではないだろう。子供や妻、兄弟の顔が浮かぶ。
三雲の感情が失望から、徐々に怒りに変わっていく。やがて怒りで形相が変わってくる。蒲生は三雲城の次は日野城が狙われるに違いないと思い始める。また定頼から勝てぬなら惜敗で良いと言われていることを思い出した。
決断は早い方が良い。老練な武将の判断は早い。
「この戦は勝てない。儂は日野城に戻る」
「儂は三雲城を落とされておるのだぞ。一族も全員が死んだ。おまえだけを自分の城に帰させる訳がなかろう。このまま憎き北畠軍に向けて、全軍を突撃させるぞ。それで良いな」
「戦を知らぬ忍び風情が何を吐かす。引くべき時に引くは戦の常道よ」
「ふざけた事を言うな。貴様が儂をこの戦に引き込んだのであろうが」
「忍びはこれだから困る。戦の状況判断もできないのか。哀れなり! 儂は引き上げるぞ」
「させるか!」
三雲は背を向けた蒲生の背中に向けて、鎧の隙間から刀を突き立てる。蒲生はいきなりの痛みに驚くばかり。
「何をする。儂にこんな事をして、どうなるのか解っているのか?」
「儂は城も家族も全て失っている。怖いものなど何もないわ!」
様子を遠巻きに見ていた蒲生家の兵と三雲家の兵が右往左往し始める。
敵陣の乱れに気付いた幸隆は、陣両脇の爆弾クロスボウ隊250人を槍隊1000人に守らせながら前進させる。
右翼と左翼から敵本陣を囲むように移動させる。
ライフル隊も槍隊1000人に守られながらゆっくりと前進。俺も本陣を前進させる。
爆弾クロスボウ隊と槍隊が敵の本陣を左右から挟み込んで榴弾を放ち始める。
幸隆が総攻めの合図を出す。
俺の守りに300人を残し、全軍で敵本陣に攻めかかる。1刻もしないうちに、可成が蒲生賢秀と三雲賢持を討ち取ったと知らせが舞い込む!
この戦闘の終結に少し遅れて、特殊部隊を率いるオヤジたちは日野城の占領に成功する。
蒲生の一族は全て始末された。城の一部は榴弾で破壊されているが、修理できるレベルのようだ。
戦に初参加の俺だけど、目の前で人がどんどん死んでいくのを見ても、気持ち悪くなることはなかった。
しかしこれだけの死体を作り出したのは自分に間違いない。
『戦をなくし。民を幸せにする。』を実現しようとするのも自分だ!
どちらも自分なのだ!
崇高な目的のためとはいえ、大量殺人をした事実は消せない。少なくとも俺の心からは消えることはなく。
一生背負っていくことになる。俺の心のバランスが崩れていく。
やっちまった責任感なのか、なんなのか? 体がどんどん重くなっていく。息も苦しい、口も渇く、耳もキーンと音がしている。
楯岡道順が俺のところに来てくれた。
笑顔で「いい天気ですよ」と、言ってくれた。
そうだな。俺がこんな事をやっていても、晴れは晴れ。
山の方を眺めれば、その風景は戦前と何も変わらない。
空の青さと山の稜線が良く似合う。綺麗だ。
こんな事を考えているうちに、体が軽くなってくる。
少しずつ、いつもの自分に戻っていく。
もう大丈夫だ。だが背負ってく荷物は重いな。
蒲生賢秀と三雲賢持の首が俺の前にならんでいる。
気持ち悪いけど。命がけで首を取ってくれた可成を労わないといけない。
「可成。見事だ」と、大きな声で言う。可成の目が優しい。
顔を上げると俺の周りの武将たちが、俺に優しい目を向けてくれている。
皆が俺を気遣ってくれていることに初めて気付く。
思わず「俺は良き家臣を持った」と大声で叫んだ。
うれしかった。少しウルっときた。
「エイエイ、オー。エイエイ、オー」
こだまが山から跳ね返ってくる。
俺たちは日野城に移動を開始する。その日の内に日野城に入城を果たすことができた。観音寺城の六角定頼に、こちらが勝利したことを矢文で伝えさせた。
文面は『蒲生定秀と三雲賢持を討ち取った。2人の首を引き取りに来られたし日野城にて待つ』とした。
伊賀には、増援の兵3000人を要請し、日野城の兵は8500人となる。兵糧の補充も行う。
三雲城は甲賀衆に任せてある。
今後の話し合いにもよるけど、このまま観音寺城を占領するのもありなのだが。
その後が面倒だからそうはしたくない。
六角家の使者が城に来る。六角の六宿老の平井定武と後藤賢豊である。たしか後藤は外交を担当しているおっさんだよな。
大広間に奥に俺が座り、両脇を道順と幸隆と可成が固める。
その前を少し開けて、武将達が座っている。
冨田勢源は俺の斜め後ろで睨みを効かせている。
後藤が口を開く。
「この度は蒲生定秀と三雲賢持のせいで、誠に不幸な行き違いが起こりました。我らも残念至極の思いでございます」
しばらく沈黙が続く……
北畠家を舐めているのかと武将たちの表情が険しい。
「で、どうするおつもりか……」と、幸隆が催促する。
「どうするもこうするも、不幸な行き違いであるからこそ、お互いが兵を引きましょうぞ!」
北畠家陣営の武将がキレそうになっている。
「何ならこのまま観音寺城を燃やしても良いのだが!」と、幸隆が脅す。
「これはしたり。六角家は武家の名門でござるぞ。将軍家とも関わりが深い。北畠家は幕府を敵にされるつもりか?」と、後藤。
表情が強張っているな。
後藤の額から汗が滴る。
「北畠家は南朝派だったのだがな! だから。どうするのだ?」と、俺はさっさと負けを認めろと追い詰める。
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