北伊勢1
天文12年(1543年冬)12歳
南伊勢が急速に豊かになり始め。長野家と関家の領民の不満は高まるばかり。その矛先は、長野家の当主である長野藤定と関家の当主である関盛信に向かう。
長野家と関家も俺に負けて賠償金5万貫ずつを払わされている。
貧乏転落一直線の大名だ。
しかもそのお金は商人からの高利の借入金だ。前世の闇金利息どころではないウルトラ高金利だ。
借金はほっておけば雪だるま式に増えるから、当然ながら年貢を増やしての返済となるだろう。といっても利息払いだけで、元金はそのままという最悪なやつね。搾取され続けて下さい。
そんな借金生活にもかかわらず、奴らはバカなのか生活水準を下げようとしない。
どういう神経しているのだろうか。結局年貢を更に増やした。
年貢が増えていけば、最後には収穫したもの全部寄越せになるだろうね。農民の不満は大激増だ。
長野家と関家の領地と我が領地は、比較にならないぐらい違うよ。領民の幸せを考えているからね。
税率も4公5民1備としている。1備は米が不作だった時のための飢饉用米備蓄だ。1備の米は翌年分が蔵に収まった時点で農民たちに返却する。だいたいね、米の収入なんて大したことないわけよ。
昔から続けてきた事をただ繰返すのではなくもっと頭使おうよ。
俺は飢饉用の食料として、小麦や蕎麦も栽培させている。飢饉用とはいえ農家の収入アップのため、農家に作らせている小麦や蕎麦の2割は俺が買い上げている。焼酎の原料としてね。
これは民へ渡すお小遣いみたいなものだ。銭が無いと欲はなくなるが、懐に銭が貯まれば人間は欲が出る。もっと銭が欲しいとね。その欲が生産力向上の原動力になる。
ちなみに農作物は、加工し産品とすることで初めて稼げる。米作らせて年貢として領主が取り上げても国は潤わない。取り上げた米で、何かの商売をして儲けるわけでもない。ただ食料として備蓄するだけだからね。
作る農民側もやらされている感が満載だと思う。当然収穫高を増やす工夫なんかする訳ないよね。たくさん収穫できても領主に巻き上げられるだけだもんね。
うちは、商社正直屋という販売ルートまで持っているから、産品販売の儲けもでかい。間を抜かれないからね。こういう販売ルートを確保していないから、儲けの大部分を強欲な商人にくれてやることになるのだよ。
戦国時代に商人を富ませても何にもならない。
俺は儲けたお金を領内の公共事業に回している。そうすることで道路整備の労務費が領民に還流していく。俺の領地の中を銭がグルグル回るわけだ。
回っている銭は一定量でも、『領民の財布が潤う』、『国の財布が潤う』が交互に循環していくわけだ。そういうわけで、領民の豊か度合い指数は他国とは比較にならないのだよ。
神様が喜ぶ訳だ。
我が領民は、他国の領民と比べて着ているものからして違うよ。なんでそうなるかというと。京の零細古着屋商に対して、商社正直屋が資金力にものを言わせて一括大量購入を仕掛ける。
当然古着を安く購入できる。多少の買い叩きもするよ。でも通常の商売の範囲でね。おかげで我が領民たちは他領に比べて、信じられないくらい安く古着が購入できるようになっている。
長野家や関家の村人が、我が領内の村人たちの姿を一目見れば、生活レベルの差が丸分かりな訳だ。
着る物も違うし顔色も良い。行商のオジサンも、泥棒されたら嫌だから長野家や関家領なんか小走りで通り抜けているからね。
昔の伊賀みたいに。
長野家や関家の領民は『この差はなんだ。領主がバカだからだ。あのバカどもだけが良い暮らしをしてやがる。いい加減にしろや!』と、皆が思い始める。
俺たちはというと、北伊勢領民を煽って、煽って、煽りまくり〜の真っ最中だよ。幸隆が張り切っている。軍師はこういうのが楽しいみたいだ。
本当に生き生きしているな。
忍者撹乱隊を派遣し、いろんな場所で「当主一族はアホだぞ〜、自分達だけ贅沢をしていやがるぞ〜、このまま俺たちだけが貧しくていいのか……許さないぞ……」と、アジっている。
農民たちの扇動は順調だよ。『潜入。撹乱』だよね。いつも思うけど忍者は本当に何でもできるからいいね。
ついでにマンガの風刺ビラもいろんなところに張り付けてもらっている。もうすぐ長野家や関家の領地で一揆が起こるぞ。
……そうなった時の北畠家の言い分はだ……
一揆が起こり長野家や関家の一揆衆が我が領内に雪崩れ込みそうになったため、北畠家は仕方なしに出陣した。領民に懇願されたため、非道な長野家と関家の当主の成敗を手伝ったら、何と哀れな領民は歓喜してくれた。
こうなったのは全部長野家と関家の責任だぞ。それに、この失態は六角家の管理怠慢だ。
……となる予定だ……
六角家が怖くないかって?
甲賀という『目と耳と口』がなくなった六角家なんて、もはやザコ。
忍者の重要さを理解できなかった大名は滅びて下さい!
予定通り一揆勃発した。
民衆の怒りが爆発だ!
「当主一族はアホだ〜! 自分達だけ贅沢をしやがって! 俺たちは腹ペコなのだ!」と、いう声がいたるところで聞こえてくる。
まあ、あたりまえかな。
俺が忍び撹乱隊にアジらせているからね。予定通りだよ。
忍者速達便の報告を受けて、我が軍は北伊勢に電撃進攻!
疾きこと風のごとしだ。
もうね。
たったの2日で討伐完了。あっけないね!
長野家も関家も、金なし、武具なし、やる気なし、農民兵も集まるわけなしだ。抵抗なんか無理! 当主は自決! 自決しなかった一族郎党や家臣さんは、国外に逃げて行きました。国内にいると一揆勢に殺されるからね。
興奮した一揆勢は怖いからね。
『興奮した一揆勢をどうしたの?』て、落ち着かせるのは簡単だろ。
動けなくなるまで飯を食わせればいい。
飯食って落ち着いたところで『これから北畠家が君たちを豊かにすると約束する。安心してくれ。北畠家の領民を見たら解るだろ。俺を信じろ!』と、言うような演説を何回もする。一揆は即収束! みんなニコニコだ! お腹いっぱいの人は怒らないのだよ。
さあ北畠家にとって都合の良い世論を作り出すぞ。
京の都では『長野家と関家の両当主が暴虐の限りを尽くしたために。飢餓に陥った農民がやまれず一揆を起こした。非道な当主一族が一揆勢を殺そうとしたので、可哀想に思った北畠家が哀れなる領民に代わり両当主を成敗した』と、文字が読めなくても良く分かると好評なマンガ張り紙を貼りまくった。
もちろん噂も撒きまくりね。
悪は長野家と関家。正義は北畠家。無責任なのは六角家という感じだ!
京の民の非難の矛先は北伊勢の管理者である六角家にも向かう。
まあ向かわせているのは俺だけどね。
民意に押され朝廷も知らぬ顔ができなくなる。
『長野家も関家も六角家の配下ではないか。長野と関が酷いことをしていたのに、六角家は何をやっていたのだ。ちゃんと監督しておけよ。このボケが!』という都合の良い世論形成が完成する。
苦しい立場に追い込まれた六角家は「長野家や関家の不手際について当家は預かり知らぬ。長野家も関家と六角家とは、昔も今も関係がない」と、苦しい答弁だ。
ありがとう、六角家! 太っ腹だわ!
六角家と関係がないなら北伊勢は俺が貰っておくね。
もう貰っているけど。
六角家は京に噂が流れ、張り紙が貼られるまで、一揆のことも北畠家が攻め込んだことも何も知らなかったようだ。
まあそうだよね。六角家の目と耳と口の役割を果たしてきた甲賀衆は我が傘下だ!
三雲家だけでは人手不足で何にもできやしない。
甲賀衆が三雲忍びを全てブロックしているからね。
そもそも三雲家の下忍たちもまったくやる気がないみたいだしね。
情報戦で負ければこうなるのだよ。
忍者のありがたみ解ったかな?
そろそろ六角家がブチ切れるな。
ブチ切れても良いよ、大したことないから!
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