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伊賀防衛戦2

天文9年(1540年夏)9歳


北畠家の約3000人の兵が青山峠に向かってきた。

こちらは街道に柵を設け、前衛にライフル隊その後ろに槍隊、爆弾クロスボウ隊は左右の山の斜面に配置する。北畠家は剣術の稽古が盛んな家、剣術の猛者が多い。


確か剣聖の塚原ナントカさんが時々指導に来るらしい。なんか羨ましいよな。でも伊賀には剣聖はいないが忍聖がいるからいいことにしとこう。それにこれからのいくさは銃と爆薬だ。


いくさというのは決してカッコ良いものではない。

「や〜や〜、我こそは……の生まれ……いざ尋常に勝負……」とかの口上を、長い時間かけて言い合う。満を持して代表する武将が、騎馬に乗って一騎討ち。その勝敗でいくさの勝敗が決まる。


そういういくさであるならば、お互いの武将が磨き上げてきた武術を披露する試合のようであり格好いいのかもしれない。


しかし銃が主力になってくれば、いかに安く早くたくさんの人を殺せるかに変わるだろう。安く早く殺すなんてカッコ良さなどどこにもない。人間の持つ非情な一面を見せつけられるだけだ。


やはり下らないいくさは、この国からさっさとなくさなくてはいけない!


大将である森可行の脇には、参謀の勘助が立っている。

勘助には、至高の匠スキルで作った望遠鏡を渡してある。

可行と勘助と忍び調査隊とで望遠鏡を交互に覗きながら、敵の大将と主な武将の顔を順に確認していく。


いくさで真っ先に首を刎ねるべきターゲット武将の確認作業だ。


「北畠軍の指揮は北畠晴具だ。息子の北畠具教は城で留守番のようだな」と、森可行が忍びに確認する。

そばに控える嫡男の森可成に「我らを家臣としてくださった若殿に、森家の働きを見せねばならぬ。可成よ! 初陣とか、言ってられないぞ!」と、発破をかけている。


「父上お任せください。ライフル隊で敵兵の突撃を止めた後は、我が郎党とともに槍隊で敵将の首を上げまくります」

「頼むぞ、わしはもう歳じゃ。このいくさが終われば、お前に森家の家督を譲るつもりだ」


「望遠鏡というものにて、敵将の田丸直政、鳥屋尾満栄、吉田兼房、家城之清、木造具康の顔はしっかりと確認いたしました。きっちり全員の首を取ってまいります」


敵陣の北畠晴具は、忍び相手のいくさなどに、身分高き自分が時間を費やしていることに苛立っている。


伊賀軍などは武士でもない下賎な忍者どもじゃ。それに比べて、我が北畠家は武士の家だ。剣や槍の達人も沢山いる。


農民兵で脅かして、武術を極めた武将達で切り込めば、こんな奴ら一目散に逃げ出すに違いないわ。


伊賀軍を侮りきっているのだ。


床に頭を擦り付け、何をされても文句も言えなかったうじ虫どもじゃ。

片っ端から斬り殺してやればいい。周りを固める武将たちも同じことを考えている。


本来戦いくさ前には、両軍の大将による『いくさ口上』がある。

しかし北畠晴具はこんな下賎な奴らにそんなものは不要とばかりに、伊賀軍が見えた途端に「蹴散らせ」と、いきなり総攻めを命じる。


「ウオー! ウオー! ウオー!」

北畠軍3000人が手柄を競うように、伊賀軍の柵の手前300mあたりのところまで突進して来る。その瞬間、勘助の合図でライフル隊800人が射撃を開始だ。


「ダーン! ダーン! ダーン!」

火縄銃と違いレバー操作で次弾を装填できるため、ものすごい弾幕が出現する。


バタバタと北畠兵が倒れていく。

しかし武将に刀で脅され、必死の形相となりさらに200mぐらい手前まで農民兵が前進してくる。


ここからはライフルによる一発必中の殺しの間となる。

銃弾は北畠家軍の鎧を貫く。100m以内に近づける兵は皆無である。


「いよいよ始まったな。こんなたくさんの兵を儂が指揮できるとは。武士の本懐よ」

森可成は軽く武者震いをしながら郎党に檄を飛ばす。

「良いか! 無様ないくさをしたら森家の恥だぞ!」


森家の勢いに負けることなく。工藤昌祐も郎党に「工藤家の力を見せよ! 森家に負けるでないぞ!」と、大声で激励を飛ばす。

工藤祐長も率いる郎党に「命を賭けるときは今ぞ!」と、士気を高めている。


ライフル隊の後方には、森家と工藤家がそれぞれ槍隊を率いて整列している。

森可成と工藤昌祐は、次々と北畠軍がライフル射撃で葬られていくのを眺めている。


2人とも、勝機はここだと思った。


それぞれが率いる槍隊に「回り込め」と、命令する。

右翼方面には森家が、左翼方面には工藤家が槍隊を率いて前進する。

爆弾クロスボウ隊も、北畠兵を左右から挟み込むように、斜面の茂みを密かに前進する。


ライフル隊の手前150mぐらいまで、必死に突撃して来た農民兵だが、死の恐怖で前進が止まってしまう。


指揮する武将は兵達を怒鳴り散らす。しかし脅しても怒鳴っても進まぬ兵に、武将達は前進を諦める。


一旦、体制を立て直すべく後退して行く。


しかしどこまで下がっても弾が届く、農民兵達は怯えて身を寄せ合うように固まっている。結果、弾丸の集弾が悪くなっても命中率は高くなる。


仕方なく農民兵たちは盾を何枚も重ね、その後ろに隠れている。農民兵はもうすでにやる気を失っているのだ。早く家に帰りたいのだ!


しかし武将たちから突撃の合図が出れば、再び前進せねば切り殺される。盾の後ろで怖くてひたすら震えている。


密かに斜面の茂みを進み、敵本陣に矢が届くまで前進した爆弾クロスボウ隊から、鏃部分に榴弾を装着させた矢が敵本陣目掛けて放たれる。200本の榴弾が弧を描いて北畠晴具に向けて打ち込まれる。


「ズドーン! ズドーン! ズドーン!」


北畠軍本体は潰走し始める。

勘助により、伊賀軍の槍隊に向けて、追撃を命じる太鼓が鳴らされる。総掛かりだ。


森可成は「槍隊は総攻撃に移れ」と、大声で命じる。

工藤軍も槍隊の攻撃に入っている。どちらも手柄を競っている。


これでいくさは決まった。潰走する北畠軍を追いかける伊賀軍の槍部隊!

森部隊と工藤部隊それぞれが、既に3人の武将の首を上げている。


ここで無情にも日が暮れてきた。南伊勢の敵領地まで追撃してきたが、暗い中で兵を進ませるのは無謀だ。


参謀の勘助から森部隊と工藤部隊に兵を一旦まとめ、野営の準備をするよう伝令が来る。明朝未明に追撃開始だ。


報告によると北畠晴具は爆発でバラバラになっていたそうである。

ボロボロの首が大将である森可行に届けられたのである。







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