ポルトガルの新たな使者1
……マリア・デ・ポルトガル……
サラ様は、大執政官様は豊穣神様の使いだという。
玄武様は、イングランドで大昔の伝説になっているアーサー王みたいなものかしら! 確かアーサー王は聖剣エクスカリバーを持ち、湖の精霊から加護の力をもらったと本で読んだ。
玄武様は、すごい方なのだと思う。
そんな方が率いる軍勢に、ポルトガルやイスパニアの軍が勝てるはずがない! このことを早くポルトガルの者たちに伝えたい。ポルトガルは救われるかもしれない。
大執政官様の力をお借りすることができれば、ポルトガルをイスパニアから取り返すなど、簡単なことかもしれない!
だけど最初にお会いした時に「日本を利用して、ポルトガル国を奪還しようと考えないでほしい」と念を押されている。いったい、どうすればいいのかしら! サラ様のように、私が大執政官様の妻になるのはどうかしら?
それはダメだわ! 日本を利用しようとしていることが玄武様に伝われば、この国で新たな暮らしを始めようとしている者たちに迷惑をかけることになる。正直にサラ様に相談してみよう。ダメならしかたがない。諦めるしかないわ。
……サラ……
マリア様から、ポルトガル国の奪還について相談された。気持ちは十分に分かる。しかし大執政官様にお考えを聞いてみたところ「日本の兵に、ポルトガルのために命を懸けろとは言えない」というお考えだった。私もその通りだと思う。
何か良い方法はないかしら?
……工藤祐長……
またもガレオン船の船団がやってきた。今度は30隻もいる。
ポルトガルの旗と白旗を両方掲げた使者が、短艇に乗ってやって来る。マリア王女を庇護したことと関係があるのだろうか? 部下たちも気になるようだ。取り敢えず要塞の入口で話をすることにした。
使者は4人のようだ。通訳ペンダントを預かっていて良かった。メキシコの玄関口であるベルクルス港の責任者は、このペンダントが絶対に必須だと思う。
「それ以上は近づかないでほしい。お互いのためだ。そちらの言葉は分かる! ポルトガルの使者ということでいいのかな?」
「そうです。私はエステヴァン・ダ・ガマという。ポルトガルのインド艦隊の提督をしている」
「要件は何だろうか!」
「我らには、この港を攻撃する意図はない。お聞ききしたいことがあってここに来たのだ。マリア・デ・ポルトガル王女様がこちらを訪ねて来なかっただろうか?」
「なぜ王女を探しているのでしょうか?」
「インドから艦隊を率いてポルトガル本国に戻ったところ、我が国がイスパニアに占領されたことが分かったのだ。王を救い出そうと思ったのだが。艦隊の兵力だけではどうにもならないと諦めたのだ」
「偵察に行った者たちが、街の住民たち数名から話を聞いてきた。王族ではマリア王女様1人だけが、ポルトガルを脱出できたというのだ。王女が逃げ延びる場所はそんなにない。ブラジルかとも思ったのだが、敵の敵である日本も十分あり得ると考えた訳だ。ここに王女様は来ていないだろうか」
「王女がここにいたとして、どうするつもりなのだ?」
「王女様が望むなら、インドかブラジルにお連れしようかと思っている」
「イスパニアから言われて、王女を捕まえに来たのではないのか?」
「神に誓って嘘はついていない」
「分かりました。宮殿にお連れしましょう。ただしあなた1人だけにしてもらえますか。そして武器は我らに預けてください。ここに残る3名は、短艇でお待ちください」
……宮殿謁見の間……
「日本国大執政官である。あなた方はイスパニアから言われて、王女を捕まえに来たのではないのだな?」
「神に誓って嘘はありません」
「分かった。王女を呼んできてくれ」
ルーシーが侍女とともにやってくる。
「おお〜! 王女様、ご無事でしたか!」
「久しぶりですね。エステヴァン! ポルトガルの状況を教えてくれませんか」
「我らは王に呼ばれて、インドからリスボンの港に向かっていました。無事リスボンの港に到着したのですが、港の様子がどこかおかしいので、いったん港を離れました。夜を待って、偵察隊を街に向かわせたのです」
「戻ってきた偵察隊の報告によると、リスボンの街は戦争で燃やされた建物がいくつもあったそうです。偵察隊は、複数の住民に王都で何が起こったのか聞いて回りました。彼らが聞いてきた話によれば……王女様たちとは別に、ジョアン・マヌエル、ポルトガル王太子様たちも港に逃げてきたそうです」
「王女を逃がすためか、王太子はわざと目立つように港でイスパニア兵に戦いを挑んでいたらしいです。しかし残念ながら、王太子様は戦死されたそうです。我らは王太子様の意を汲み、王女様を保護しようとベルクルス港にやってきたのです」
王太子が自分を逃がすために死んだと聞き、マリアは涙が止まらない。
「マリア王女! これからどうする? いや! どうしたいのだ?」
「どうしたいと聞かれれば、何としてもポルトガルを取り戻したいです」
「エステヴァン・ダ・ガマ殿はどうしたいのだ?」
「王女様の考えに従うのみです」
「私は民を幸せにするために行動している。民というのは王や貴族などの権力者ではない。したがって奴隷制度により、富を搾取する国を助けようとは思わない。マリア王女に聞きたい。あなたは奴隷制度に反対するといわれたが、30隻の艦隊に乗船している者たちはそう思っていないのではないですか?」
「私がお答えしてもよろしいですか?」
「いいぞ」
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