キャラック船1
天文11年(1542年夏)11歳
俺は道順と保正、藤吉郎、幸隆を連れてヨットハーバに来ている。
目の前の海では志摩の海賊たちが、ヨットの練習機を見事に乗りこなしている。ヨットが風上に向かいジグザグに進んでいる。完璧だ!
海賊の順応力は凄いな! 若い海賊たちが口々に「この通り風上に進めます。この船は本当に面白いです」と自慢そうに大声でがなり立てている。中でも特別元気の良い若い海賊の名前は九鬼定隆という。
九鬼嘉隆のオヤジだ。
これから作ろうと考えているキャラック船は、前世で、プラモデルを購入し、結構長時間をかけて製作をした経験がある。マニア向けの本格的大型プラモデルだったので、今でもその構造を細かくイメージできる。キャラック船を、至高の匠スキルで作ってみるか。
しかし小さなヨットは、至高のスキルで作れたものの、サイズが比較にならない程大きなキャラック船を作れるのかな?
「そんな大きなものが作れるわけありません」と、豊穣神様の言葉が聞こえてきそうな気がする。
以前に銃を作成しようとした時『うどんセットぐらいしか出来ません』と言われた時に愕然とした記憶が蘇る。
その時いきなり神様の声がしてきた。もちろん頭の中にね。
「聞こえているわよ。それにしてもね……本当に、あなた達が日の本と呼んでいるこの国だけど……いったいどうなっているのかしら! 民はどんどん死んでいくし、民の幸福度なんてマイナスの底に張り付いたままだし、上向きになることがないわね!」
「それじゃ管理者として困るのよ。本当にね! さすがに、どうしようかと思ってタメ息ついていたのよ。そんな時よ、伊賀と伊勢の民の幸福度がピョコンとアップしてくれているじゃないの! 助かったわ……」
「お陰で私の評価が現状維持で済んでいるのよ! 『大きいものは作れないか?』ですって、私がパワーアップしておいたスキルを舐めないでほしいわね。私は神なのよ! 神にできないことなんてあるわけないでしょ!」
「神様。至高の匠スキルで大きな船を創造したいのです。構造はもちろん頭に入っています。創造した大きな船は、伊勢の国を守ると同時に、貿易を行って民を豊かにすることができます。民の幸福度も上がるはずです!」
「大丈夫だと言っているでしょ! どんどん作りなさいよ!」
「ちなみに、至高の匠スキルで建物なんかも作れるのですか?」
「あなたに与えているのは、神の力の一部なのよ。どんどんやりなさいよ! 私が求めるのはね、成果よ! 分かる! 成果なのよ! 民の幸福度を向上させて、私の評価をどんどん上げるのよ。頑張ってよ!」
「神様を評価する偉い神様がいるのですね。大変ですね。神様の評価が上がるように頑張ります」
「うれしいことを言ってくれるじゃない。私の評価が上がれば、私のパワーが上がる。結果としてあなたに授けているスキルのパワーも上昇するのよ。分かったかしら!」
「ありがとうございます。頑張ります」
あれ。なんか静かになった。もう居ない?
相変わらず急に現れて急に居なくなるな。
それに相変わらずだな……
評価、成果って……会社の中間管理職みたいだな。神様の世界も評価制度があるのかな? 神様の評価が上がれば、俺のスキルパワーが増えるなんて……
上司が偉くなると部下も偉くなるというやつみたいだな。
キャラック船作っても、岸に接岸できないというのも不便だ。水深が十分そうな場所を見つけて、さっそく浮き桟橋を作ってもらおう。
作った浮き桟橋が波で壊れようが気にしないぞ。
次の建設に活かせる経験になるはずだ。やることが大事! 黒鍬善右衛門を、元気の良い九鬼定隆に手伝わせよう。水深なんかもチェックさせないといけないしね。
至高の匠スキルで作成した鉛筆と定規を使って、善右衛門が来るまでに浮き桟橋のイメージ図を描いておくか。
設計図が描けるということは、至高の匠スキルで浮き桟橋を作成できる訳なのだが、黒鍬衆の経験値を上げることを優先したい。
全部俺が作っては技術の進歩がないからね。
この鉛筆は、至高の匠スキルで以前に大量に作成したものだ。いろんなところで使えそうだと思ってね。
試しに職人達、次に文官たちに配ってみた。
「筆の方が良いです」と、言うかと思ったのだが、予想に反して大好評だ。
墨を磨らないですぐ描けるというのは大変便利なのだそうだ。
追加で何本もほしいという要望が色々なところから上がってきている。
毎度俺が鉛筆を作成しても良いのだが、この時代の職人が作れるようになってもらいたい。技術の進歩が、機械文明の進化へとつながっていくはず。そこでまずは墨を作っている職人に鉛筆の見本を渡し、鉛筆の芯の部分を試作させることにした。
まあ気長に製造に成功するのを待つとするか。
上手くできたら主上に菊のマーク付きの鉛筆を送ってみよう。評判良ければいろんなマーク付きの鉛筆を作るのはどうかな?
まあ開発に成功してからの話だけど!
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