内政7
天文11年(1542年春)11歳
伊勢では何で儲けるかな。
伊勢といえばやっぱり真珠か。真珠と言えば志摩だけど、今の志摩国はどうなっているのかな?
確かこの時期なら10人ぐらいの地頭が話し合いで統治しているはずだけど実際はどうなのかな?
志摩は陸地より海に価値がある。俺たちが攻め込んで陸の狭い平地を占領しても、はっきりいってまったく意味がない。
住み着いている海賊も価値が高い。将来の海軍兵要員であり、貿易船の船員要員だ。攻め込んで死んでもらっては大損だ。
志摩海賊をどうやって取り込むか?
伊賀と同じで志摩は平地が少なく作物があまり取れない。食うために海賊をやっているはず。それなら海賊やらないで、豊かになれる道を示せば良いはずだ。
まずはヨットの練習機を作るか。
ヨットなら帆船だし、この帆船を操作できれば南蛮船も操作できると思ってもらおう。『ヨットの次は南蛮船だぞ! 求む南蛮船の船員!』は、良い勧誘文句になるはず。
まずはヨットで海賊共をこちらに惹きつけよう。
創造の匠スキルでヨットを作れると思うが、俺が船に乗り込んで操作方法を指導するのは無理だ! 泳げない人がヨットに乗るのはダメでしょ。
ヨットで風上に切り上がる方法なんかは、ガリ版刷りのマンガに活躍してもらおう。マンガはいろいろ役に立つな! 字が読めない人だらけだしね。
海の民なのだから、マンガの説明でも操船できるようになると思う。習うより、慣れろだ! 海に落ちても奴らなら死ぬことはないでしょ。操船をマスターできると信じているよ。
ヨットを創造する前に、まずはヨットを停めておけるヨットハーバーがいる。ヨットハーバーができたら、至高の匠スキルでヨットを数台作るという順番だな。
黒鍬衆は今まで上野城とか、いろんな施設を建設してきた建設集団だ。棟梁には黒鍬という苗字を与えたので、黒鍬善右衛門と名乗っている。
俺が描いた浮き桟橋タイプのヨットハーバーのスケッチ図を基に、善右衛門の指揮で黒鍬衆が松坂の港の端っこにヨットハーバーを作っている。
出来上がっているものは、俺がイメージした現代風のヨットハーバートとは少し違うが、そんなことを気にしたらダメだ。
そもそもヨットハーバーなんか、至高の匠スキルで作っても良いのだが、いろんな建設を黒鍬衆に経験させて、黒鍬衆の建設技術を進化させたいのだ。
ダメなら作り直せば良いだけだし。そんな感じで進めれば、少しずつ技術を蓄積させられる。「とにかく経験を積め」と、善右衛門には言っている。
善右衛門からヨットハーバーができたと連絡が来た。道順と小姓の藤林保正と木下藤吉郎、参謀の真田幸隆を連れてヨットハーバーに移動した。
ヨットの設計図を頭に浮かべながら『創造、ヨット、5艘』と念じる。
ヨットが海に5艘が浮かぶ。
重臣たちは、至高の匠スキルのことを知っているが、幸隆は始めてなのでびっくりしている。もちろん他家にスキルのことを知らせるのは厳禁だ。まあ他家に漏らしても誰も信じないだろうけどね。
志摩から呼んでおいた地頭達を藤吉郎に呼びに行かせる。地頭達は大急ぎで俺の前に集まり跪く。
「志摩衆は未来永劫海賊をやっていくのか?」
地頭達は少し怪訝な顔になっている。
「作物を植える土地がほとんどなく。我らは食うために海賊をやっております」
「俺が外国に行ける船を作ってやるから、外国との貿易を生業にしないか?」
「そんなありがたい話をいただけるのであれば。我ら志摩衆は北畠様にどこまでもついて行きます」と、全員が俺の前に土下座する。
「まあ待て。その前にお前らのやる気を試しておきたい」
「本格的な帆船操作の経験はないであろう。ならば南蛮船を操作しても沈没するのが関の山だ。この4人乗りのヨットを乗りこなしてみせろ。それができたなら南蛮船を作ってやる。ヨットを壊しても良いから思う存分頑張ってみろ。どうだ?」
海賊たちに、基本的な操作方法をマンガで説明する。字が読めない人にはマンガが一番だ。
「この帆船は帆に後ろから風を受けて前進する。それは当たり前なのだが、後で海に飛び込んで確認すれば良いが、船の下側に突起がある。帆をうまく操作すれば、その突起が働いてこんなふうにジグザクに走行しながら風上にも進めるのだ」
「面白いだろ。簡単には乗りこなせないと思うがやってみろ。乗りこなせるまでの間、お前達が寝泊まりする宿舎がいるだろうから、このヨットハーバーの脇に宿舎を作っておいたぞ!」
地頭達についてきた若い衆が目を輝かせて「ぜひやらせてください」と力強く返答する。
返答したかと思ったら、若い衆は猛然と走り出している。次々5艘のヨットに乗り込んでいる。試行錯誤の練習が始まる。頑張れよ海賊!
「ちょっと待て! 操船を誤れば転倒して海に落ちるぞ! 救助用の船を用意してから始めた方が良いと思うぞ」と、地頭達に伝える。前世での安全対策だな。
「海で溺れるような間抜けは海賊にはおりません」
そりゃ、ごもっともだ……
この分だと夏までには乗りこなせているのではないかな?
それにしてもこいつら褌に薄い羽織を羽織っているだけだが寒くはないのか!
若い衆はヨットに夢中なので地頭達だけを集める。
志摩の湾内でどこか波の穏やかな海岸を借りたいと依頼してみた。
「そこで何を作るかはまだ秘密だが、お互いの信頼関係が強固になれば、何を作っているかを知らせることができる」と伝える。
地頭達は北畠家と離れることは、もはや考えられなくなっており直ぐに了承する。
場所が決まったら北畠家の中でも、特に忠誠心の高い領民を選抜して移住してもらおう。その場所には最高の警戒網を作らせよう。道順に頼んでおけば間違いないだろう。
真珠の基本的な作り方は知っている。しかし彼らが作れるようになるまで、失敗を気にさせないようにじっくりと成功を待とう。
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