ポルトガル奪還1
そろそろ、リスポンに殴り込みをかけるか。
イスパニアとやり合うのだ。迫撃砲や大型銃といった強力な兵器があった方がいいに決まっている。それらの兵器をポルトガル解放軍に貸し出すかどうか検討したが、まだ止めておく。
やはり何が起こるか分からない状況で、強力な兵器を大量に貸し出すことは危険と判断したのだ。王直やグアナにだって貸出しているのは散弾銃だけだからね。
したがって、蝦夷丸は出撃しないといけない。当然ながら武器庫でもある俺も蝦夷丸に乗船することになる。ただし蝦夷丸の出撃については問題がある。出撃可能な蝦夷丸の数が制限されることだ。
ポルトガルはキスケーヤから約6000kmも離れている。石炭をなるべく節約して航行しても、リスボンに到着した頃には石炭がかなり減っているはずなのだ。1回か2回ぐらいの海戦はいいだろうが、それ以上となると難しいだろう。
蒸気機関などない時代だ。リスボンに石炭がストックされているはずがない。つまり現地で石炭補給がすぐにできないのだ。そこでポルトガル解放軍の30隻の艦隊に、できる限り石炭を積んでもらうことにしたのだ。
できる限りといっても、大量の食料と水を積載した後の空きスペースに少し積んでもらう感じになる。もちろん船の安定は少し悪くなる。もちろん蝦夷丸の空きスペースにも石炭を積み込む。という訳で、出撃する蝦夷丸は3隻に留めることにした。
ベルクルスでの訓練を終えたポルトガル兵3000人が、30隻の艦隊に乗り込み出港していく。10日遅れて蝦夷丸も出港する。船速が違うため、アゾレス諸島で待ち合わせることにしている。
アゾレス諸島はまだポルトガル領であり、イスパニアのポルトガル侵攻の影響をまだ受けていないのだ。我らは無事にアゾレス諸島で合流に成功した。現在は島で休養を取っている。
いきなりリスポンに殴り込みをかけても、我らは多勢に無勢となる。リスボンから船と兵を減らしておかないといけない。オスマン帝国との約束が生きてくるのだ。
つまり我らは、出港のタイミングを計っている。
予めオスマン帝国とは、リスポン殴り込みについての打ち合わせを済ませている。
その作戦に沿って「イスパニアのカディス港にオスマン帝国が攻め込むらしい」という噂を、イスパニアの商人に流してくれているはずだ。
その情報が伝われば、イスパニアはカディス港の防衛体制の強化を図ろうとするはずだ。
しかし噂だけでは、リスボンから兵と船はあまり減らないだろう。
そこで、オスマン帝国の地中海艦隊を、カディス港に向かって実際に航行させてもらうのだ。ただしその艦隊でイスパニアと海戦してほしいとはお願いはしていない。
オスマン帝国の地中海艦隊が動き始めたという情報が伝われば、イスパニア本国の兵は当然だが、ポルトガルに駐留させている兵と艦隊をカディス港に向かわせるはずだ。現在は、兵と船を移動させ始めたところあたりだろう。
なぜリスボンから兵を動かすかといえば、リスボンとカディス港は近いからだ! ポルトガル駐留艦隊に兵を乗せて運べば、すぐに防衛配備が可能なのだ。
それに、イベリア半島は過去にイスラム勢力に占領されていた期間がある。オスマン帝国の動きに対して、イスパニアは過剰に反応するはずなのだ。カディス港は兵と艦隊で満タンになるだろう。
という訳で、オスマン帝国の地中海艦隊はゆっくりとカディス港に向かってくれればいいのだ。彼らはカディス港が近づけば引き返すはずなので、我らはその間にやるべきことを急いでやってしまう必要があるのだ。
さあ、明日早朝にリスボンに向けて出発しよう。それでタイミングは丁度いいだろう。
蝦夷丸の旗艦にはマリア、サラ、千代女が乗り込んでいる。千代女はサラの護衛をしたいそうだ。サラと千代女の子供は他の妻たちが世話をする。子供たちはもう5歳だ。大丈夫だろう。そして護衛の藤林保正、いつものようにヨーロッパをどうしても見てみたいオヤジたち、それと特殊部隊の精鋭300人が乗り込んでいる。
ちなみに今回の作戦に先立ち、マリアは俺の妻になっている。
この状況ではそうするしかないだろうな。結局、妻が増えてしまった。さすがにこれで最後にしてほしい。
オヤジたちは「また増えたな!」と面白がっている。
天文23年(1554年冬)23歳
夜明けとともに、港湾都市リスボンを目指しテージョ川を遡っていく。攻撃目標は、進行方向左岸の丘に建つサン・ジョルジェ城だ。できるだけ岸に近づき、迫撃砲で城を攻撃する。攻撃というより破壊か!
だがモタモタしていれば、せっかくオスマン帝国が引き離してくれたイスパニアの大艦隊が戻って来てしまう。短期決戦で勝負を決めるぞ!
「マリア! サン・ジョルジェ城の攻撃を始める! その攻撃で、王は死ぬかもしれない! 済まないが、覚悟しておいてくれ」
「覚悟しております! 国を取り返すためです! ジョアン3世王! お許しください!」
マリアが神に祈っている。キリスト様ではなく豊穣神様の方だけどね。
彼女も改宗したみたいだ。
「定隆! ポルトガル解放艦隊に上陸を開始と伝えろ! 特殊部隊50人も迫撃砲を積んで上陸だ!」
「了解です! 各艦隊に連絡!」
サン・ジョルジェ城侵攻作戦については、事前に打ち合わせ済みだ。
迫撃砲を海岸に設置すること砲撃精度を上げる。できれば住民が住んでいる街を、あまり破壊しないで済むようにしたいのだ。
短艇に乗り込み、ポルトガル解放軍と特殊部隊が海岸を目指していく。
ポルトガル解放軍が先に上陸し、迫撃砲と特殊部隊を守る形で軍を展開していく。特殊部隊はポルトガル解放軍に守られながら迫撃砲10門を海岸に設置していく。城までの距離を測ればいつでも砲撃を始めることができるのだ。
……海岸 服部保長……
「準備が完了すれば、すぐに砲撃を開始せよ」
「保長様! 準備完了です。これまで山城の破壊は何度もやってきています。お任せください!」
「なるべく砲弾を市街地には落とすなよ。だが、なるべくでいい。城を早く破壊することを優先するぞ」
「了解しました! 発射します」
迫撃砲10門から10発の砲弾が飛んでいく。
トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン!
「次々撃て!」
トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン!
トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン!
……エステヴァン・ダ・ガマ……
迫撃砲を守るように解放軍を展開した。イスパニア兵はここにやって来るだろうか? サン・ジョルジェ城の方から、凄い爆発音が連続して聞こえてくる。
あの……サン・ジョルジェ城が……破壊されていく……
城の中はどうなっているのだろう! 中の敵兵たちは、訳も分からず立ち竦んでいるのだろうな! あるいは神に祈りながら逃げ回っているのだろうな!
どうもここには、兵がやってきそうにないな! 特殊部隊に伝えて、城に向かうことにしよう。我らはポルトガルの旗を立てて坂を登っていくことにしよう! 街の住民たちは我らを歓迎してくれるだろうか?
住民たちに攻撃されないと信じたい。
「4小隊が先行し、城まで移動せよ。少し遅れて、全軍がその後ろを追いかける。城まで一気に駆け上るぞ!」
「オォー!」
解放軍全員がうれしそうに答えてくれる。
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