十字軍2
さっそく防衛の準備に取り掛かる。リスボンから食料を運び入れ。迫撃砲を精度良く攻撃するため、要塞からの距離を計測して予め目印をいくつも立てておく。当然要塞の中に住居も作る。細かい造作はメキシコから連れてきた黒鍬建設にやらせた。
防衛準備が整った頃「教皇が俺のことを悪魔認定した」という噂が伝えられる。
とうとう俺は『悪魔』にされてしまいました!
気が滅入るよな。
宗教を権力闘争に使わない方がいい! 天罰が下るよ! 俺からね!
マリアは悪魔に魂を売った魔女なのだそうだ。ポルトガル王室は悪魔に取り憑かれた呪われた王室となったというそうだ。悪魔《俺》と魔女を公開火炙りにして、魂の浄化をするという。
もちろん、そんな痛そうなことは、絶対にお断りする!
怖いこと考えるよね。まったく!
子供たちをベルクルス城で留守番させておいて良かったよ。
そんな話を聞いたら泣いちゃうよ!
教皇が、ポルトガルを除くヨーロッパの王たちに、悪魔《俺》と魔女を殺せと呼びかけ続けている。その結果、ヨーロッパ各地から約50万人以上の兵がマドリードに集まって来たそうだ。
俺を倒せば新大陸が手に入る! 強力な武器も手に入る! それを手にすれば、世界の覇者になれると考えているのだろう。教皇の呼びかけだけで集まったのではないな!
……フェリペ2世……
マドリードの城では、フェリペ2世が集まった兵を眺めて悦に入っている。
この大軍を集めたのは私だ。イスパニア史上最高の王は私だな! 集まった兵の数がそれを証明している。
見ろ! この兵の数! 王都は見渡す限り、隙間もなく、集まった兵で溢れているのだ。
王都に約50万人もの兵が集まれば、兵を相手に一儲けしようとする者たちも次々と集まって来る。臨時の色街も形成される。マドリードの人口が一時的に何倍も膨れ上がる。
しかし、衛生状況はどんどん悪くなっていくのだ。
街は一時的に食糧不足となる。糞尿の処理だって、まったく間に合わない。調理に使う水も不衛生な水が使われることになる。兵が早く街から出ていけば良かったのだが、各国の王が戦後の分配や国境線を必死で議論しているのだ。
そこに教皇までも加わる。まとまる気配がない。
やがて街の貧民街から疫病が発生してしまうのだ! ネズミを媒体にして王都中に疫病が蔓延するのに時間は掛からなかった。
ラ・ペステ・ネグラが発生したのだ。
密集して過ごす兵たちは次々に感染する。最初は食中毒が疑われたが、ラ・ペステ・ネグラで間違いないことが判明する。王も将も兵も、集まった商人たちも、一斉に街の外に逃げ出すのだ。
もはや戦争どころではない。病気を伝染されたくない兵たちは、我先に国に帰っていく。それが感染のさらなる拡大に繋がる。ラ・ペステ・ネグラが、マドリードからヨーロッパ中に広がっていくのだ。兵が帰国したせいで、島国のイングランドにも伝染していく。
ヨーロッパ中がラ・ペステ・ネグラに感染しどうにもならなくなる。次々と人が亡くなっていく。
どう誤魔化しても、ラ・ペステ・ネグラの原因は、教皇の呼びかけである十字軍なのだ。ヨーロッパ中の民が教会に不満を抱く。教皇は対応策を必死に考える。
そこでラ・ペステ・ネグラは、ポルトガル王室に取り付いた悪魔のせいだという声明を教皇が発表する。いい加減なものだ。都合が良過ぎる。しかし声明を発表した直後、教皇だけでなく教会幹部もラ・ペステ・ネグラに感染してしまう。
俺たちは、カディス港に作った要塞で敵の襲来に備えている。しかし十字軍の大軍は来ない。マドリードでラ・ペステ・ネグラが発生し、十字軍が解散したことを知る。
当分の間は、カディス要塞が侵攻されることはないと判断し、要塞をオヤジたちに任せ、俺はサン・ジョルジェ城に戻ることにしたのだ。
……サン・ジョルジェ城……
『豊穣神という神様の加護を受けた医師がラ・ペステ・ネグラの治療薬を作り出したそうだ! その証拠にポルトガルでは、ラ・ペステ・ネグラの患者が1人もいないというではないか。医聖がいるのだ!』という噂がヨーロッパ中を駆け巡る。
ラ・ペステ・ネグラで、家族が、友人が次々死んでいくのだ。誰もがその噂に一縷の望みを託したくなる。
ラ・ペステ・ネグラに感染したくない王族たちや大貴族たちが、藁をも掴む気持ちで使者をリスボンに送ってくる。
そんな中、何と我らを悪魔扱いした教会からも使者がやってくる。
『治療薬があるのなら、教会に無償で薬を提供するべきではないか! 無償で提供するのであれば、豊穣神は悪魔ではなくキリストの使徒であると、教皇から公式な声明を出してやろうではないか』と偉そうに口上を述べる。
話にならないので俺は無視した。隣に座っているジョアン3世も呆れている。開いた口が塞がらないのだ。娘は魔女! ポルトガル王室は悪魔に取り憑かれた呪われた王室とまで宣言されたのだぞ! 当然だろう!
「使者はお帰りだ!」とジョアン3世。
「ポルトガルに神罰が下るぞ!」と使者が叫ぶ。
「神罰が下ったのは教会だろ」とジョアン3世。
「やはり悪魔に取り憑かれておるわ!」
ハイハイ! 分かったから、さっさと帰ってほしい。
これからいろいろな国の使者に会わないといけないからな。ヨーロッパの複雑な人間関係を知らない俺は、横に座っているだけにしている。使者の対応はジョアン3世に任せている。
治療薬を渡す条件は、ジョアン3世王に予め伝えている。
条件は『1.日本およびポルトガルとの恒久的な和平条約を結ぶこと。2.奴隷制度の廃止すること。3.日本の許可なくアメリカ大陸および東南アジアに入らないこと』の3つだ。加えて、治療を行うにあたっては、その国の王太子または王女が人質として、サン・ジョルジェ城に滞在するとした。
フランスからの使者については、ドアの隙間からサラとルイーズに覗いてもらった。どういう者が派遣されて来たのか確認したいと要望されたからだ。サラやルイーズを殺そうとした貴族でも、自分たちの親族や友人でもないらしい。
取り敢えず良かった。
交渉が全部終わるのに、5日もかかったがジョアン3世王が頑張ってくれた。さすがにラ・ペステ・ネグラで国が滅びそうなのだ。ヨーロッパの国々全てが条件を受け入れ、交渉を成立させることができたのだ。
もちろんラ・ペステ・ネグラが収束してくれば、何を言い出すかわからないけどね。
ラ・ペステ・ネグラの一件で、キリスト教会の権威は著しく弱まる。キリスト教から豊穣神に乗り換える信徒が急激に増えていく。現世でのご利益は最強なのだよ。俺は、豊穣神教の教皇的な扱いになっている。
リスボンは神の使いが降り立った聖地となったのだ!
俺の扱いが変なことになったけど、ヨーロッパの国々と最後の最後まで死闘を繰り返す必要がなくなったのだ。
奴隷制度についてだが、奴隷制度に反対する人たちが意外に多くいたのだ。まともな人がたくさんいてくれて助かった。彼らがヨーロッパにおける奴隷制度の廃止に大いに協力してくれている。
あいかわらず俺には、刺客が次々と送り込まれる。
しかし、伝説の上忍たちが守っているのだ。全く問題なしだ。
この後の問題は、広がり過ぎた日本の領土だ。昔から広い領土を有する国がそのまま継続したことはない。
きっとどこかで、分裂するのだろうけどね。
100年くらい平和が続いてほしい。
さすがにもういいよね。良く頑張った俺!
この後は、いろんな民族で忍びを養成して世界中央情報局でも作るか。
それで、俺の任務も完了にしてくれないかな。
あれ? 豊穣神様から返事がない!
いつもなら、絶対何か言ってくるはずだけどな……
どうしたのかな? おかしいな!
もうこれ以上の厄介事はごめんだぞ!
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