六角家1
天文12年(1543年夏)12歳
忍者調査隊の報告によれば、六角家では『北畠家と戦をするか。婚姻同盟で北畠家を取り込むか』で、意見が分かれ揉めているようだ。
六角家なんか戦になっても大した相手ではないが、六角定頼の政治力は侮れない。
あっちの国、こっちの国と手を組んで、大兵力をかき集められたりすれば面倒になる。
幕府に音頭を取らせて、六角家と朝倉家、三好家、筒井家の連合軍を形成とかね。
可能性は低いが用心しておかないといけない。
甲賀の望月からの情報では、北近江に覇をとなえ六角家と争っていた浅井亮政が、昨年死んで浅井家が弱体化してきているようだ。
六角家の支援を受けた浅井久政が後を継いでいるものの、自分の奥方を六角家に人質に差し出しているという状態だ。
嫁さんを人質にとは嫌だね。
浅井長政はその奥方の息子の名前だ。
つまり六角家は北に敵がいなくなっているということだ。
どこかに攻め込むなら今でしょの状態になっているのだ。
幕府との関係だが、12代将軍の足利義晴とも細川晴元とも仲が良好という状況だ。
しかしアホの晴元の起こす無意味な手伝い戦に付き合わされ、財政は苦しいようだ。俺にとっては、ナイスプレー晴元だ。
戦は銭がないとできないからね。
六角家の判断しだいだが、財政をさらに悪化させても良いと考えるなら、1回ぐらいは北畠家と戦ができる状況かな。
日野城の城主である蒲生定秀が戦をしたい派筆頭、うまく取り込め派筆頭が平井定武のようだ。
蒲生定秀の主張は『舐められたら大名は終わりなのだよ! 甲賀に鉄槌! カチコミだ!』と、いうところだ。
ヤクザ映画みたいだな。
定頼としては、戦で一当てした後に婚姻同盟をすれば良いと思っているようだ。
『勝ったら六角家に都合の良い条件で婚姻同盟をする。仮に負けたとしても、惜敗ぐらいに止めておけば、婚姻同盟の条件を少し不利にすれば良い。』というぐらいの感覚だ。
状況を大掴みで把握し、ゆったり構えている。
前提条件となっているのは『婚姻同盟に持ち込めば、子供の三蔵など、その家臣共々取り込んでしまうなど簡単だ。伊賀も伊勢も、いずれ六角家の領地にしてみせる。政治力の戦いで絶対に負けることなどない』という自信である。
蒲生には、「慎重な意見の者もおるが。お前が勝てば問題ない。しかし負けても惜敗に留めるのだぞ。老練で戦上手な賢秀なら容易いはずよな」などと言い。
平井には「蒲生には困ったものだ。もしも負けるようなことがあれば、定武よ、交渉はおまえにまかせたぞ。期待しているぞ」とでも言っているはずだ。
定頼は部下の操縦も上手そうだ。こういう腹芸の出来るおっさんは苦手だな。
そういえば会社にもこういうおっさんがいたな。偉くなるタイプだけど俺は嫌いだ。
その婚姻同盟だが。凄く面倒だ。
六角家との婚姻を通じてアホ幕府とも繋がってしまうのだ。定頼の娘は晴元の嫁だしな。はっきり言ってそういうジュクジュクした政治闘争は苦手だし興味もない。
定頼には勝てないしね。
神様と約束した『戦をなくし民を幸せにする』という目標達成とまったく関係がない。はっきりいって時間の無駄だ。
六角家は近江という難しい位置に領地がある。朝廷と幕府に加え、寺社勢力も法華に一向宗に比叡山と、てんこ盛り状態だ!
定頼さんの政治力が鍛えられるわけだよ。
六角家との戦だが、北畠家が負けることはまずないと思う。何故かといえば、前回の旧北畠家戦の時といっしょで、六角家の武将のほとんどが『忍びなんかは、強い態度に出れば何でも言うことを聞く弱い奴ら』という認識だからだ。
問題は勝った後なのだ。こんなに政治的に面倒な南近江を領有する気はない。
くだらない政治闘争で、心と時間がすり減らされるのはゴメンだ。
六角家の領土は削るけど、六角家には、くだらない政治闘争しないで済むための防御壁として細々と存在してもらうつもりだ。
六角家の奴ら、戦をしたいなら、さっさと動けよ。いつまで待たせるのだ。
……待つのは嫌だな……
やっと俺のところに、六角家動くの知らせが来る。
六角家が、やっと戦をする気になったみたいだ。
甲賀衆からの情報では、蒲生定秀が大将となり、三雲賢持を副将にして、5000人の兵が三雲城に近い平地に集結すべく移動中のようだ。
5000人の兵で伊賀に寝返った甲賀の上忍どもを、見せしめに皆殺しにしたいらしい。
主力は農民兵だが、三雲の忍者も100人程度混じっているようだ。
結構、農民兵に動員をかけたみたいだな。農民にとって迷惑な話だよ。
今回、俺は戦に出られることになった。
初陣である。軍師は勘助ではなく幸隆にした。
この戦で、幸隆と可成に経験を積んでもらう予定だ。
幸隆は大軍を動かす軍師に早く慣れて欲しい。
また家督を譲られたばかりの可成も大軍の指揮に慣れて欲しい。
でも今回一番慣れてないのは俺です……
我が軍の陣容は……
大将は俺だ。護衛は楯岡道順と冨田勢源だ。軍師は真田幸隆、槍隊3000人は森可成が率いる。ライフル隊2000人は工藤昌祐、爆弾クロスボウ隊500人は工藤祐長だ。
それと特殊部隊500人もオヤジたちに率いられて参戦する。別働隊だ!
忍者調査隊200人は望月出雲守が甲賀衆を指揮する。
……三雲城から少し離れた平地で両軍が陣を張り対峙している……
我が軍は、前方に深さ1m程度の堀を作り、掘った土を前方に盛り上げて土手を作っている。その前に柵を設けている。
前衛にライフル隊2000人、ライフル隊の左右両脇に爆弾クロスボウ隊250人ずつ。ライフル隊と爆弾クロスボウ隊の後ろには、槍隊2000人を1000人ずつ2隊に分けて配置する。
槍隊はライフル隊の弾幕が破られた場合、前に出てライフル隊を守る盾となる予定だ。大将の俺は、最後衛の本陣に槍兵1000人に守られている。
今は幸隆と望遠鏡で敵の動きを観察中だ。
六角軍は、前衛に槍兵4000人が千人ずつ4隊に配置、その後ろに弓兵を500人配置し、最後衛の本陣には大将と副将がいて、槍兵と忍者隊の500人が守っている。
大将が蒲生定秀で、副将が三雲賢持だな。
蒲生は六角家の中でも、戦上手な武将として名が知られている。老練な戦い方をする武将だ。負け戦もあるが大負けは一度もない。
北畠晴具のような単純な戦はしないと思う。
大将も副将もゆったりと構えているな。2人とも、この戦は負けるはずがないと思って安心しているように見える。
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