北伊勢2
天文12年(1543年冬)12歳
北伊勢は安濃津城だけを残して破却することにした。
城を壊して出てきた資材は、安濃津城の補強と整備に使う。現在安濃津の港の整備中。安濃津の事は幸隆に丸投げしている。
黒鍬衆の港湾技術も、安濃津の建設でますます経験値アップだろう。北伊勢安濃津城の城代は幸隆に、伊賀上野城の城代は勘助にした。
そろそろ動くかな、六角家が! 別に良いけどね。
そういえば、藤吉郎のお父さんの木下弥右衛門さんが亡くなりました。森可行さんも引退したので当初メンバーが2人減りました。
伊勢の統一を果たした俺は、松坂城に家族を呼び寄せる。松坂城の天守に家族が集まる。
天守からの眺めを気に入ってもらえたみたいだな。
ここは海風だよ。山風とは違うね。伊賀とは趣が違うよね。どっちも良いけどね。
「三蔵! 千代女との祝言はいつ行うのです?」と、母上が少し怒っている。
「千代女、すまん! 北伊勢で色々とあってな。六角家も動きそうだ。もちろん甲賀は何があっても守るぞ。甲賀が離脱し、目と耳と口を失った六角家などは、大したことはないからな!」
「しかし弱くなった事を六角家の者たちは気づいておらぬ! 俺が負けることはないから安心してくれ。甲賀が蹂躙されることは絶対にない。祝言は1ヶ月後にしよう。出雲守に連絡しておくな」
「三蔵、桔梗も桜も千代女もあなたの妻ですよ。長いことほったらかし過ぎですよ。」
「すまん。お詫びに皆に特別旨いものを作ろう」
「やった〜」
「北畠家では殿様が料理をつくられるので?」と、驚いたように千代女が言う。
「料理は得意だぞ、任せておけ」
さっそく料理だな。なんかウキウキするな。
いろんな事を忘れて料理づくりに集中しよう。
まず材料の確認だ。城の料理人のいるところに行ってみるか。
「料理頭、どんな食材があるか見せてくれ」
「殿様、料理は我らがいたします。」
「今日は良いのだ。俺に作らせてくれ。何より料理は俺の気分転換になる」
鴨がぶら下げられている。蕎麦もネギもあるぞ。
ならば『鴨蕎麦』を作るか。コネコネは道順に頼もう。
道順に以前使った、うどんセットを持って来てもらう。
小麦粉と蕎麦粉の割合は2:8だよな。二八そばだよ。
コネコネから蕎麦切りまでは経験のある道順にお願いしよう。俺は無理だしね。
道順がはりきって、襷掛けをしながら蕎麦を捏ね始めた。
俺はつけ汁の方だ。醤油は職人が作れるようになってきている。
もちろん産品として販売もしている。凄く儲かっているよ。
鴨の解体は無理なので、料理頭に鴨肉を大きなブロックに解体してもらう。
それを俺がフライパンでソテーする。
醤油に米焼酎を混ぜたものを鍋で煮立たせたところに、ソテーした鴨のブロックを入れてさらに煮る。暫く煮込んだら鴨肉を取り出して熱を冷ます……という感じでつけ汁が出来上がっていく。
道順に作ってもらった蕎麦を茹でて、水で冷やしてザルに盛る。これで完成。
家族とは一緒に食事をしたかったので家族用食堂を作ってもらっている。
もちろんテーブルタイプだ。畳に座って食べるのは食べにくいからね。
食堂に運んでもらったら、みんなで食事開始。その方が楽しいよね。
「蕎麦がこんなに美味しく食べられるとは思いませんでした。甲賀では蕎麦といえば、蕎麦粉をお湯で捏ねただけでしたから」と、千代女が感心している。
「甲賀に蕎麦と小麦をたくさん作付けしてもらっているからな。それは飢饉用ではあるのだが、ぜひこの食べ方を千代女の母上から、甲賀の奥さん連中に広めてもらいたいのだ。醤油も甲賀に送っておく。鴨の代わりに鶏とか猪とかでも試して欲しい」
「堺の正直屋の近くには、うどんや蕎麦を食べさせる料理屋を出している。堺の衆には結構好評だぞ。様子をみて店を増やそうかと思っているぐらいだ。甲賀に料理自慢の夫婦がいれば、堺に店を作って任せるぞ。我こそはという者はいないか。聞いてもらってくれ」
「三蔵様、料理を作っている時はお優しい顔ですね」と桔梗。
「料理は楽しいからな。ブツブツ呟いてもいなかっただろ。時間があれば料理はいつでも作るぞ。楽しんでくれ」
「ブツブツ呟くとは何でしょうか?」と、千代女が聞く。
「殿は国の解決すべき問題点を、ブツブツいいながら考えるのが好きなのよ。私たちも一緒に考えることが多いわね。結構楽しいわよ」
「お互いに意見を言い合ってね。殿は夫婦の寛ぎ時間だと言っているわね。千代女さんも参加してね。お陰で私たち内政には詳しくなったのよ」
「北畠家では国のことに、女が口を出しても大丈夫なのですか?」
「寛ぎ時間の時だけよ。でも妻も国の内政は把握しておくべきだと思うわ。国のことを何も知らなければ、殿を支える事はできないでしょ」
北畠家は変わっている。色々な事が新鮮で、何かいつも楽しそうだ。それにしても、彼女たちと話をすると直ぐに判る。
桔梗さんも桜さんも頭の回転が物凄く早い。物事に対する洞察力も鋭い。
私も負けられないわ。
まずは計算の勉強からね。この変わった北畠家でやっていけるのか不安もあるけど、それ以上に興味と楽しさでワクワクする。
この家に嫁いできて本当に良かったと千代女は思う。
1ヶ月後に千代女との祝言を挙げた。
今回は甲賀と伊賀の上忍衆がたくさん参加してくれた。甲賀と伊賀の昔話に花が咲いている。過去の辛かった話や、忍びの技術談義だ。甲賀にも忍術の達人がいっぱいいるからね。これからは技術交流もどんどん進めて欲しいね。
俺は甲賀衆による特殊部隊も作ることを決めた。
特殊部隊の数をもっと増やしたいからね。
そのことを甲賀衆に話すと、すごく喜んでいた。
伊賀特殊部隊は、甲賀の若い忍び中で憧れの存在なのだそうだ。
でもね、凄いのは特殊部隊の装備なんかじゃないよ。
君たち忍びの能力が凄いのだよ!
祝言の後、俺は千代女と同じ部屋に座っている。子供なので何もありませんけどね。
「側室にしていただきありがとうございます。私はてっきり妾かと思っておりました」
「そんなことは気にしないでくれ。それよりも忙しくてすまない。他の妻たちにも申し訳ないと思っている。ところで読み書きはできると思うが、計算の方はどうだ」
「計算は簡単なことならできます。早く桔梗さんや桜さんのようになりたいです」
「計算は大事だぞ。計算はものを売買するのに役立つだけではないぞ。計算ができなければ大局的にものを判断することもできないぞ。計算は桔梗と桜に習ってくれ。彼女たちに頼んでおくな」
「彼女たちには『兵の名簿作りと戦死した家臣や兵の家族への補償』を担当してもらっている。千代女もそれを手伝ってくれ。領国が増えたからな。それから千代女も俺のブツブツに付き合ってくれ。あれは俺の癒やしにもなっているのだ」
「北畠家では女子が表向きの仕事をしても良いのですか?」
「妻には国のことを知っておいてもらいたい。当主の考え方や判断を理解してもらいたい。名簿作りに関与すれば国のことが良く解ると思うぞ。だがまずは計算の勉強だ。内政についても教えてもらえ」
「喜んでやらせていただきます」
桔梗さんや桜さんが言っていた通り、この殿は本当に面白い方だ。子を産んで北畠家と甲賀の誼を強くするだけが、これからの人生だと思っていた。
女の人生なんてそんなものとあきらめていた。
だけどこの家は違うみたいだ。
とにかく、殿をがっかりさせないよう勉強ね。
明日から頑張るわよ。
千代女の表情が明るいな。千代女も美人だ。
でもさすがに、これ以上妻はいらないぞ。
気分を切り替えよう
六角家との戦が待っているからな。
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