伊勢平定の後1
天文9年(1540年夏)9歳
全く迷惑なこと言う奴がいるものだ。
アホ将軍の足利義晴の奴め!
言うに事欠いて伊勢を、幕府に寄越せとか言っているらしい。
どうも幕臣に伊勢の領地を与えたいみたいなのだ。
六角家なんかも「そうだそうだ。全くその通り!」と、追従しているみたいだ。幕府なんか存在感ゼロのくせに何を言ってやがる。
幕臣ってなに! 何かできることある?
幕臣とか名乗る偉そうな使者が上野城に何度も来ているらしい。
「そんな奴には『この狐憑きめ』と、叫んで足元に弾丸打ち込んでやれ」と俺が命令している。
幕臣と名乗るおかしな奴らは、門番から「この狐憑きめ」と、怒鳴られるとともに足元に弾を数発ブチ込まれる。このおかしな奴らは、テンプレのように「狐憑きではない。いったい何度言ったらわかるのだ!」と、言いながら飛び跳ねながら逃げ帰っている。
バカの相手は疲れるわ。俺もだんだんヤクザ病が伝染ってきたかな。
いかん! いかん! 上品にしないと嫁達に嫌われる。
幕臣と名乗る狐憑きがあまりに煩いので、将軍に宅急便を送ることにした。
『伊賀の新鮮な鶏』だよ! 首から上だけだけどね。
伊賀の腕利き忍者宅急便にとってみれば、将軍の警備なんかザル! アホ将軍が妾さんとスヤスヤお休みの枕元に、そっとおいてきてもらいました。
聞くところによると、明け方にバカ将軍の寝室から、最大級の悲鳴が聞こえたらしい。
「コケ、コッコー」と、言ったか言わなかったかは定かではないようだ。
そのまま鶏にでもなっていろ!
将軍は半狂乱になって失禁したまま気を失ったみたいだ。目を覚ましても部屋から一歩も出てこないそうだ。横で寝ていた妾のおねーさん、ごめんなさい。
悪いのはバカ将軍です。
まあ俺も朝起きた時に、新鮮な鳥さんの首が血まみれで並んでいたらびっくりするだろうな。でも失禁はしないよ。
『いつでもおまえの首チョンができるぞ!』が、分かってもらえたかな。
これでしばらくは静かにしているだろう。
幕府なんかこんなもんで良い。無視。無視。
俺が部屋でお茶を飲んで寛いでいると、道順がニコニコ顔で部屋に来る。
「どうした、うれしそうだな。いいことがあったの?」
「いや〜、色々ありまして!」
道順が勿体ぶって話し始める。
「幕府だか六角家のものだか分からない殺し屋たちが、10組も上野城の城下町をウロウロしておりまして……鬱陶しいから片っ端から返り討ちにしてやりました。伊賀に殺し屋を送るとは、チャンチャラおかしいですぞ!」
「俺を狙いにか? 時々城を出て領内の様子を見て回っているからな。その途中で襲いかかるつもりだったのだろう。酷い奴らだな! ご苦労さまでした」
「殿は有名人になりましたからな!」
「いや〜、それ程でもないぞ」
「返り討ちにしたのは、どれも腕の確かな武芸者でした。きっと幕府への仕官を鼻先にぶら下げられたのでしょう」
「武芸者と立ち会って大丈夫だったのか?」
「立ち会いなんかしませんよ。殿からいただいた拳銃で遠くからズドン! それで終わりです。どの武芸者も『卑怯な……』とか、言いますけどね」
「暗殺の方が卑怯に決まっているでしょう! それにしてもこの拳銃というのは優れものですな!」
「そうだろう! 引き金をひいておいて、こうしてこのレバーを手のひらで叩くと連射もできるのだぞ! 面白いだろ!」
「おお〜、面白いですな!」
「殺し屋を送っている間は、六角家も動かないだろうな! しかし幕府と六角家はしっかり見張らせておけ」
「六角家が動きますかな?」
「六角家が動いてもそんなに怖くはないぞ! 少し細工はいるがな。戦に勝っても六角家は残しておくつもりだ。六角家を残しておけば、公家や幕府の寺社に対する防波堤として役立つ!」
道順は思う……
この方と話していると、俺の方が年下なのではないかと錯覚する。2カ国の領主となったにも関わらず全く気負いがない。
自分で決めたやるべきことを淡々と実行されていく。
戦国時代は、いずれどこかの国に覇王が育ち、天下を統べていくのかもしれない。
しかし、儂はこの方が治める日の本が見てみたい。
この方といると本当に楽しいのだ。
俺を見てニヤニヤしないで欲しい。
不気味だぞ、道順!
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