大海戦1
「定隆、蝦夷丸艦隊はベルクルス沖を大きく回り込み、連合艦隊から見えないところで待機する。砲撃の音で戦闘の様子を判断、それに合わせた行動をとるぞ」
「了解です! 各艦に連絡!」
「この辺りだと、敵からは見えないはずです」
「大砲の音がするまでは動くなよ! 大砲の音がしなくなったら兵が上陸し始めるはずだ。それまでは待ちだ」
……連合艦隊 ポルトガル軍提督……
我が国の王は……イスパニアの王といったいどういう約束をしたのか? 我が国は、あの忌々しい日本艦隊に東南アジアから追い出されてしまっているのだぞ! こんなところで、40隻もの艦隊を遊ばせておく余裕などないはずだ!
日本の奴らをそのままにしておけば、いずれ奴らは、インドの港に侵攻してくるのは間違いない! この艦隊はインド方面に向かわせるべきなのだ! 日本の艦隊は悪魔のように強い。これまでに何隻の艦が沈められていると思っているのだ。
とにかくあんな小さな要塞など、イスパニアだけでさっさと片付ければいいではないか! さっさと自分たちで砲撃を始めればいいのだ!
……連合艦隊 イスパニア軍提督……
2日待ったが返事はないか! 我らの言葉すら分からないとは……そんな蛮族など捻り潰してやる。それにしても、あんな小さな要塞攻略にイスパニア艦隊60隻、ポルトガル艦隊40隻の合計で100隻もの大連合艦隊など必要だったのだろうか?
新イスパニア領を占領され、国王の面子を潰されたのは分かる。
しかし、世界各地に散らばったガレオン船を掻き集めた上に、ポルトガル国王に頼み込んでまで、この大連合艦隊を結成したと聞いた。王は自国の艦隊を信用しておられないのか? 60隻もあれば十分だと思うぞ。
ポルトガル国王なんぞに借りを作る必要などないではないか!
とにかくこの60隻も多い。イスパニア艦隊の5隻は周辺の調査に向かわせよう。他にも港があるかも知れないからな。
……工藤祐長……
要塞に日本の旗を掲げろ。
「オー!」
兵たちの士気が一段と上がったな。我が国の旗印というのは良いものだ!
「敵艦隊は間もなく砲撃してくるだろう。砲撃が終わるまで、要塞の壁に身を隠してじっとしておけ。敵兵を乗せた短艇がこちらに向かい始めたら。迫撃砲や大型ライフルを持って壁の上に登るのだ。敵艦隊の迎撃体制を取るぞ!」
「オー!」
兵たちが力強く返事をする。
イスパニアだか、何だか知らないが! 長い間、戦ばかりしてきた国の人間を舐めんなよ! 返り討ちにしてやる!
……連合艦隊 ポルトガル軍提督……
「おい! あの旗は日本軍の旗じゃないか! 悪魔の旗じゃないか! もたもたしていたら奴らの恐ろしい艦隊がやってきてしまう! ここから離脱する準備を始めるのだ」
「提督! それではイスパニア軍との協約違反になります!」
「おまえも覚えているだろ! あの日本艦隊が来るのだぞ! 勝てるはずがないではないか! どうせイスパニアの奴らは全員始末されるに決まっている。死人に口なしだ。いくらでも言い訳などできる。心配するな!」
……連合艦隊 イスパニア軍提督……
「要塞に旗が上がった。奴らはやっとやる気になったようだな。捻り潰してやろうじゃないか! 要塞を砲撃するぞ! 要塞に180ブラサ(300m)まで接近しろと全艦隊に連絡しろ! 要塞の奴らに艦船の多さを見せつけてやるのだ! 移動が終わりしだい、イスパニア艦隊の10隻から、要塞に砲弾を撃ち込ませろ。200発の砲弾が撃ち込まれれば心が折れるに決まっている」
「提督! 了解しました! 全艦隊に連絡します」
イスパニア軍は移動を開始する。しかし……ポルトガル艦隊は動かないのだ。
「提督! ポルトガル艦隊が動きません!」
「何だと! もう一度連絡しろ!」
……連合艦隊 ポルトガル軍提督……
我が艦隊は動かんぞ! 当たり前だ! 日本艦隊が攻めてくるのだ! イスパニア艦隊を生贄にし、我が艦隊だけは逃げ延びればいいのだ。こんなところで大事な艦隊を失ったら、インドはどうにもならなくなるぞ! この艦隊はインドに向かわせるべきなのだ!
「提督! イスパニア艦隊から移動せよとの連絡が何度もきています」
「無視しろ!」
……連合艦隊 イスパニア軍提督……
なぜポルトガル艦隊は動かない! イスパニアを裏切るのか?
後で覚えていろよ! しかし奴らなどどうでもいい。5隻は調査に行かせてしまったが55隻もいれば十分ではないか。
「イスパニア艦隊だけで移動せよ」
「提督! 了解しました!」
イスパニア艦隊55隻は、要塞に300mくらいまで近づく。全艦が船舷を要塞に向ける。まずは10隻が砲撃を開始する。
ドーン! ドーン! ドーン! ドーン! ドーン! ドーン!
砲弾を撃ち込まれるものの要塞は沈黙したままである。
「要塞は沈黙したままか。外れ弾もあるだろうからな。10隻にもう一度砲撃をさせよ」
ドーン! ドーン! ドーン! ドーン! ドーン! ドーン!
砲弾を撃ち込むものの、相変わらず要塞は沈黙したままである。
「提督! 反応がありません! どうしますか?」
あの要塞には大砲さえも装備されていないのか! 港の守りに作られた要塞なのだろ! あり得ないだろう! 日本は大砲を持っていないのか? とんだお笑いじゃないか。
メキシコシティの総督を倒したというから手強い奴らだと思った。
しかし、大した敵ではないようだな。もともと上陸する兵はイスパニアの兵だけの予定なのだ。ポルトガル艦隊などいないものと考え、イスパニア兵だけで要塞を攻撃させるぞ!
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