内政2
天文10年(1541年夏)10歳
今のうちに兵や将の個々の力を底上げしておきたい。
剣術や槍の指南役が欲しいところだ。
道順にその方面の才能なしと言われているから、俺には指南役は必要ないけどね。
柳生宗厳、後の石舟斎が、家臣になってくれたらうれしいな。
前世でも柳生新陰流にはすごく興味があり、仕事の都合がつくなら、柳生新陰流を習いに行きたかったぐらいだ。
宗厳のオヤジで大和国柳生荘領主の柳生家厳は、筒井家に負けて家臣になったばかりだからさすがに無理だろうな。
それより心配なことは、武術家というのは、我こそ武士の中の武士と思っている人が多いような気がすることだ。
「武士は良いけど忍びなんかはお断り」とか、平気で言われちゃうかもね。
いかん、いかん! 偏見を持ってはダメだ!
「殿! 冨田勢源と名乗る人が、殿にお会いしたいと参られております。冨田殿は小太刀を得物とする武芸者だそうです。客間にお通ししております」と、小姓の藤林 保正君が知らせてくれる。
道順に才能ありと言われた保正君には、小姓兼護衛として働いてもらっている。
俺は客間に向かう。
お〜、剣客が来た……小太刀良いじゃない……
我が軍には銃剣術が必要なのだ。
接近戦に持ち込まれたら、ライフル隊は逃げるしか手がないのは困る。
俺はライフルの先に取付けられる銃剣を、既にチーム村正に作ってもらっている。
銃剣が短い槍として使えれば、近接戦闘になっても少しは安心だ!
そういえば、真田幸隆が、今年の春ぐらいに武田家に信州から追い出されるはずだ。たしか上野の長野業正のところにお世話になっているぐらいの時期だと思う。
さっそくオヤジたちにお願いしてリクルート活動だ。なんたって真田家は子供に孫と次々優秀なのが生まれる素晴らしい家系だ!
きっと教育方法が良いのだろう。教育方法自体も貴重だよ。伝授願いたい!
いろいろ考えながら廊下を歩いていたら、保正から「殿! ニヤニヤして何をお考えですか?」と、言われて現実に戻る。
俺は上座に座るが、後ろには道順が控えている。
懐には拳銃を携帯ね。
俺の斜め前には、急遽呼び出された森可成と工藤祐長が座る。これで防衛体制は十分だ。
冨田勢源はなんといっても剣客だからね!
「冨田殿! 御用件を伺いましょう」
冨田の話も長い……山科のおっちゃんを思い出したわ。
……要点をまとめると……
小太刀を使う武芸を持って朝倉家に仕えていたが、最近になって少しずつ視界が白濁してきている。
このまま目の病気が進むと、剣術指南に影響が出ると考え剣術指南の職を辞した。
風の頼りに伊賀に万病を治すことのできる神童がいると聞き、藁をもつかむ気持ちで伊賀にやってきた。
私の目の病気は治るでしょうか?
……というとこだ……
「治せるかどうかは分からぬが、病が治ったら朝倉で剣術指南役に戻るのか?」
「もし治るのなら。我が剣術を北畠家のお役に立てさせていただいて、ご恩に報いたいと存じます」
森可成に冨田の脇差と剣を預かってもらった後で、俺は冨田に近づき彼の目を見る。
目の水晶体部分が白濁しているのが分かる。
「白内障の初期のようだ。このまま病状が進めば失明するだろう」と、冨田に伝える。
「やはり見えなくなりますか?」
「わざわざ伊勢まで来られたのだ。治してやろうか?」
「不治の病ではないのですか?」
「俺なら治せるかもしれぬ。もちろんダメな時もあるぞ。治らなくとも恨むなよ! 今からお主の目の近くに手を持っていくが動くなよ!」
手を冨田の目に近づける。
やがて俺の体から光が放出される。冨田は『何と心地の良い光』なんだろうと思う。ほんの数秒のことだったのだが、このままずっと浴びていたいくらい気持ちの良い暖かい光だと感じた。
「冨田、終わったぞ! 治っていると思うぞ。」
目を開けた富田は、今まで白く濁っていた視界がハッキリとしていることに驚く。
感極まったか思わず涙している。
剣客だからね、目は重要だ。気持ちは分かる。
この様子を見ていた森や工藤も驚きを隠せない!
神童とは聞いていたが、病気を治しているところを、初めて見ることができた。神のご加護を与えられたというのは本当だったのだな!
『戦をなくし。民を幸せにする。』と、神と約束したというのは絵空事ではないのだな!
このお方が神の使命を受けているなら、それをお助けすることは、我らにとってこれ以上の誉れはない! 良き主君に仕えることができたものだ!
富田も似たようなことを思っていた。
「富田、目だけでなく体の調子も良かろう。ついでに体の方も元気にしておいたぞ。早速だが我が軍の調練を見学してきてほしい」
「俺は、槍や刀、弓といった従来の軍編成に銃を加えたいと思っている。乱戦になった場合、銃兵も接近戦を戦えるように、銃剣というものを銃に着けさせるつもりにしている」
「そこでお主には刀や槍の指導だけでなく、銃剣術を新たに考案してほしい。我軍の銃兵を最強にしてほしいのだ。どうだ、出来るか?」
「もちろんで御座います。銃剣術の考案を喜んでさせていただきます。新たな武術の考案に携わるなど、今からワクワクが止まりませんぞ!」
「それと忍者による特殊部隊を創設してな……特殊部隊は城壁を登ったりするため、小太刀よりさらに短いナイフと呼ばれる武器を携帯させてしている……」
「そこで、近接戦闘に特化した体術として『ナイフ戦闘術』を考案してほしいのだ」
「なんと! この地に来たことを神に感謝しますぞ。両方ともぜひ私にやらせていただきたい」と冨田はやる気に満ちた表情で返事をしてくれる。
「屋敷を用意するので、その方の家族や一族郎党も呼寄せるがいいぞ」
もう柳生、いらないかな……
ライフル隊も特殊部隊もパワーアップだ。楽しみだ!
森や工藤も嬉しそうにしている。良い人材を手に入れることができた。
ナイフ戦闘術がどのようなものになるのか興味があるな。
俺も教わりたい!
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