伊賀防衛戦1
天文9年(1540年夏)9歳
俺は仮住まいの屋敷から本丸に住まいを移し、家族とともに暮らしている。見晴らしの良い天守に住もうかと思ったが不便なのでやめた。エレベータがあれば天守でも良いのだが……
そろそろ来るかと思っていたら、北畠家と長野家、関家を見張らせている忍びからの緊急連絡がくる。北畠軍が霧山城を出陣した。またそれに合わせて長野家と関家も出陣したようだ。
来るべき時が来た!
俺は丹田に力を込める。
各方面に軍令を発し、上野城に伊賀軍を総員集合させる。
天守前に4500人の兵が整列している。これが今持っている力の全てだ。
逆にいえば、彼らが敗れれば俺も家族も、皆が死ぬことになるだろう。
俺の後ろには、家族が不安そうに立っている。
前世の軍隊に似せた行進練習をさせているので、行進が実にキビキビしていて壮観だ。
「総員止まれ。かしら……前」の号令で、整列した兵達が一斉に俺の方に注目する。
俺の言葉を期待している。
俺は用意させておいた、大きなラッパ型の拡声器のところに移動する。
そして腹に力を入れて大きく息を吸い込む。
「伊賀の勇士たちよ。これから伊賀国。いや我らの大事な家族を守るための戦いを始める。北畠家の奴らは豊かになった伊賀に攻め込もうとしている。君たちの生活が、家族が、蹂躙されるぞ! 家族が奴隷にされるぞ! この伊賀の地は大きな危機にある。奮起せよ! 勇気を奮い起こせ!」
兵達の表情が強張る。
まだまだ……この演説に惹きつけ、士気をMAXにしないといけない。
兵士たちが俺の次の言葉を期待し、ザワザワが静かになるまで待つ。
「伊賀の勇敢なる兵よ。伊賀には神の加護があるのだ。だから負けはしない! この伊賀の地を守るため。自分の家族を守るため。命を賭けてくれ! 卑劣なる北畠家を滅ぼすぞ!」とアジる。
俺は敬礼のポーズをとる。
「うお〜! うお〜! 伊賀を守るぞ! 家族を守るぞ!」
暫くして天に届くかと思われる大歓声が起こる。
敬礼の意味はわからないと思うが、特に違和感はないと思う。
俺もこういう時にどういうポーズが良いのか判らない。
でもまあ、神童ならそういうものだと思ってくれるはずだ。
俺の後ろに立つ家族達も感動して、少し涙ぐんでいる。
伊賀は大名達に奴隷扱いされてきた歴史があるから、いろいろ思うところがあると思う。
士気は高めるだけ高めたつもりだ。後は大太鼓を連打させて、兵士たちを見送るだけだ。頑張ってくれよ。頼むぞ!
指揮官となる侍大将は馬に乗り号令を発する。その後を兵が長い列を成して続いて行き、最後に輜重隊がそれを追いかけていく。
現代人の俺としては、『戦にはあまり関わりたくない』というのが本音だ。
その理由は俺の命令で大量殺人が行われることに、自身の心が耐えられるかどうかが心配なのだ。初体験だしね。
大丈夫か俺! ノイローゼにならないでくれよ。
とにかくこの一戦で、伊賀軍が強いことを近隣のクソ大名に示さないといけない。
ちょっとでも弱いところを示せば、次々伊賀に噛み付いてくるからね。
戦の責任者として俺も戦場に行くつもりだったのだが、オヤジたちや家臣一同から大反対された。仕方なく留守番である。俺が死んだら全て終わるからだそうだ。
桔梗と桜と母上は震える手で俺の手を握っている。
「伊賀軍は絶対負けないから安心しろ。勝って笑顔で帰ってくる兵たちを迎える準備でも考えておけ」と心配する家族を励ます。
握られている俺の手が震えないか心配だった。
この人たちは俺が絶対に守らねばという気持ちが、戦で人を殺すことに対する忌避感を薄めていく。
そうだ殺らなければ殺られるのだ!
とんでもない世界に放り込まれたものだ!
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