ポルトガル奪還5
大声がしている方向を見る。
護衛の兵士1500人が大司祭たちを通さないように頑張っているようだ。街の住民たちが一緒になって騒ぎ立てている。兵士たちはやり辛そうだ。
「ジョアン3世殿、いかがしますか?」
「私が、街の住民を宥めてきましょう」
我らがそのような事を話している間に、街の住民たちに押し切られ、大司教と防衛兵300人がこちらに近づいてくる。
大司祭め! 自分のために信者を利用するのか! 日本でも同じ様なことがあったな。国が変わっても、権力志向の者はやることが同じだ!
防御態勢をとっている特殊部隊200人がライフル銃を構える。俺の合図で、いつでも攻撃する体制となる。
「大司教! 何の用だ! 無礼だぞ!」
「ジョアン3世様! 先程説明した通りです。ここにいる異教徒の兵を捕まえます。後ろにいる王の兵にも、この者たちを捕まえるようにご命令ください!」
「何を言うか! 教会に戻れ!」
「良いのですか! 教会から破門されてしまいますぞ!」
「破門したければ、破門すればいい! 国を救ってくれた者たちに失礼ではないか! もう一度言う! 教会に戻れ! さもなくば、1500人の兵にその方たちを攻撃させるぞ」
「私が連れてきた街の住民たちが見えません? 教会に手を出せば、彼らは暴動を起こしますぞ。暴動が起きれば、さらに多くの住民集まってきますぞ! 民あっての王ではありませんか。既に住民と兵たちが争い始めましたぞ。怪我人も出ているでしょう。どうするのです? ホホホ」
「何があっても、国を救ってくれた者たちに手出しはさせない!」
「異教徒の兵は200人程度だ。おまえたち300人のより少ない! この異教徒たちを捕らえよ。手に余れば始末して良いぞ!」
「ジョアン3世王! 教会の兵300人を始末してよろしいですか?」
「お恥ずかしいところをお見せした。申し訳ない。ご存分にどうぞ」
「特殊部隊! 始末せよ!」
特殊部隊が、構えたライフル銃の引き金を引く。
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
先頭の兵50人が瞬時に始末される。
しかし兵は怯んではいない。火縄銃は連射できないことを知っているのだ。
こちらに対して、攻撃態勢に入ろうとしている。
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
兵がまた倒される。なぜ連射できるのだ! 防衛兵が驚いた表情になる。
既に逃げ出すことしか考えていない。
「教会の者を撃つつもりか! 天罰が下るぞ!」
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
特殊部隊には大司祭が何を言っているか分からない。たとえ分かったとしても、躊躇わず銃を撃つ。彼らにとっては玄武の方が大事なのである。
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
大司祭も兵も誰も立っていない。全員が始末される。
連続した大きな銃声音に、騒いでいた街の住民も静かになる。
住民が驚いた表情でこちらを見つめている。それはそうだ。教会の人間を躊躇わず始末したのだ。教会とともに行動すれば、手出しされることはないと安心していたのかもしれない。
『殺されてしまう』という恐怖が住民の心を支配する。立ったまま動けない。誰も声を出せない。
「住民の代表を連れてこい。王の命令だ! 逆らえば殺しても構わない」
「すぐに連れてきます」
住民の代表らしきものが連れて来られる。代表は王の前で震えている。
「ここにいる者たちは、我が国をイスパニアから助けてくれた者たちだ。お前たちは、その恩人に何をしようというのだ?」
「大司祭様に『王が異教徒に港から連れ去られようとしている。王を救え!』と言われたのです。私たちは王を助けにやって来たのです! いったいどういうことなのでしょうか?」
「もう一度言う! この方たちはポルトガルをイスパニアから救ってくれたのだ。大司祭は、この恩人たちを捕まえて、彼らの船や武器を取ろうとしたのだ。強盗と同じ事をしようとしていたのだ」
「そうだったのですか。我らはどうしたらいいのでしょう! 大変申し訳ありませんでした。騙されて集められた住民たちをすぐに解散させます。しかし何人かの住民は怪我をしてしました。住民たちの中には、大怪我で動かせない者もいます」
「ジョアン3世様! 怪我人の所に行きましょう。私が治します。住民の代表は先に行って、我らが敵でないことを皆に説明してほしい」
住民の代表は何度も頭を下げながら、住民のところに走っていく。
俺の周りを特殊部隊が囲む形で、住民のところに移動する。
怪我人が10人くらい道路に寝かされている。銃の着剣で腹を突かれた者もいるようだ。
「怪我人を治療します。皆さんは少し後ろに下がってください」
住民たちは後ろに3mくらい下がり、怪我人と俺を取り囲むように成り行きを眺めている。怪我人たちを心配しながらも、今から何が起こるのか興味津々となっている。
腹を刺された者は助からないと誰もが思っている。
住民だけでなく、ジョアン3世、マリア、エステヴァン、解放軍の兵も、いったいこの異国の者が何をしようとしているのか、食い入るように見つめているのだ。
俺は住民たちが見ている中で、並べられた患者を順番に治癒スキルで治していく。患部に手を当てると、手から光が溢れてくる。刺された腹が元に戻っていくのだ。
住民には、奇跡の光景に見えるだろう。
「神の奇跡だ! 奇跡が起こった! この人は神なのだ!」
治療の様子を見たすべての者たちが跪いた。
手を組んで祈っているものもいる。
ジョアン3世、マリア、エステヴァン、解放軍の兵の全てが跪いている。
「奇跡を見ましたか! 豊穣神様の加護の力なのです! この方は豊穣神様から遣わされた神の力を持つお方なのです。豊穣神様の加護の力により我が国は救われたのですよ!」
マリアが立ち上り、大声で何度も叫ぶ。
奇跡に感動し、涙を流す住民たちもいる。
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