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甲賀1

天文11年(1542年夏)11歳


俺は甲賀の下忍だ。


この頃は色々悩む事ばかりだ。甲賀の里はいつも生活が厳しい。腹はいつもペコペコ!

だけど昔は伊賀の奴らも同じように厳しかったのだよ。


だから伊賀の民も甲賀の民も、忍びの里の生活というは、どこもそういうものだと諦めていた訳よ。


しかしある時から伊賀が急激に豊かになりやがった。


そう伊賀に神童が現れてからだ。どうやったのか知らないが、直ぐに伊賀守になりやがった。あろうことか今は伊賀と伊勢の2カ国の国主だぞ。なんだよ。それ!! 甲賀と差がつき過ぎだろ!


これは俺だけの悩みじゃないぞ、甲賀の里では皆が同じこと思っているのだ。


あ〜、興奮すると腹が減る。印を結んでも効果なし。まあこういう時に使うものじゃないからな。何か食べ物が出てくるような忍術はないのかよ……


それに……伊賀の忍びの顔がいつも幸せそうなのだ。

イキイキしているというかな。食べ物も良いのだろう。顔色が良い。

たまに知り合いの伊賀忍びと話すことがある。


聞けば聞くほど、伊賀の生活は羨ましいばかりではないか。


はっきり言って無茶苦茶悔しい。必死で表情には表さなかったけどな。

聞いた話ではこともあろうか、村の子供達が通う学校まであるという。

しかも学校では無料で読み書きと算術を教えてくれるというじゃないか……


おまけにだ……

京を焼き出された流民たちですら、伊賀で普通に仕事にありつけ、飯にも困ってないという話だ。


たぶん俺達より良いもの食っているに違いない。それに奴らの子供達も学校に通っているみたいなのだよ。

どうなっているのだ……


こんな風に思っているのは俺だけではないのだぞ。

里の皆も同じような話を聞いているのだよ……

これは紛れもなく事実なのだよ。


興奮したら腹が減った……


もう話にならんわ。甲賀はどうなっているのだ。


伊賀とあまりにも差がつき過ぎじゃないのか! それにだ、六角家からの仕事は、あいも変わらずクソ依頼ばかりだぞ。くそー! くそー! くそー! 

やっていられるかよ。


あれ、涙が出てきた……


神童が現れた時、俺たちは伊賀の変わり様を眺めていた。その時は羨ましいなんて思ってもいないぞ。

伊賀なんかどうせ直ぐに元に戻る。貧乏に逆戻りするに決まっていると思っていたからな。


変に良い目を見たら分、後が余計に地獄に感じるだけだ。

むしろ。大丈夫か伊賀! 可哀想に! なんてね!。

だってね、世の中とはそういうものだろ。


でも伊賀は地獄に堕ちない……


堕ちろよ! 堕ちろよ! 元の伊賀に戻ろうよ! 俺達と同じ境遇に戻ってくれよ。

念仏のように念じ続ける。我ながら情けない。

そのうち伊賀は北畠家に目をつけられるようになる。

ああ、これで伊賀は終わりだと思った……


しかし! 北畠家を打ち破ってしまったではないか。

あれよという間に、何がどうなったか知らんが、当主が従五位上北畠伊勢守だと。

ふざけるな! 俺はなんで伊賀に生まれなかったのだよ!


もう考えるのも辛い……

涙が止まらんぞ……


俺達下忍同士が集まると、いつもこの話題だ。

皆は最後には静かになって泣いている。

甲賀の民は羨ましいのだよ……


そんな時だ『甲賀は北畠家に付かないかという誘いの使者が来ているらしい』という噂を耳にした。もちろん俺達は喜んだ。里の民すべてが大喜びだった。


「やった、やった」と、お祭り騒ぎだよ……

これで甲賀も幸せになれる。

みんなが期待したのだよ……


しかし誘われた甲賀53家の上忍達は、悔しいからかなんか知らんが……

「殺されたくなければ帰れ」と、使者を追い返したというではないか!


その話を耳にした時には、力が抜けて座り込んだわ。

村の娘達なんかは皆泣いとったぞ。


何やってくれているのだよ! 


甲賀の民は、六角家なんかやめて北畠家について欲しいと思っているのだよ! 分からないのか?

もう皆で伊賀に逃げたい。仲の良い下忍同士が集まると、いつも同じ愚痴りが始まる。

甲賀の村ではタメ息ばかり聞こえてくる。


『今度はどこそこの里から複数の家族が一緒になって伊賀に逃げ出した』という話が、いくつも俺の耳に入ってくるようになった。


その里の衆も自分が逃げ出したいぐらいだから、追手を掛けるといっても適当な感じらしい……


追い駆けるふりをして、自分も伊賀に逃げ出したいぐらいだ……

ちなみに伊賀に逃げ込んだ者たちは、人手不足の伊賀でさっさと仕事を見つけて幸せに暮らしているそうなのだ!


三雲のところだけは、逃げ出した家族全員を見せしめに殺したらしい。

しかも里の衆を全員集め、その眼の前で無惨に殺したと聞いた。

俺は三雲の里に生まれなくて良かった。


でもな、こんなことしていたら甲賀は終わると思うぞ!


甲賀の民の気持ちはもう既に決まっていたのである。




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